十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
要ヲ取テ云ハ。言ハヌ處ニ言語ノ德ハ全ク。思ハヌ處ニ心念ノ德ハ具ル。山カ自カラ山ト云ハヌ。山ト思ハヌ。山ノ德ハ此ニ全イ。海カ自ラ海ト云ハヌ。海ト思ハヌ。海ノ德ハ此ニ全イ。天カ自カラ天ト云ハヌ。天ト思ハヌ。地カ自ラ地ト云ハヌ。地ト思ハヌ。天地ノ德ハ此ニ全イ。四時行ハレ。百物生ルシヤ。眼ガ自ラ眼ト云ハヌ。眼ト思ハヌ。眼ノ德ハ此ニ全イ。古往今來如是シヤ。此德頑空無記デナイ。感アレハ必ス通スル。各各神靈アリテ常ニ人事ニ應スルシヤ。耳ガ自ラ耳ト云ハヌ。耳ト思ハヌ。耳ノ德ハ此ニ全イ。鼻ガ自カラ鼻ト云ハヌ。鼻ト思ハヌ。鼻ノ德ハ此ニ全イ。舌ガ自カラ舌ト云ハヌ。舌ト思ハヌ。舌ノ德ハ此ニ全イ。身ガ自カラ身ト云ハヌ。身ト思ハヌ。身ノ德ハ此ニ全イ。古往今來如是シヤ。此德頑空無記テナイ。常ニ人間ニ隨逐シテ迷トナリ悟トナル。苦トナリ樂トナル。意ガ自カラ意ト云ハヌ。意ト思ハヌ。意ノ德ハ此ニ全イ。古往今來如是シヤ。此德頑空無記テナイ。萬象ノ主トナリ。迷悟ノ基トナル。
新字:要ヲ取テ云ハ。言ハヌ処ニ言語ノ徳ハ全ク。思ハヌ処ニ心念ノ徳ハ具ル。山カ自カラ山ト云ハヌ。山ト思ハヌ。山ノ徳ハ此ニ全イ。海カ自ラ海ト云ハヌ。海ト思ハヌ。海ノ徳ハ此ニ全イ。天カ自カラ天ト云ハヌ。天ト思ハヌ。地カ自ラ地ト云ハヌ。地ト思ハヌ。天地ノ徳ハ此ニ全イ。四時行ハレ。百物生ルシヤ。眼ガ自ラ眼ト云ハヌ。眼ト思ハヌ。眼ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記デナイ。感アレハ必ス通スル。各各神霊アリテ常ニ人事ニ応スルシヤ。耳ガ自ラ耳ト云ハヌ。耳ト思ハヌ。耳ノ徳ハ此ニ全イ。鼻ガ自カラ鼻ト云ハヌ。鼻ト思ハヌ。鼻ノ徳ハ此ニ全イ。舌ガ自カラ舌ト云ハヌ。舌ト思ハヌ。舌ノ徳ハ此ニ全イ。身ガ自カラ身ト云ハヌ。身ト思ハヌ。身ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記テナイ。常ニ人間ニ随逐シテ迷トナリ悟トナル。苦トナリ楽トナル。意ガ自カラ意ト云ハヌ。意ト思ハヌ。意ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記テナイ。万象ノ主トナリ。迷悟ノ基トナル。
書き下し
要ヲ取テ云ハ。言ハヌ処ニ言語ノ徳ハ全ク。思ハヌ処ニ心念ノ徳ハ具ル。山カ自カラ山ト云ハヌ。山ト思ハヌ。山ノ徳ハ此ニ全イ。海カ自ラ海ト云ハヌ。海ト思ハヌ。海ノ徳ハ此ニ全イ。天カ自カラ天ト云ハヌ。天ト思ハヌ。地カ自ラ地ト云ハヌ。地ト思ハヌ。天地ノ徳ハ此ニ全イ。四時行ハレ。百物生ルシヤ。眼ガ自ラ眼ト云ハヌ。眼ト思ハヌ。眼ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記デナイ。感アレハ必ス通スル。各各神霊アリテ常ニ人事ニ応スルシヤ。耳ガ自ラ耳ト云ハヌ。耳ト思ハヌ。耳ノ徳ハ此ニ全イ。鼻ガ自カラ鼻ト云ハヌ。鼻ト思ハヌ。鼻ノ徳ハ此ニ全イ。舌ガ自カラ舌ト云ハヌ。舌ト思ハヌ。舌ノ徳ハ此ニ全イ。身ガ自カラ身ト云ハヌ。身ト思ハヌ。身ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記テナイ。常ニ人間ニ随逐シテ迷トナリ悟トナル。苦トナリ楽トナル。意ガ自カラ意ト云ハヌ。意ト思ハヌ。意ノ徳ハ此ニ全イ。古往今来如是シヤ。此徳頑空無記テナイ。万象ノ主トナリ。迷悟ノ基トナル。
