十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
ヨク此戒ヲ護持スル者ハ。在家ニモセヨ。出家ニモセヨ。道カ身心ノ中ニ備ハルシヤ。初ニ口過ヲ守テ兩舌離間語セヌ。世ニ處シテ自ラ嫌疑ナイ。他ノ親好ヲ見テ喜ブ。他ノ不和合ヲ見テ憂戚スル。此心二六時中相應スル。事ニフレテ相違セヌ。時ニ隨テ增長スルシヤ。俗中ニ在テ。先父子ノ間嫌疑ナイ。父子嫌疑ナケレハ。父ハ自ラ慈。母ハ自ラ悲。此ニ定マツタコトシヤ。此慈悲外ヨリ來ルデナイ。父母トナレバ緣起法トシテ如是シヤ。子ハ自ラ孝行ヲ盡ス。此ニ定タコトシヤ。此孝外ヨリ來ルデナイ。子トナレハ緣起法トシテ如是シヤ。漢ノ世ニ電錯カ父其子ノ智術ヲ逞スルヲ憂テ。吾不忍見禍逮身ト云テ。自ラ毒藥ヲ飮テ死タト云コトシヤ。此ハ父タル者ノ慈心。ソノ子ヲ感セシムル志ナルヘシ。又王陵カ母カ敵國ニ捕レテ。自ラ劒ニ伏シテ死タト云コトシヤ。此ハ其子ニ忠義ヲ全セシムル志ナルヘシ。變ニ處シテハカクモアルヘシ。珍シキコトデハナイ。虞舜曾子ノ孝モカクアルヘシ。珍シキコトテハナイ。
新字:ヨク此戒ヲ護持スル者ハ。在家ニモセヨ。出家ニモセヨ。道カ身心ノ中ニ備ハルシヤ。初ニ口過ヲ守テ両舌離間語セヌ。世ニ処シテ自ラ嫌疑ナイ。他ノ親好ヲ見テ喜ブ。他ノ不和合ヲ見テ憂戚スル。此心二六時中相応スル。事ニフレテ相違セヌ。時ニ随テ增長スルシヤ。俗中ニ在テ。先父子ノ間嫌疑ナイ。父子嫌疑ナケレハ。父ハ自ラ慈。母ハ自ラ悲。此ニ定マツタコトシヤ。此慈悲外ヨリ来ルデナイ。父母トナレバ縁起法トシテ如是シヤ。子ハ自ラ孝行ヲ尽ス。此ニ定タコトシヤ。此孝外ヨリ来ルデナイ。子トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。漢ノ世ニ電錯カ父其子ノ智術ヲ逞スルヲ憂テ。吾不忍見禍逮身ト云テ。自ラ毒薬ヲ飲テ死タト云コトシヤ。此ハ父タル者ノ慈心。ソノ子ヲ感セシムル志ナルヘシ。又王陵カ母カ敵国ニ捕レテ。自ラ劒ニ伏シテ死タト云コトシヤ。此ハ其子ニ忠義ヲ全セシムル志ナルヘシ。変ニ処シテハカクモアルヘシ。珍シキコトデハナイ。虞舜曽子ノ孝モカクアルヘシ。珍シキコトテハナイ。
書き下し
ヨク此戒ヲ護持スル者ハ。在家ニモセヨ。出家ニモセヨ。道カ身心ノ中ニ備ハルシヤ。初ニ口過ヲ守テ両舌離間語セヌ。世ニ処シテ自ラ嫌疑ナイ。他ノ親好ヲ見テ喜ブ。他ノ不和合ヲ見テ憂戚スル。此心二六時中相応スル。事ニフレテ相違セヌ。時ニ随テ增長スルシヤ。俗中ニ在テ。先父子ノ間嫌疑ナイ。父子嫌疑ナケレハ。父ハ自ラ慈。母ハ自ラ悲。此ニ定マツタコトシヤ。此慈悲外ヨリ来ルデナイ。父母トナレバ縁起法トシテ如是シヤ。子ハ自ラ孝行ヲ尽ス。此ニ定タコトシヤ。此孝外ヨリ来ルデナイ。子トナレハ縁起法トシテ如是シヤ。漢ノ世ニ電錯カ父其子ノ智術ヲ逞スルヲ憂テ。吾不忍見禍逮身ト云テ。自ラ毒薬ヲ飲テ死タト云コトシヤ。此ハ父タル者ノ慈心。ソノ子ヲ感セシムル志ナルヘシ。又王陵カ母カ敵国ニ捕レテ。自ラ劒ニ伏シテ死タト云コトシヤ。此ハ其子ニ忠義ヲ全セシムル志ナルヘシ。変ニ処シテハカクモアルヘシ。珍シキコトデハナイ。虞舜曽子ノ孝モカクアルヘシ。珍シキコトテハナイ。
現代語訳
よくこの戒を護持する者は、在家であれ出家であれ、道が身と心の中に備わるのである。初めに口の過ちを守って、両舌や離間の言葉を言わない。世に処してみずから疑われることがない。他人が親しいのを見て喜ぶ。他人が不和なのを見て憂え悲しむ。この心が一日中相応する。事に触れて食い違わない。時とともに増していくのである。世俗の中にあっては、まず父子の間に疑いがない。父子に疑いがなければ、父はおのずから慈しみ、母はおのずから哀れむ。これは定まったことである。この慈悲は外から来るのではない。父母となれば縁起の法としてそうなのである。子はおのずから孝行を尽くす。これは定まったことである。この孝は外から来るのではない。子となれば縁起の法としてそうなのである。漢の世に、鼂錯の父がその子が智術をたくましくするのを憂えて、私は禍が身に及ぶのを見るに忍びない、と言って、自分で毒薬を飲んで死んだということだ。これは父たる者の慈心が、その子を感じさせようとする志であろう。また王陵の母が敵国に捕らえられて、自分で剣に伏して死んだということだ。これはその子に忠義を全うさせようとする志であろう。変事に処してはこういうこともあるだろう。珍しいことではない。虞舜や曾子の孝もこのようであるはずだ。珍しいことではない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
論語・為政篇子游孝を問う。子曰く、「今の孝者は、是れ能く養うと謂う。犬馬に至るまで、皆能く養うこと有り。敬せずんば、何を以て別たんや。」
-
論語・為政篇子夏孝を問う。子曰く、「色難し。事有れば弟子其の労に服し、酒食有れば先生に饌(まかな)う。曾て是を以て孝と為さんや。」
-
論語・学而篇子曰く、「父在せば其の志を観、父没すれば其の行いを観る。三年父の道を改むること無くんば、孝と謂う可し。」
-
論語・為政篇孟懿子孝を問う。子曰く、「違(たが)うこと無かれ。」樊遅御(ぎょ)す。子之に告げて曰く、「孟孫我に孝を問う。我対えて曰く、違(たが)うこと無かれと。」樊遅が曰く、「何の謂(いい)ぞや。」子曰く、「生きては之に事(つか)うるに礼を以てし、死しては之を葬るに礼を以てし、之を祭るに礼を以てす。」
-
論語・為政篇孟武伯孝を問う。子曰く、「父母は唯其の疾(やまい)を之憂う。」
-
論語・里仁篇子曰く、三年父の道を改むること無きは、孝と謂う可し。