十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
兄弟ノ間ニ嫌疑ナイ。兄弟嫌疑ナケレハ。兄ハ自ラ友愛。此ニ定ツタコトシヤ。此友愛外ヨリ來ルテナイ。兄トナレハ緣起法トシテ如是シヤ。弟ハ自ラ悌順。此ニ定ツタコトシヤ。此悌順外ヨリ來ルテナイ。弟トナレハ緣起法トシテ如是シヤ。周公康叔ノ如キモ。伯夷叔齊ノ如キモ。珍シキコトデハナイ。謝康樂カ夢ニ惠連ヲ見テ。池塘生春草ノ句ヲ得モ。法爾ノ理シヤ。君臣ノ間嫌疑ナイ。嫌疑ナケレハ。君ハ才ヲ量テ用ヒ。能ヲ擇テ任スルニ定ツタコトシヤ。此任用外ヨリ來ルテナイ。君トナレハ緣起法トシテ如是シヤ。臣ハ自ラ忠義アル。此ニ定タコトシヤ。此忠義外ヨリ來ルテナイ。臣ナレハ緣起法トシテ如是シヤ。堯ノ舜禹ヲ用ヒ。湯ノ伊尹ヲ用ルモ。珍シキコトテナイ。田單カ齊ヲ存スル。申包胥カ楚ヲ存スルモ。珍シキコトデハナイ。
新字:兄弟ノ間ニ嫌疑ナイ。兄弟嫌疑ナケレハ。兄ハ自ラ友愛。此ニ定ツタコトシヤ。此友愛外ヨリ来ルテナイ。兄トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。弟ハ自ラ悌順。此ニ定ツタコトシヤ。此悌順外ヨリ来ルテナイ。弟トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。周公康叔ノ如キモ。伯夷叔斉ノ如キモ。珍シキコトデハナイ。謝康楽カ夢ニ恵連ヲ見テ。池塘生春草ノ句ヲ得モ。法爾ノ理シヤ。君臣ノ間嫌疑ナイ。嫌疑ナケレハ。君ハ才ヲ量テ用ヒ。能ヲ択テ任スルニ定ツタコトシヤ。此任用外ヨリ来ルテナイ。君トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。臣ハ自ラ忠義アル。此ニ定タコトシヤ。此忠義外ヨリ来ルテナイ。臣ナレハ縁起法トシテ如是シヤ。堯ノ舜禹ヲ用ヒ。湯ノ伊尹ヲ用ルモ。珍シキコトテナイ。田単カ斉ヲ存スル。申包胥カ楚ヲ存スルモ。珍シキコトデハナイ。
書き下し
兄弟ノ間ニ嫌疑ナイ。兄弟嫌疑ナケレハ。兄ハ自ラ友愛。此ニ定ツタコトシヤ。此友愛外ヨリ来ルテナイ。兄トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。弟ハ自ラ悌順。此ニ定ツタコトシヤ。此悌順外ヨリ来ルテナイ。弟トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。周公康叔ノ如キモ。伯夷叔斉ノ如キモ。珍シキコトデハナイ。謝康楽カ夢ニ恵連ヲ見テ。池塘生春草ノ句ヲ得モ。法爾ノ理シヤ。君臣ノ間嫌疑ナイ。嫌疑ナケレハ。君ハ才ヲ量テ用ヒ。能ヲ択テ任スルニ定ツタコトシヤ。此任用外ヨリ来ルテナイ。君トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。臣ハ自ラ忠義アル。此ニ定タコトシヤ。此忠義外ヨリ来ルテナイ。臣ナレハ縁起法トシテ如是シヤ。堯ノ舜禹ヲ用ヒ。湯ノ伊尹ヲ用ルモ。珍シキコトテナイ。田単カ斉ヲ存スル。申包胥カ楚ヲ存スルモ。珍シキコトデハナイ。
現代語訳
兄弟の間に疑いがない。兄弟に疑いがなければ、兄はおのずから友愛する。これは定まったことである。この友愛は外から来るのではない。兄となれば縁起の法としてそうなのである。弟はおのずから悌順である。これは定まったことである。この悌順は外から来るのではない。弟となれば縁起の法としてそうなのである。周公と康叔のようなのも、伯夷と叔斉のようなのも、珍しいことではない。謝康楽が夢に恵連を見て、池塘に春草生ず、の句を得たのも、自然の理である。君臣の間に疑いがない。疑いがなければ、君は才を量って用い、能力を選んで任せるのが定まったことである。この任用は外から来るのではない。君となれば縁起の法としてそうなのである。臣はおのずから忠義がある。これは定まったことである。この忠義は外から来るのではない。臣となれば縁起の法としてそうなのである。堯が舜と禹を用い、湯が伊尹を用いたのも、珍しいことではない。田単が斉を存続させ、申包胥が楚を存続させたのも、珍しいことではない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