現代語訳
要点をつかんで言えば、言わないところに言葉の徳は全く、思わないところに心の徳は具わる。山はみずから山とは言わない。山とは思わない。山の徳はここに全い。海はみずから海とは言わない。海とは思わない。海の徳はここに全い。天はみずから天とは言わない。天とは思わない。地はみずから地とは言わない。地とは思わない。天地の徳はここに全い。四季がめぐり、あらゆるものが生じるのである。眼はみずから眼とは言わない。眼とは思わない。眼の徳はここに全い。昔から今までこのようである。この徳はただ空っぽで善悪のないものではない。感じるところがあれば必ず通じる。それぞれに神霊があって、常に人の事に応じるのである。耳はみずから耳とは言わない。耳とは思わない。耳の徳はここに全い。鼻はみずから鼻とは言わない。鼻とは思わない。鼻の徳はここに全い。舌はみずから舌とは言わない。舌とは思わない。舌の徳はここに全い。身はみずから身とは言わない。身とは思わない。身の徳はここに全い。昔から今までこのようである。この徳はただ空っぽで善悪のないものではない。常に人に付き従って、迷いとなり悟りとなる。苦となり楽となる。意はみずから意とは言わない。意とは思わない。意の徳はここに全い。昔から今までこのようである。この徳はただ空っぽで善悪のないものではない。万象の主となり、迷いと悟りの基となる。
解説

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『翁問答』上卷之末体充曰、儒門の心学をきはめずして、軍法に達し軍法をたてゝ、その名たかき大将、倭漢ともに古来多く候へば、心学のみがきなくても、軍法のまなびはなり申べく候、しかるにまづ儒門の心学をきはめてのちに軍法をまなびたるがよしと仰せられ候は不審に存候。師の曰、よきうたがひにて候、大将の才を逞じく生れたる人は、心学のみがきなくても、軍法に達し軍功をば立るといへども、その徳なきゆへに才のたくまじきに迷ひ、必ず人を殺す事を好み、不義無道のふるまひあれば、万民その毒にあたりなげき悲むによつて、終には天罰をかうぶり、其身もほろび国も必ず絶滅するものなり、その証拠はもろこしにても我朝にても、其徳なくて才のみ逞しき大将に、其身難なく子孫繁昌したる人まれなり倭漢の史書にて考へ見るべし、
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論衡・『論衡』非韓篇第二十九・徳と力の両方を養う国を治むるの道、養う所二つ有り。一に曰く徳を養う、二に曰く力を養う。徳を養う者は、名の高き人を養い、以て能く賢を敬うを示す。力を養う者は、気力の士を養い、以て能く兵を用うるを明らかにす。此れ所謂文武張り設けられ、徳力具足する者なり。事は或いは徳を以て懐くべく、或いは力を以て摧くべし。外は徳を以て自ら立ち、内は力を以て自ら備う。徳を慕う者は戦わずして服し、徳を犯す者は兵を畏れて却く。徐の偃王は仁義を修行し、陸地に朝する者三十二国、強楚聞きて、兵を挙げて之を滅ぼす。此れ徳の守り有りて、力の備え無き者なり。夫れ徳は独り任じて以て国を治むべからず、力は直ちに任じて以て敵を御すべからざるなり。韓子の術は徳を養わず、偃王の操は力を任ぜず。二者偏駁にして、各おの足らざる有り。