十善法語 / 巻第六・不惡口戒
此中一ノ因緣アリ。有信ノ者思惟スヘシ。法華經ニ。過去無量却ノ時ニ佛アリ。威音王佛ト名ツク。其威音王如來滅後。像法ノ中。一菩薩比丘アリ。常不輕ト名ツク。此人學問セズ。誦經セズ。只四衆ニアヘハ。貴賤ノワカチナク。皆尊重心ヲ起シ。禮拜讃嘆シテ此言ヲ作ス。吾汝ヲ輕ンセス。汝ヲ敬フ。汝等ミナ當來ニ作佛スヘシト。常ニカクアル故ニ。人呼テ常不輕ト云。其時四衆ノ中ニ。瞋恚不淨ナル者アリ。惡口罵詈シテ。此無智ノ比丘何處ヨリ來レル。我等コノ虛妄ノ授記ヲ用ヒスト云ヒ。或ハ杖木或瓦石ヲ以テ打擲ス。其時遠クサケ走テ。尙高聲ニ唱フ。我敢テ汝等ヲ輕ンセス。汝等當作佛ト。此比丘後命終ノトキ。虛空ノ中ニ威音王佛ヲ見奉リ。六根淨ノ功德ヲ成就シ。更ニ壽命ヲ增セシトアル。
新字:此中一ノ因縁アリ。有信ノ者思惟スヘシ。法華経ニ。過去無量却ノ時ニ仏アリ。威音王仏ト名ツク。其威音王如来滅後。像法ノ中。一菩薩比丘アリ。常不軽ト名ツク。此人学問セズ。誦経セズ。只四衆ニアヘハ。貴賤ノワカチナク。皆尊重心ヲ起シ。礼拝讃嘆シテ此言ヲ作ス。吾汝ヲ軽ンセス。汝ヲ敬フ。汝等ミナ当来ニ作仏スヘシト。常ニカクアル故ニ。人呼テ常不軽ト云。其時四衆ノ中ニ。瞋恚不浄ナル者アリ。悪口罵詈シテ。此無智ノ比丘何処ヨリ来レル。我等コノ虚妄ノ授記ヲ用ヒスト云ヒ。或ハ杖木或瓦石ヲ以テ打擲ス。其時遠クサケ走テ。尚高声ニ唱フ。我敢テ汝等ヲ軽ンセス。汝等当作仏ト。此比丘後命終ノトキ。虚空ノ中ニ威音王仏ヲ見奉リ。六根浄ノ功徳ヲ成就シ。更ニ寿命ヲ增セシトアル。
書き下し
此中一ノ因縁アリ。有信ノ者思惟スヘシ。法華経ニ。過去無量却ノ時ニ仏アリ。威音王仏ト名ツク。其威音王如来滅後。像法ノ中。一菩薩比丘アリ。常不軽ト名ツク。此人学問セズ。誦経セズ。只四衆ニアヘハ。貴賤ノワカチナク。皆尊重心ヲ起シ。礼拝讃嘆シテ此言ヲ作ス。吾汝ヲ軽ンセス。汝ヲ敬フ。汝等ミナ当来ニ作仏スヘシト。常ニカクアル故ニ。人呼テ常不軽ト云。其時四衆ノ中ニ。瞋恚不浄ナル者アリ。悪口罵詈シテ。此無智ノ比丘何処ヨリ来レル。我等コノ虚妄ノ授記ヲ用ヒスト云ヒ。或ハ杖木或瓦石ヲ以テ打擲ス。其時遠クサケ走テ。尚高声ニ唱フ。我敢テ汝等ヲ軽ンセス。汝等当作仏ト。此比丘後命終ノトキ。虚空ノ中ニ威音王仏ヲ見奉リ。六根浄ノ功徳ヲ成就シ。更ニ寿命ヲ增セシトアル。
現代語訳
この中に一つの因縁がある。信ある者は思惟しなさい。法華経に、過去の無量劫の時に仏がいて、威音王仏と名づけた。その威音王如来の滅後、像法の中に一人の菩薩比丘がいて、常不軽と名づけた。この人は学問をせず、経を誦さず、ただ出家・在家の男女に会えば、身分の区別なく、みな尊重の心を起こし、礼拝し讃嘆してこの言葉をなした。私はあなたを軽んじない。あなたを敬う。あなた方はみな将来仏になるでしょう、と。常にこうであったので、人は呼んで常不軽と言った。その時、出家・在家の中に怒りやすく不浄な者がいて、悪口し罵って、この無智の比丘はどこから来たのか。我々はこの偽りの授記を用いない、と言い、あるいは杖や木、あるいは瓦や石で打ちつけた。その時、遠く避けて走り、なお大声で唱えた。私はあえてあなた方を軽んじない。あなた方はきっと仏になるでしょう、と。この比丘は後に命の終わる時、虚空の中に威音王仏を見奉り、六根清浄の功徳を成就し、さらに寿命を増した、とある。
解説

