十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
世間ノ中。楊朱墨翟カ儒ヲ非スル。孟軻カ楊墨ヲ非ス。皆ソノ得ル所ヲ是トシ。其學ヒシコトヲ本トス。其人ヨリ云ハ可ナリ。若此十善ノ法ヨリ見ハ。各各長處アリテ其用處障礙ナキシヤ。孝悌仁義ノ道ヲ以テ士大夫ノ子弟ヲ教シムルニハ。孟軻ヲ用ヘシ。國用儉ヲ守リ。財穀ノ出入ヲ愼ミ。封疆ノ守禦ヲナスニハ。墨翟ヲ用フヘシ。孫吳管晏カ類。田文商鞅カ類。陳仲子許行カ類。司馬相如楊雄カ類。程願朱熹カ類モ。皆用ル處ガアルヘキコトシヤ。此各各長處アリテ其用ムナシカラヌ。各各短處アリテ事ニ觸テ滯リアルカ。ミナ世間ノアリ通リト云モノシヤ。此アリ通リカ此戒ノ趣シヤ。喩ハ鳥ハ空ニ飛デ。水ニ入ルコトナラス。魚ハ水ニ游テ。陸地ニ上ルコトナラヌ如クシヤ。面白キコトシヤ。
新字:世間ノ中。楊朱墨翟カ儒ヲ非スル。孟軻カ楊墨ヲ非ス。皆ソノ得ル所ヲ是トシ。其学ヒシコトヲ本トス。其人ヨリ云ハ可ナリ。若此十善ノ法ヨリ見ハ。各各長処アリテ其用処障礙ナキシヤ。孝悌仁義ノ道ヲ以テ士大夫ノ子弟ヲ教シムルニハ。孟軻ヲ用ヘシ。国用倹ヲ守リ。財穀ノ出入ヲ慎ミ。封疆ノ守禦ヲナスニハ。墨翟ヲ用フヘシ。孫呉管晏カ類。田文商鞅カ類。陳仲子許行カ類。司馬相如楊雄カ類。程願朱熹カ類モ。皆用ル処ガアルヘキコトシヤ。此各各長処アリテ其用ムナシカラヌ。各各短処アリテ事ニ触テ滞リアルカ。ミナ世間ノアリ通リト云モノシヤ。此アリ通リカ此戒ノ趣シヤ。喩ハ鳥ハ空ニ飛デ。水ニ入ルコトナラス。魚ハ水ニ游テ。陸地ニ上ルコトナラヌ如クシヤ。面白キコトシヤ。
書き下し
世間ノ中。楊朱墨翟カ儒ヲ非スル。孟軻カ楊墨ヲ非ス。皆ソノ得ル所ヲ是トシ。其学ヒシコトヲ本トス。其人ヨリ云ハ可ナリ。若此十善ノ法ヨリ見ハ。各各長処アリテ其用処障礙ナキシヤ。孝悌仁義ノ道ヲ以テ士大夫ノ子弟ヲ教シムルニハ。孟軻ヲ用ヘシ。国用倹ヲ守リ。財穀ノ出入ヲ慎ミ。封疆ノ守禦ヲナスニハ。墨翟ヲ用フヘシ。孫吳管晏カ類。田文商鞅カ類。陳仲子許行カ類。司馬相如楊雄カ類。程願朱熹カ類モ。皆用ル処ガアルヘキコトシヤ。此各各長処アリテ其用ムナシカラヌ。各各短処アリテ事ニ触テ滞リアルカ。ミナ世間ノアリ通リト云モノシヤ。此アリ通リカ此戒ノ趣シヤ。喩ハ鳥ハ空ニ飛デ。水ニ入ルコトナラス。魚ハ水ニ游テ。陸地ニ上ルコトナラヌ如クシヤ。面白キコトシヤ。
現代語訳
世間の中では、楊朱や墨翟が儒を非難し、孟軻(孟子)が楊朱や墨翟を非難した。みなその得たところを是とし、その学んだことを本とする。その人から言えばそれでよい。もしこの十善の法から見れば、それぞれ長所があって、その用いどころに妨げがないのである。孝悌仁義の道によって士大夫の子弟を教えさせるには、孟軻を用いるべきである。国の費用に倹約を守り、財や穀物の出入りを慎み、国境の守りをなすには、墨翟を用いるべきである。孫子・呉子・管仲・晏子の類、田文・商鞅の類、陳仲子・許行の類、司馬相如・揚雄の類、程頤・朱熹の類も、みな用いるところがあるはずのことである。このそれぞれに長所があってその用がむなしくなく、それぞれに短所があって事に触れて滞りがあるのが、みな世間のありのままというものである。このありのままが、この戒の趣である。たとえば、鳥は空を飛んで水に入ることができず、魚は水を泳いで陸に上がることができないようなものである。面白いことである。
解説
この章句が説くこと
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