十善法語 / 巻第七・不兩舌戒
此戒法性ヨリ等流シ來テ。今日現今。事事物物ノ上ニ相違セヌシヤ。此友愛親好。天地ノ道シヤ。萬物ノ情シヤ。看ヨ。天地ノ間。此事アリ此物アリテ。或ハ各各相應シ。或ハ相制スル。物獨立セヌ。事獨リ成ゼヌ。左右相依。能所互ニ扶ケ。時ヲ得處ヲ得テ成立スルシヤ。古ニ雷出則萬物出。雷入則萬物入ト云類。星風ヲ好ミ。星雨ヲ好ムト云。雲從龍ト云類。ミナ友愛ノ德シヤ。不兩舌ノ功シヤ。世間ニ山アレハ川アル。峰アレハ谷アル。陸地アレハ海アル。春夏アレハ秋冬アル。刀劒アレハ甲冑アル。矛アレハ盾アル。公輸子カ器械アレハ墨翟カ防禦備ハルト云類。ミナ友愛ノ德。不兩舌ノ功シヤ。
新字:此戒法性ヨリ等流シ来テ。今日現今。事事物物ノ上ニ相違セヌシヤ。此友愛親好。天地ノ道シヤ。万物ノ情シヤ。看ヨ。天地ノ間。此事アリ此物アリテ。或ハ各各相応シ。或ハ相制スル。物独立セヌ。事独リ成ゼヌ。左右相依。能所互ニ扶ケ。時ヲ得処ヲ得テ成立スルシヤ。古ニ雷出則万物出。雷入則万物入ト云類。星風ヲ好ミ。星雨ヲ好ムト云。雲従竜ト云類。ミナ友愛ノ徳シヤ。不両舌ノ功シヤ。世間ニ山アレハ川アル。峰アレハ谷アル。陸地アレハ海アル。春夏アレハ秋冬アル。刀劒アレハ甲冑アル。矛アレハ盾アル。公輸子カ器械アレハ墨翟カ防禦備ハルト云類。ミナ友愛ノ徳。不両舌ノ功シヤ。
書き下し
此戒法性ヨリ等流シ来テ。今日現今。事事物物ノ上ニ相違セヌシヤ。此友愛親好。天地ノ道シヤ。万物ノ情シヤ。看ヨ。天地ノ間。此事アリ此物アリテ。或ハ各各相応シ。或ハ相制スル。物独立セヌ。事独リ成ゼヌ。左右相依。能所互ニ扶ケ。時ヲ得処ヲ得テ成立スルシヤ。古ニ雷出則万物出。雷入則万物入ト云類。星風ヲ好ミ。星雨ヲ好ムト云。雲従竜ト云類。ミナ友愛ノ徳シヤ。不両舌ノ功シヤ。世間ニ山アレハ川アル。峰アレハ谷アル。陸地アレハ海アル。春夏アレハ秋冬アル。刀劒アレハ甲冑アル。矛アレハ盾アル。公輸子カ器械アレハ墨翟カ防禦備ハルト云類。ミナ友愛ノ徳。不両舌ノ功シヤ。
現代語訳
この戒は法性から等しく流れ出てきて、今日ただ今、一つ一つの事物の上に食い違わないのである。この友愛親好は天地の道である。万物の情である。見よ。天地の間には、この事があり、この物があって、あるいはそれぞれ相応し、あるいは互いに制し合う。物は独りで立たず、事は独りでは成らない。左右が互いに依り、主と客が互いに助け、時を得て所を得て成り立つのである。古くから、雷が出れば万物が出て、雷が入れば万物が入る、という類、ある星は風を好み、ある星は雨を好むという、雲は龍に従うという類は、みな友愛の徳であり、不両舌の功である。世間には、山があれば川がある。峰があれば谷がある。陸地があれば海がある。春夏があれば秋冬がある。刀剣があれば甲冑がある。矛があれば盾がある。公輸子の攻城の器械があれば、墨翟の防御が備わるという類は、みな友愛の徳、不両舌の功である。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒君ノ臣ヲ用フル。其才ヲ量テ事ヲ任ス。名医ノ薬方ヲ用ル如ト云コトシヤ。臣ノ君ニ事フル。満分ニ君命ニ従テ。私ヲ顧ミヌト云コトシヤ。古ニ命ヲ聞テ奔走スルハ利ヲ好ム者ナリ。己ヲ直シテ道ヲ行フハ義ヲ好ム者ナリト云言モアレトモ。臣子タル者ノ大体ハ。命ヲ聞テハ奔走スベキシヤ。自他元来二ナキシヤ。友愛ノ心。法性等流シテ一切衆生ニ遍スル。心境元来別ナキシヤ。友愛ノ心。法性等流シテ一切世界ニ遍スル。凡聖元来融会ス。修証元来別ナシ。悉ク是友愛ノ心ヲ擴メ。此平等性ヲ成スル。初凡位ヨリ終リ法性相応シテ賢聖ノ地位ニ入ル。ミナ不両舌ノ徳シヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒此友愛ノ徳尤広大ナルニ由テ。此ニ反シテ両舌離間ハ至テ狭劣ナルコトシヤ。此友愛ノ徳尤尊尚ナルニ由テ。両舌離間語ノ語業ノ中ニ尤卑陋ナルコトシヤ。