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法華経・常不輕菩薩品第二十(2)「最初の威音王如来、既に滅度したまい、正法滅して後、像法の中に、増上慢の比丘、大勢力有り。爾の時、一りの菩薩比丘有り、常不軽と名づく。得大勢、何の因縁を以て、常不軽と名づくるや。是の比丘、凡そ見る所有る、若しは比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷を、皆な悉く礼拝し讃歎して、是の言を作す、『我れ深く汝等を敬う、敢えて軽慢せず。所以は何ん。汝等は皆な菩薩道を行じて、当に作仏することを得べければなり。』と。而も是の比丘、専ら経典を読誦せず、但だ礼拝を行ずるのみ。乃至、遠く四衆を見ても、亦復た故らに往きて礼拝し讃歎して、是の言を作す、『我れ敢えて汝等を軽しめず、汝等は皆な当に作仏すべし。』と。四衆の中に、瞋恚を生じ、心不浄なる者有り、悪口罵詈して言わく、『是の無智の比丘、何れの所より来たる。自ら我れ汝を軽しめずと言いて、而も我等に授記して、当に作仏することを得べしという。我等は是くの如き虚妄の授記を用いず。』と。此くの如く多年を経歴して、常に罵詈せられ、瞋恚を生ぜず、常に是の言を作す、『汝、当に作仏すべし。』と。是の語を説く時、衆人或いは杖木瓦石を以て之を打擲すれば、避け走りて遠く住し、猶お高声に唱えて言わく、『我れ敢えて汝等を軽しめず、汝等は皆な当に作仏すべし。』と。其の常に是の語を作すを以ての故に、増上慢の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、之を号して常不軽と為す。」
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法華経・常不輕菩薩品第二十(5)過去に仏有り、威音王と号したまう。神智無量にして、一切を将導し、天・人・竜・神の、共に供養する所なり。この仏の滅後、法の尽きんと欲する時、 一りの菩薩有り、名を常不軽という。時に諸の四衆、法に計著せり。不軽菩薩、その所に往到して、これに語りて言わく、我れ汝を軽しめず、 汝等、道を行ぜば、皆当に作仏すべし、と。諸人聞き已りて、軽毀し罵詈せしも、不軽菩薩、能くこれを忍受せり。その罪畢り已りて、命終の時に臨み、 この経を聞くことを得て、六根清浄なり。神通力の故に、寿命を増益し、復諸人のために、広くこの経を説けり。諸の著法の衆、皆菩薩の、 教化を蒙りて成就し、仏道に住せしむ。不軽命終して、無数の仏に値い、この経を説く故に、無量の福を得、漸く功徳を具えて、疾く仏道を成ぜり。 かの時の不軽は、則ち我が身これなり。時の四部の衆、法に著せし者、不軽の言、汝当に作仏すべしと聞きしを以て、この因縁をもって、無数の仏に値えり。 この会の菩薩、五百の衆、並びに四部の清信の士女、今、我が前にして、法を聴く者これなり。我、前世において、この諸人に勧めて、 この経、第一の法を聴受せしめ、開示して人を教え、涅槃に住せしめ、世々にかくの如き経典を受持せしむ。億億万劫、不可議に至りて、 時にして乃ちこの法華経を聞くことを得。億億万劫、不可議に至りて、諸仏世尊、時にこの経を説きたまう。この故に行者、仏の滅後において、 かくの如き経を聞かば、疑惑を生ずること勿れ。応当に一心に、広くこの経を説くべし。世々に仏に値い、疾く仏道を成ぜん。
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法華経・常不輕菩薩品第二十(3)「是の比丘、終わりに臨まんと欲する時、虚空の中に於いて、具さに威音王仏の、先に説きたまいし所の法華経二十千万億偈を聞き、悉く能く受持し、即ち上の如き眼根清浄、耳鼻舌身意根清浄を得たり。是の六根清浄を得已りて、更に寿命を増すこと二百万億那由他歳、広く人の為に是の法華経を説く。時に於いて増上慢の四衆、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の、是の人を軽賤して、為に不軽の名を作せる者、其の大神通力、楽説弁力、大善寂力を得たるを見、其の所説を聞きて、皆な信伏随従す。是の菩薩、復た千万億の衆を化して、阿耨多羅三藐三菩提に住せしむ。命終の後、二千億の仏に値うことを得、皆な日月燈明と号す、其の法の中に於いて、是の法華経を説く。是の因縁を以て、復た二千億の仏に値う、同じく雲自在燈王と号す。此の諸仏の法の中に於いて、受持し読誦し、諸の四衆の為に此の経典を説く故に、是の常の眼清浄、耳鼻舌身意の諸根清浄を得て、四衆の中に於いて法を説くに、心に畏るる所無し。」