説苑・立節楚の平王、奮揚をして太子建を殺さしむ。未だ至らざるに之を遣る。太子宋に奔る。王奮揚を召し、城父の人をして之を執えて以て至らしむ。王曰わく、「言予が口より出でて、爾が耳に入る、誰か建に告げしや」と。対えて曰わく、臣之に告げたり。王初め臣に命じて曰わく、「建に事うること予に事うるが如くせよ」と。臣佞ならず、貳する能わず。初めを奉じて以て還り、故に之を遣る。已にして之を悔ゆるも、亦及ぶ無し、と。王曰わく、「而敢えて来たるは、何ぞや」と。対えて曰わく、「使いして命を失えば、召されて来たらず、是れ過を重ぬるなり。逃るるも入る所無し」と。王乃ち之を赦す。
-
説苑・立節斉人に子蘭子なる者有り。白公勝に事う。勝将に難を為さんとし、乃ち子蘭子に告げて曰わく、「吾将に大事を国に挙げんとす、子と共にせんことを願う」と。子蘭子曰わく、「我子に事えて子と与に君を殺すは、是れ子の不義を助くるなり。患を畏れて子を去るは、是れ子を難に遁るるなり。故に子と与に君を殺して以て吾が義を成さず、領を庭に契りて、以て吾が行いを遂げん」と。
-
説苑・立節晋の献公の時、士有り、狐突と曰う。太子申生に傅たり。公驪姫を立てて夫人と為し、国憂い多し。狐突疾と称して出でず。六年、献公譖を以て太子を誅す。太子将に死せんとし、人をして狐突に謂わしめて曰わく、「吾が君老いたり、国家難多し。傅一たび出でて以て吾が君を輔けよ。申生賜を受けて以て死すとも恨みず」と。再拝稽首して死す。狐突乃ち復た献公に事う。三年、献公卒す。狐突諸大夫に辞して曰わく、「突太子の詔を受く。今事終われり。其の久しく乱世に生くるよりは、死して太子に報ゆるに若かず」と。乃ち帰りて自殺す。
-
葉隠・聞書第一敵を討ち取りたるよりは、主の為に死にたるが手柄なり。継信(つぐのぶ)が忠義に知られたり。
-
葉隠・聞書第一楠木正成(くすのきまさしげ)兵庫記(ひょうごき)の中に、「降参(こうさん)と云ふことは、謀(はかりごと)にても君のためにても、武士のせることなり。」とあり。忠臣は斯(か)くの如(ごと)くあるべきこととなり。
-
葉隠・聞書第二御位牌(ごいはい)釈迦堂より御移しなされ候を、何某(なにがし)見附け候て、申し達すべきやと、相談申され候に付て、「尤もの事に候。斯様(かよう)の儀は御無用に候。然れども仰せ達せらるる儀は御存じ寄り候人、今時、御手前ならではこれなき事に候。斯様の儀は御存じ寄り候て、申し達すべきやと、相談申され、御手前御外聞(ごがいぶん)よくなり申す事に候。若し相済まざる時は、いよいよ宜しからざる儀と取沙汰仕り、御手前御外聞ばかりよく候。悪事は我が身にかぶり申すこそ当介(とうかい)にて候。今の如くして先づ召し置かれ候時は、誰ぞ気の附き申す者もこれなく、何の沙汰もなく相済み申す事に候。さ候て、何時ぞ、時節次第沙汰なしに、元の如く御直り候様に致す様これあるべく候。」と申し候て、差し留め置き申し候。斯様の事にて、上の御不調法、世間に知れ申す事これある儀に候。心を附け罷り在り候へば、しかと、よき時節がふり来るものに候。大方、悪事は内輪から言い崩すもの、親子兄弟入魂(じっこん)の間などは格別と存じ、隠密沙汰なしなどと申し候て話し候へば、やがてひろがり、後に自国他国日本国に洩れ聞え申す事、間もなきものに候。又下人あたり其の外、内証(ないしょう)にて仕方悪しき人は、やがて世上に悪名唱え申し候。内輪ほど慎み申すべき事なり。