十善法語 / 巻第六・不惡口戒
上ノ妄語綺語ニ準シテ。此戒モ身業意業ニワタルヘキシヤ。若内ニ輕躁ノ心憍慢ノ心有テ。他ヲ看ルコト禽獸ノ如クナルヲ。意業ノ犯トス。意氣揚揚トシテ鷹ノ衆鳥ヲシノク如クナルヲ。身業ノ犯トス。若語業惡口ヲ離ルルトキ。心自ラ憍慢ヲ離ルル。身自ラ倨傲ヲ離ルル。是故ニ有志ノ者ハ初ニ語業ヲ愼ヘキシヤ。凡上位ノ者ハ宿善ノ餘慶アル故。三業麁獷ナラス。此戒自ラ具ルシヤ。タトヒ其位下賤ナルモ。此戒ニ愼ミアル者ハ。其德大人ニ比スヘシ。聖主ノ人民ニ主タル。此戒闕ルコトナケレハ。身深宮ノ內ニ在テ。其德海外ニ及フト云コトシヤ。近習ヨリ散官ニ至リ。匹夫匹婦マテ其德ニ化セラレテ。大人ノ趣ヲ得ト云コトシヤ。
新字:上ノ妄語綺語ニ準シテ。此戒モ身業意業ニワタルヘキシヤ。若内ニ軽躁ノ心憍慢ノ心有テ。他ヲ看ルコト禽獣ノ如クナルヲ。意業ノ犯トス。意気揚揚トシテ鷹ノ衆鳥ヲシノク如クナルヲ。身業ノ犯トス。若語業悪口ヲ離ルルトキ。心自ラ憍慢ヲ離ルル。身自ラ倨傲ヲ離ルル。是故ニ有志ノ者ハ初ニ語業ヲ慎ヘキシヤ。凡上位ノ者ハ宿善ノ余慶アル故。三業麁獷ナラス。此戒自ラ具ルシヤ。タトヒ其位下賤ナルモ。此戒ニ慎ミアル者ハ。其徳大人ニ比スヘシ。聖主ノ人民ニ主タル。此戒闕ルコトナケレハ。身深宮ノ内ニ在テ。其徳海外ニ及フト云コトシヤ。近習ヨリ散官ニ至リ。匹夫匹婦マテ其徳ニ化セラレテ。大人ノ趣ヲ得ト云コトシヤ。
書き下し
上ノ妄語綺語ニ準シテ。此戒モ身業意業ニワタルヘキシヤ。若内ニ軽躁ノ心憍慢ノ心有テ。他ヲ看ルコト禽獣ノ如クナルヲ。意業ノ犯トス。意気揚揚トシテ鷹ノ衆鳥ヲシノク如クナルヲ。身業ノ犯トス。若語業悪口ヲ離ルルトキ。心自ラ憍慢ヲ離ルル。身自ラ倨傲ヲ離ルル。是故ニ有志ノ者ハ初ニ語業ヲ慎ヘキシヤ。凡上位ノ者ハ宿善ノ余慶アル故。三業麁獷ナラス。此戒自ラ具ルシヤ。タトヒ其位下賤ナルモ。此戒ニ慎ミアル者ハ。其徳大人ニ比スヘシ。聖主ノ人民ニ主タル。此戒闕ルコトナケレハ。身深宮ノ内ニ在テ。其徳海外ニ及フト云コトシヤ。近習ヨリ散官ニ至リ。匹夫匹婦マテ其徳ニ化セラレテ。大人ノ趣ヲ得ト云コトシヤ。
現代語訳
上の妄語・綺語に準じて、この戒も身の業・意の業にわたるはずである。もし内に軽はずみな心や驕り高ぶる心があって、他人を見ることが禽獣のようであるのを、意の業の犯とする。意気揚々として鷹が群れる鳥をしのぐようであるのを、身の業の犯とする。もし言葉の業が悪口を離れる時、心はおのずから驕りを離れる。身はおのずから傲慢を離れる。このゆえに志ある者は、初めに言葉の業を慎むべきである。およそ上位の者は前世の善の余慶があるので、三業が荒々しくない。この戒がおのずから具わっているのである。たとえその位が下賤であっても、この戒に慎みのある者は、その徳は大人に比べるべきである。聖なる君主が人民の主となるのに、この戒に欠けるところがなければ、身は奥深い宮殿の内にあっても、その徳は海外に及ぶということである。側近から閑職の官に至り、身分の低い男女まで、その徳に感化されて大人の趣を得るということである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『十善法語』巻第六・不惡口戒三業ノ悪口ナケレハ。其人ヲ徳者ト名ツクル。此ニ関ルコト有レハ。徳者トハ名ツケラレヌシヤ。老人モシ此戒ヲ慎マサレハ。世ニ処シテ辱カ多イシヤ。貴人モシ此戒ヲ慎子ハ。下ヨリ上ヲ侮ル。君父モシ此戒ヲ謹ネハ子弟ノ侮ヲウクル。古ヨリ乱臣賊子アル。多ハ自ラ招トコロシヤ。富者モシ憍慢軽躁ナレハ。資財減損スル。孤弱ノ者モシ憍慢軽躁ナレハ。自ラ身ヲ置クニ所カナイ。上下貴賤。ソノ品ハ別アレトモ。日夜ニ戦戦兢兢トシテ自ラ許サレヌハ一シヤ。徳建チ寿全ク。位ウコキナク。財物足リ。子弟淳厚。神霊護スレハ。此楽言ノ宣ヘキ所テハナイ。誠ニ大人ノ大人タル所。徳者ノ徳者タル所。