十善法語 / 巻第六・不惡口戒
殷ノ時紂王長夜ノ飮ヲナシテ。酒池肉林ノ中ニ。男女ヲ裸ニシテ相戲シムル類ハ。憍慢ノ甚シキシヤ。孕婦ノ腹ヲ割クハ。婦女子ヲ弄ヒ物ノ樣ニ思フ故シヤ。朝ニ涉ル脛ヲ斮ハ。庶民ヲ土芥ノ樣ニ思フ故シヤ。賢人ノ胸ヲ割ハ。有德ヲ憚ラヌ故シヤ。武乙カ木像ノ天神ヲ作ツテ倶ニ博戲シ。或ハ革囊ニ血ヲ盛テ高處ニカケ置キ。仰射テ天ヲ射ルト云シハ。上天ニ畏懼ナキ故シヤ。此類皆此戒ノ身業意業ノ犯シヤ。
新字:殷ノ時紂王長夜ノ飲ヲナシテ。酒池肉林ノ中ニ。男女ヲ裸ニシテ相戯シムル類ハ。憍慢ノ甚シキシヤ。孕婦ノ腹ヲ割クハ。婦女子ヲ弄ヒ物ノ様ニ思フ故シヤ。朝ニ渉ル脛ヲ斮ハ。庶民ヲ土芥ノ様ニ思フ故シヤ。賢人ノ胸ヲ割ハ。有徳ヲ憚ラヌ故シヤ。武乙カ木像ノ天神ヲ作ツテ倶ニ博戯シ。或ハ革囊ニ血ヲ盛テ高処ニカケ置キ。仰射テ天ヲ射ルト云シハ。上天ニ畏懼ナキ故シヤ。此類皆此戒ノ身業意業ノ犯シヤ。
書き下し
殷ノ時紂王長夜ノ飲ヲナシテ。酒池肉林ノ中ニ。男女ヲ裸ニシテ相戯シムル類ハ。憍慢ノ甚シキシヤ。孕婦ノ腹ヲ割クハ。婦女子ヲ弄ヒ物ノ様ニ思フ故シヤ。朝ニ渉ル脛ヲ斮ハ。庶民ヲ土芥ノ様ニ思フ故シヤ。賢人ノ胸ヲ割ハ。有徳ヲ憚ラヌ故シヤ。武乙カ木像ノ天神ヲ作ツテ倶ニ博戯シ。或ハ革囊ニ血ヲ盛テ高処ニカケ置キ。仰射テ天ヲ射ルト云シハ。上天ニ畏懼ナキ故シヤ。此類皆此戒ノ身業意業ノ犯シヤ。
現代語訳
殷の時、紂王が夜通しの酒宴をして、酒の池と肉の林の中で男女を裸にして戯れさせた類は、驕り高ぶりの甚だしいものである。妊婦の腹を割いたのは、婦女子を弄び物のように思ったからである。朝に川を渡る者の脛を斬ったのは、庶民を土くれや芥のように思ったからである。賢人の胸を割いたのは、徳ある人を憚らなかったからである。武乙が木像の天神を作ってともに博打をし、あるいは革袋に血を満たして高い所に掛けておき、仰いで射て天を射ると言ったのは、上天に畏れがなかったからである。この類はみなこの戒の身業・意業の犯である。
解説
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『十善法語』巻第六・不惡口戒世間法ノ中ニ。孔子カ原壤ヲ責テ。幼シテ遜弟ナラス。長シテ述ラルルコトナク。老テ死セザル。コレヲ賊トスト。周ノ武王カ殷紂王ヲ罵テ。独夫受洪惟作威。乃汝也讐ト云シ類。若ハ国法ヲ犯シ。不忠不義。国事ニ惰アル類。ミナ呵責ヲ用フ。此ハ悪口トハセヌシヤ。大抵慈悲心孝順心ト相応スレハ。ミナ破戒ナラヌシヤ。華厳経ノ中ニ。仏子。悪口之罪亦使衆生堕三悪道トアル。是異熟果シヤ。若生人中得二種果報。一常聞悪声。二言多諍訟トアル。是等流果シヤ。余文ニ外ノ器世間マテモ荊棘ト鹵莽多キトアル。是增上果シヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒上ノ妄語綺語ニ準シテ。此戒モ身業意業ニワタルヘキシヤ。若内ニ軽躁ノ心憍慢ノ心有テ。他ヲ看ルコト禽獣ノ如クナルヲ。意業ノ犯トス。意気揚揚トシテ鷹ノ衆鳥ヲシノク如クナルヲ。身業ノ犯トス。若語業悪口ヲ離ルルトキ。心自ラ憍慢ヲ離ルル。身自ラ倨傲ヲ離ルル。是故ニ有志ノ者ハ初ニ語業ヲ慎ヘキシヤ。凡上位ノ者ハ宿善ノ余慶アル故。