匹夫匹婦ノ利禄ニ走ル心ヨリ起リ。奸臣佞人ノ賢ヲ嫉ミ能ヲ害スル心ヨリ起テ。終ニ人ヲ敗リ自ラ害シ。家ヲ亡シ国ヲ覆カヘスシヤ。尊貴ノ人富饒ノ家ニハ。此両舌離間ノ語ハ相応セヌシヤ。威権当路ノ人清平ノ世ニハ。此両舌語相応セヌ。法トシテ如是ナル故。若此戒ヲ破スル者ハ。貴人ハ其位ヲ失フ。徳者ハ其徳ヲ失フ。威権当路ノ人ハ其威権ヲ失フ。人倫ノ賤ムルトコロ。神祇ノ憎ムトコロ天命ノ許サヌトコロ。法性ニ違背スル処シヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒安永三年甲午二月九日示衆。師云。今日ハ不両舌戒ヲ説シヤ。此戒ハ平等性シヤ。和合ノ徳シヤ。人ニ交テ友愛親好ノ心アルガ此戒ノ趣シヤ。菩薩ハ自ラ友愛親好ノ心ナルニ由テ。他ノ友愛親好ヲ喜ブ。誤テモ離間シテ他ノ親好ヲ破スルコトハナイ。此不両舌戒カ直ニ菩薩ノ本性タルシヤ。此心一分全キ者カ人間ノ当分シヤ。若衆ニ及フ者カ人民ノ主タル徳シヤ。此友愛親好。近クハ人ノ人タル道デ。家ニ在テ孝トナリ君ニ事テ忠トナリ。郷党朋友ノ交リ。ミナ和順スルシヤ。遠クハ縁ニフレテ法ヲ得ル。境ニ対シテ自心ヲ明ニスル。飛花落葉ニ無師自覚スル。一句一偈ノ中ニ無漏聖位ニ入ル。一切時一切処ミナ自心ト相応シテ。無上正覚ノ基本タルシヤ。通シテ世間ノ中ニ。小児ノトキ兄弟睦キ者カ。長スレハ必ス父母ニ孝順ノ子トナル。家ニ在テ父母ニ孝順ナル者。後君ニ事テ必ス忠義ノ臣トナル。此者カ出家スレハ。必ス正法ヲ光顕ニスル。此不両舌戒ハ其義広大ナルコトシヤ。仮令才芸中人ニ及ハス。智行庸流ニ異ナラヌ者モ。此友愛親好ノ心タニ全ケレハ。世間出世間ノ中ニ徳者タルベキシヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒妄想相続ノ中ニ此生死アルシヤ。此生死界ニモ。平等ノ性和合ノ徳ハ本来隠シ得ヌシヤ。生自カラ生ナラヌ。滅ニ対シテ仮ニ生ヲ現ス。滅自カラ滅ナラス。生ニ対シテ其相ヲ顕ハス。此隠顕ヲ捨レバ世界元来不可得シヤ。凡ソ世相ヲ分別スルハ。唯コノ隠顕ノミシヤ。此生死界中。内アレハ外アル。一アレハ二生スル。万般ノ世事紛紛トシテ起ル。此万般事物ノ上ニモ。平等ノ性和合ノ徳ハ本来隠シ得ヌシヤ。ナゼゾ。本ハ末ニ徹シテ麁細差ハヌ。末ハ本ノ如ク安立シテ左右ソノ源ニ逢フ。今日世ニ交リ人ニ朋フテ。心ニ偏党ナク。語セサレハ止ネ。語スレハ唯此友愛親好ト倶ナルヘキコトシヤ。一言一黙。人倫ノ全キ処。神祇ノ守護スル処。天命ノ在処。法性ノ随順スル処シヤ。法トシテ如是シヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒此十善ノ中。不両舌戒相ノ世間ニ顕ルルハ。面白キモノシヤ。経中ニ。色ノ辺際ニ極微ヲ説ク。此極微両両相合シテ万物化成スト云コトシヤ。心ノ辺際ニ一念ヲ説ク。此一念相似相続シテ。念相成就スト云コトシヤ。心自ラ心ナラス。境ニ対シテ是非得失ヲ成ス。境自ラ境ナラス。心ニ対シテ成壊起滅ス。且ク一類ノ業相牽来テ。此人間世界ガアル。物ニ随テ其道ガ顕ルル。リ処ニ随テ其智カ生スル。ミナ友愛親好ノ徳相ナラヌコトハナキシヤ。
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『十善法語』巻第七・不兩舌戒斯人ノ斯世ニ居スル。上天ヲ戴キ。下地ヲ履ム昼日事縁アリテ。夜分休息ス。父慈ニ子孝アル。君誘ヒ臣輔クル。コトコトク此戒ノ趣ナラヌコトハナイ。若天ヲ軽シ地ヲ侮ル。天地ハ何レトモ思ハネトモ。其人ハ災アルト云コトシヤ。夜分ニ作事アツテ。昼分睡眠スル。不祥ノ兆ト云コトシヤ。仮令子ハ孝行ナクトモ。父ハ慈悲ナルヘシ。此慈悲ト云モ。甘ヤカスコトテハナイ。其道アルシヤ。仮令父母ハ頑囂デモ。子ハ至孝ナルベシ。頑囂ノ目ニカカルハ。其子タル者ノ志デハナイ。一念モ父母ヲ軽スル心アルハ。自ラ福分ヲ減スルシヤ。