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法華経・常不輕菩薩品第二十(1)爾の時、仏、得大勢菩薩摩訶薩に告げたまわく、「汝、今当に知るべし、若しは比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、法華経を持つ者を、若し悪口、罵詈、誹謗すること有らば、大罪報を獲ること、前に説く所の如し。其の得る所の功徳は、向に説く所の如く、眼耳鼻舌身意清浄なり。得大勢、乃往古昔、無量無辺不可思議阿僧祇劫を過ぎて、仏有しき、威音王如来、応供、正遍知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、仏、世尊と名づく。劫の名は離衰、国の名は大成なり。其の威音王仏、彼の世の中に於いて、天、人、阿修羅の為に法を説きたまう。声聞を求むる者の為には、応ぜる四諦の法を説いて、生老病死を度し、究竟して涅槃せしめ、辟支仏を求むる者の為には、応ぜる十二因縁の法を説き、諸の菩薩の為には、阿耨多羅三藐三菩提に因りて、応ぜる六波羅蜜の法を説いて、仏慧を究竟せしめたもう。得大勢、是の威音王仏は、寿四十万億那由他恒河沙劫、正法の世に住すること劫数は一閻浮提の微塵の如く、像法の世に住すること劫数は四天下の微塵の如し。其の仏、衆生を饒益し已りて、然して後に滅度したもう。正法像法滅尽の後に、此の国土に於いて、復た仏の出ずること有り、亦た威音王如来、応供、正遍知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、仏、世尊と号す。是くの如く次第に二万億の仏有り、皆な同じ一号なり。」
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『十善法語』巻第六・不惡口戒此等ノ文。教家ノ中ニハ。人人家家ノ解了浅深モアルヘキナレトモ。其釈義ハ且ク置テ。直ニ経意ヲ看ヨ。衆生ニ仏性有コトヲ知レハ。礼拝尊重スヘシ。仏性ヲ尊重スレハ。其人ノ目ニハ唯是仏性ノミシヤ。元来世間ニ一衆生トシテ凡夫ト云者ヲ見ス。此仏性威音王仏ハ此空中ニ顕レネハナラヌ。此威音王仏カ自性空ノ中ニ顕ルレハ。生ナク滅ナク。寿命延ルコトヲ得ヘシ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒知ル者ハ五百塵点却已前ニ相知ル。知ラヌ者ハ唯此因縁説ノミシヤ。此ニ由テ仏性ヲ礼拝恭敬スレハ無量ノ功徳ヲ得ル。悪口スレハ大罪ヲ得ル。真正ノ道人第一義ニ入テ縁起ノ相ヲ壊セス。其罪ノアルコトヲ知ル。其功徳ノアルコトヲ知ル。一切衆生業風ニ吹マトハサレテ。此ニ死シ彼ニ生スルコト。譬ヘハ空中ニ浮フ雲ノ如シヤ。風ニ随テ合ス。合スレハ同一ノ雲シヤ。風ニ随テ離散ス。離散スレハ百千万ノ雲シヤ。一切衆生カ自性空中ニ起滅シテ。彼アリ此アルニ似ル。貴アリ賤アルニ似ル。智愚賢不肖アルニ似ル。此法性縁起ノ中ニ常不軽菩薩ノ行ト云ハ。强テ道ノホトリ。市町ノ中ニ在テ礼拝スルコトデナイ。中下等ノ人ニ対シテ足恭スルコトテハナイ。真正ニ此戒ヲ護持スル者ハ道路街衢ノ中。タトヒ人ドメヲサセテモ。先ハラヒヲサセテモ。如説修行ノアルベキコトシヤ。