三業麁獷ナラス。此戒自ラ具ルシヤ。タトヒ其位下賤ナルモ。此戒ニ慎ミアル者ハ。其徳大人ニ比スヘシ。聖主ノ人民ニ主タル。此戒闕ルコトナケレハ。身深宮ノ内ニ在テ。其徳海外ニ及フト云コトシヤ。近習ヨリ散官ニ至リ。匹夫匹婦マテ其徳ニ化セラレテ。大人ノ趣ヲ得ト云コトシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒秦ノ始皇カ古書ヲ燔キ。儒者ヲ坑ニシ。阿房宮ヲ造営セシ。晋ノ武帝カ羊車ニ乗テ後宮ニ遊ヒシ類。心ノ憍慢ヨリ起ル。実ヲ剋シテ云ハ。ミナ小器量ニ摂ス。若万民ヲ以テ子トセハ。儒者モ邪魔ニハナラヌ。天下ヲ以テ家トセハ。阿房宮ハ狭小ナル造営シヤ。天地陰陽ノ和合ヲ楽ハ。別ニ多人ヲ後宮ニ閉置ニハ及ヌシヤ。誠ノ大丈夫ハ此ニ異ナル所有ヘキシヤ。
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『十善法語』巻第八・不貪欲戒此身有テ衣ル。其限ヲ知ル。身ニ適ヘハ止ム。此衣服十分ノ好ヲ求メヌ。華麗ハ一向所論デナイ。沙門法ノ中ハ。染壊割截等ノ儀アル是シヤ。殷ノ紂王カ衣珠玉トハ。愚ノ甚シキシヤ。此口有テ喫フ。其限ヲ知ル。十分ノ好味ヲ求メヌ。若其味甚口ニ適フトキハ。三分ニシテ一ヲ減スル。沙門法ノ中ハ。節量食ノ式。水浄ノ儀アル是シヤ。外国ニ六畜ヲ常食トスルハ。十善ノ儀テハナイ。斑足王ガ人肉ヲ食スル。易牙カ其子ヲ煮ハ。尤モ甚シキコトシヤ。此眼有テ見ル。五采ノ明ヲ害スルコトヲ知ル。十分ノ好色ヲ求メヌ。若其色甚タ眼ニ適フトキハ其守ヲ知ル。沙門法ノ中ハ。金銀荘飾具等ヲ好マヌ。是シヤ。東昏侯カ園中ノ石五色ノ彩ヲナス。蜀主王衍カ絵ヲ結テ山ヲ為リ。其上ニ酒宴スル類ハ。甚シキコトシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒愚ナル者ハ。謹慎ハ窮窟ナルヤウニ思ヒ。放逸ハ安楽ナルヤウニ思フ。サウデナイ。誠ノ楽ハ謹慎篤実ノ上ニ在テ。燕安放逸ノ処ニハナイ。愚ナル者ハ。謹慎篤実ナレハ不器量ナル様ニ思ヒ。倨傲大胆ナレハ一器量アル様ニ思フ。サウテナイ。誠ノ度量ハ謹慎篤実ノ上ニ在テ。倨傲大胆ノ処ニハナキシヤ。古稽叔夜カ鍾会ヲ侮テ。後其身刑セラル。其養生論閑言語トナル。知伯カ韓魏ヲ侮テ。終ニ身ヲ亡シ国ヲ亡ス。其强土堅甲ミナ敵ノ資トナル。稽叔夜カ自ラ才ヲ負ミ。知伯カ自ラ威名ニ夸ル。実ヲ剋スレハ。ミナ其量ノ狭小ナルヨリ起ル。耻ヘキコトシヤ。
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『墨子』明鬼下且つ惟だ此のみ然りと為すに非ず。昔者、殷王紂、貴きこと天子と為り、富は天下を有ちながら、上は天を詬り鬼を侮り、下は天下の萬民を殃い虐ぐ。黎老を播き棄て、孩子を賊い誅し、罪無きを楚毒し、孕婦を刳剔す。庶舊鰥寡、號咷して告ぐる無し。故に此に於て天、乃ち武王をして眀罰に至らしむ。武王、革車百兩、虎賁の卒四百人を以て、先ず庶國、節して戎を窺い、殷人と牧の野に戰う。王、手ずから費中・惡来を禽らう。衆、畔きて百も走る。武王、逐い奔りて宫に入り、萬年の梓株にて、紂を折きて之を赤環に繫ぎ、之を白旗に載せて、以て天下諸侯の僇と為す。