コトコトク此戒ニアルヘキシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒若実事ナキニ。故ニ設ケナシテ罵詈スルハ。悪口ニ妄語ヲ兼ル。若嘲弄シテ罵詈スレハ綺語ヲ兼ル。若他ノ親好ヲ破スレハ。両舌ヲ兼ル。内心ニ毒ヲ含ミテ。口ニ此麁獷ノ辞ヲ出ス。或ハ憍慢倨傲他ヲ蔑ニシテ。罵詈ノ言辞ヲ出ス。或ハ小根怯弱ノ者。自高フルコトヲ好テ此麁言アル。或軽躁ノ性。卑賤ノ習ヒ。口業麁悪ナル類。ミナ此戒違犯ノ差排ナルシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒安永三年甲午二月八日示衆。師云。第六ハ他ヲ侮ラヌ法シヤ。此法ヲ不悪口戒ト云。又ハ不麁悪語戒ト名ツクル。上中下等ノ人ニ対シテ麁言ヲ以テ罵詈スル。是ヲ悪口ト云。此悪口ノ鄙劣ナルコトヲ知テ。口業ヲ守リ。柔軽語ニ順スルヲ。不悪口ト云。法有テ此不悪口ヲ護スルヲ不悪口戒ト名ツクル。其戒相ヲ言ハ。下賤ナル者ヲ下賤ト云ヒ。愚痴ナル者ヲ愚者ト言ヒ。形不具足ナル者ヲカタハモノト云類。尽ク此戒ノ違犯シヤ。若ハ上等ノ人ヲ中等ニ言ヒ下シ。中等ヲ下等ニ言ヒ下シ。ヒキコナサレヌ人ヲ引コナシテ言フ類ハ。此戒增上ノ違犯シヤ。若ハ種類ヲ挙テ。軽躁ナル者ヲ猿ニ比シ。暴悪ナル者ヲ豺狼ニ比シ。愚昧ナル者ヲ虫蟻ニ比シテ毀呰スル類ハ。尤甚シキコトシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒能此戒ヲ護持スル者ハ。君臣ノ名分分明ニシテ。シカモ臣庶ヲモ侮ラヌシヤ。小心翼翼トシテ一日ヨリ一日ヲ慎ム。男女位定テ。而モ婦女子ヲ侮ラヌ。閨門ノ間モ常ニ礼節アルシヤ。父子兄弟位定テ。而モ子弟ヲ侮ラヌ。家門常ニ修ル。王者カ群臣ヲ侮ラヌニヨツテ。能者カ事ニ当テ自ラ能ヲ隠サヌ。直臣カ諫言ヲ尽シテカクサヌ。庶民ヲ侮ラヌニ由テ。億兆ノ推戴スルコト日月ノ如シ。男子カ婦女子ヲ侮ラヌニ由テ。賢女貞婦カ徳ヲ輔ケ道ヲ守ル。父兄カ子弟ヲ侮ラヌニ由テ。孝子順孫カ家風ヲ墜サヌ。一日ヨリ一日ヲ慎ム中ニ。此楽事有テ尽ルコトナキシヤ。経ノ中ニ。十善輪王ニハ其子ニ不肖ナル者ナク。其臣ニ奸侫ナル者ナク。后妃ニ醜陋妬婦ナク。其民ニ頑愚ノ者ナク。戦ハスシテ万国帰伏スルト云コトシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒法性法トシテソムケハ。此罪業アルコト。譬ヘハ印章ヲ紙ニ印シ出ス如ク。鋳像ノ模ヲ脱スル如ク。毫釐モ差ヒナキトアルシヤ。唯心ノ麁ナル者。道理ニ暗キ者ハ自ラ解セス。名利五欲ニ随順スルモノ。事ニ掩ハサルル者ハ自ラ迷フシヤ。一切衆生イキトシ生ル者。蠢動含霊。ミナ一仏性ナルコト。大海ノ同一酸味ナル如ク。太虚空ノ同一洞豁ナル如クシヤ。此一仏性。凡夫ニ在テモ減セヌ。仏ニ在テモ增セヌ。此仏性ノ增減ナキコトヲ信スレハ。自ラ憍慢ノ心ナク。悪口ハ離ルルシヤ。迷ニ迷ヲ累ヌレドモ。元来相違ナク。廓然トシテ開悟スレドモ。元来相違ナイ。此迷悟ヘタテナキコトヲ信スレハ。自ラ憍慢ノ心ナク。悪口ハ離ルルシヤ。
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『十善法語』巻第十・不邪見戒之上不悪口戒ソノ身ニアレハ。言語自ラ柔軽ナルシヤ。諸ノ罵詈呵責。悪声怨言等ノ悪賊煩悩ハヨリツカヌシヤ。不両舌戒ソノ身ニアレハ。言語ニ仁愛ノ相アラハルル。諸ノ他ノ親好ヲ破リ。隣里郷党ノ交ヲ悪クシ。君臣父子ノ間ヲ離スル讒言語諛ノ悪賊煩悩ハヨリツカヌシヤ。不貪欲戒ソノ身ニ有レハ。二六時中。到ル処ニ足ルコトヲ知ル。諸ノ多欲悪貪。威勢ヲ羨ミ。名利ニ耽ル悪賊煩悩ハヨリツカヌシヤ。不嗔恚戒ソノ身ニアレハ。五尺ノ姿全ク慈悲ト相応スル。一切ノ眉ヲ顰シテ額ヲ蹙シテ。目ニ三角ヲ生シ憂悩痛戚。嫉妬変異等ノ悪賊煩悩ハヨリツカヌシヤ。