十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
今一ノ緣事ヲ擧ハ。律藏ノ中ニ。佛廣嚴城ニ在セシトキ。此毗耶離城諸栗咕毗ト。摩竭陀國未生怨王ト。互ニ鬪戰ヲ催セシ時。目連尊者日ノ初分ニ廣嚴城ニ入テ分衞ス。城中ノ栗咕毗衆尊者ヲ見テ問フ。兩陣交戰ス。誰當勝耶ト。尊者答テ云。汝等得勝ト。彼者此言ヲ聞テ。共ニ相謂テ曰。聖者目連與我等記。戰當得勝。羅漢ニ虛言ナシト。勇氣百倍シテ陣ニ臨ム。初テ鉾ヲ交ルニ。摩竭陀ノ軍敗北ス。毗耶離ノ兵。勝ニ乘シテ。追テ殑伽河ノ岸ニ至ル。未生怨王自ラ念ス。今日此河ヲ渡ラハ。彼來テ我ヲ捕ルコト。網中ニ魚ヲ取カ如シト。速ニ軍中ニ令シ。兵ヲ廻シテ戰フ。ソノ時摩竭陀ノ軍士悲憤シテ陣ニ臨ミ。一以テ十ニ當ル。栗咕毗衆大ニ敗走シ。城ニ入リ門ヲ閉テ固ク守ル。
新字:今一ノ縁事ヲ挙ハ。律蔵ノ中ニ。仏広厳城ニ在セシトキ。此毗耶離城諸栗咕毗ト。摩竭陀国未生怨王ト。互ニ闘戦ヲ催セシ時。目連尊者日ノ初分ニ広厳城ニ入テ分衛ス。城中ノ栗咕毗衆尊者ヲ見テ問フ。両陣交戦ス。誰当勝耶ト。尊者答テ云。汝等得勝ト。彼者此言ヲ聞テ。共ニ相謂テ曰。聖者目連与我等記。戦当得勝。羅漢ニ虚言ナシト。勇気百倍シテ陣ニ臨ム。初テ鉾ヲ交ルニ。摩竭陀ノ軍敗北ス。毗耶離ノ兵。勝ニ乗シテ。追テ殑伽河ノ岸ニ至ル。未生怨王自ラ念ス。今日此河ヲ渡ラハ。彼来テ我ヲ捕ルコト。網中ニ魚ヲ取カ如シト。速ニ軍中ニ令シ。兵ヲ廻シテ戦フ。ソノ時摩竭陀ノ軍士悲憤シテ陣ニ臨ミ。一以テ十ニ当ル。栗咕毗衆大ニ敗走シ。城ニ入リ門ヲ閉テ固ク守ル。
書き下し
今一ノ縁事ヲ挙ハ。律蔵ノ中ニ。仏広厳城ニ在セシトキ。此毗耶離城諸栗咕毗ト。摩竭陀国未生怨王ト。互ニ闘戦ヲ催セシ時。目連尊者日ノ初分ニ広厳城ニ入テ分衛ス。城中ノ栗咕毗衆尊者ヲ見テ問フ。両陣交戦ス。誰当勝耶ト。尊者答テ云。汝等得勝ト。彼者此言ヲ聞テ。共ニ相謂テ曰。聖者目連与我等記。戦当得勝。羅漢ニ虚言ナシト。勇気百倍シテ陣ニ臨ム。初テ鉾ヲ交ルニ。摩竭陀ノ軍敗北ス。毗耶離ノ兵。勝ニ乗シテ。追テ殑伽河ノ岸ニ至ル。未生怨王自ラ念ス。今日此河ヲ渡ラハ。彼来テ我ヲ捕ルコト。網中ニ魚ヲ取カ如シト。速ニ軍中ニ令シ。兵ヲ廻シテ戦フ。ソノ時摩竭陀ノ軍士悲憤シテ陣ニ臨ミ。一以テ十ニ当ル。栗咕毗衆大ニ敗走シ。城ニ入リ門ヲ閉テ固ク守ル。
現代語訳
今一つの縁となる事例を挙げれば、律蔵の中に次のようにある。仏が広厳城におられたとき、この毘耶離城の栗咕毘の人々と、摩竭陀国の未生怨王(阿闍世王)とが、互いに戦を起こそうとした。目連尊者が朝早くに広厳城に入って托鉢した。城中の栗咕毘の人々が尊者を見て尋ねた。両陣が戦います。どちらが勝つでしょうか、と。尊者は答えて言った。あなたがたが勝つ、と。彼らはこの言葉を聞いて、互いに言い合った。聖者目連が我らに予言された。戦えば必ず勝つと。阿羅漢に嘘はない、と。勇気百倍して陣に臨んだ。初めて矛を交えると、摩竭陀の軍が敗北した。毘耶離の兵は勝ちに乗じて、追って殑伽河(ガンジス河)の岸に至った。未生怨王はみずから思った。今日この河を渡ったら、彼らが来て私を捕らえるのは、網の中の魚を取るようなものだ、と。すみやかに軍中に命じ、兵を返して戦った。そのとき摩竭陀の軍士は悲しみ憤って陣に臨み、一人で十人に当たった。栗咕毘の人々は大いに敗走し、城に入って門を閉じて固く守った。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
孫子・用間篇五間の事は、主必ず之を知る。之を知るは必ず反間に在り、故に反間は厚くせざるべからざるなり。
-
『呻吟語』外篇・品藻・這は是れ甚麼の心腸ぞ而今講學は道を明らかにするが為ならず、只だ勝を角ふるが為なり。字面詞語の間に一點半點の錯を拿み住めば、便ち連篇累牘して辨じて個の足るを要す。這は是れ甚麼の心腸ぞ。甚の學問をか講ず。
-
孫子・形篇是の故に勝兵はまず勝ちて後に戦い、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求む。
-
孫子・始計篇凡そ此の五者は、将は聞かざるは莫きも、之を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。
-
孫子・形篇勝たざるは己に在り、勝つは敵に在り。
-
孫子・行軍篇故に兵は益々多きを貴ぶに非ざるなり。惟だ武進する無く、以て力を併せ、敵を料り、人を取るに足るのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒らわる。