墨子 / 明鬼下
且不惟此為然。昔者殷王紂貴為天子,富有天下,上詬天侮鬼,下殃虐天下之萬民,播棄黎老,賊誅孩子,楚毒無罪,刳剔孕婦,庶舊鰥寡,號咷無告也。故於此乎天乃使武王至眀罰焉。武王以革車百兩,虎賁之卒四百人,先庶國節窺戎,與殷人戰乎牧之野。王手禽費中、惡来,衆畔百走。武王逐奔入宫,萬年梓株,折紂而繫之赤環,載之白旗,以為天下諸侯僇。
新字:且不惟此為然。昔者殷王紂貴為天子,富有天下,上詬天侮鬼,下殃虐天下之万民,播棄黎老,賊誅孩子,楚毒無罪,刳剔孕婦,庶旧鰥寡,号咷無告也。故於此乎天乃使武王至明罰焉。武王以革車百両,虎賁之卒四百人,先庶国節窺戎,与殷人戦乎牧之野。王手禽費中、悪来,衆畔百走。武王逐奔入宮,万年梓株,折紂而繋之赤環,載之白旗,以為天下諸侯僇。
書き下し
且つ惟だ此のみ然りと為すに非ず。昔者、殷王紂、貴きこと天子と為り、富は天下を有ちながら、上は天を詬り鬼を侮り、下は天下の萬民を殃い虐ぐ。黎老を播き棄て、孩子を賊い誅し、罪無きを楚毒し、孕婦を刳剔す。庶舊鰥寡、號咷して告ぐる無し。故に此に於て天、乃ち武王をして眀罰に至らしむ。武王、革車百兩、虎賁の卒四百人を以て、先ず庶國、節して戎を窺い、殷人と牧の野に戰う。王、手ずから費中・惡来を禽らう。衆、畔きて百も走る。武王、逐い奔りて宫に入り、萬年の梓株にて、紂を折きて之を赤環に繫ぎ、之を白旗に載せて、以て天下諸侯の僇と為す。
現代語訳
これだけがそうなのではない。むかし殷王紂は天子として貴く天下を持つほど富みながら、上は天をののしり鬼神を侮り、下は天下の万民を苦しめ虐げた。老人を捨て、幼子を殺し、罪の無い者を苦しめ、孕んだ女の腹を割いた。古参の臣も身寄りの無い者も、泣き叫んでも訴える先が無かった。だからここで天は武王に明らかな罰を下させた。武王は革張りの車百台、精鋭四百人をもって、まず諸国を率いて敵情をうかがい、殷の人と牧野で戦った。王は自ら費中と悪来を捕らえた。軍勢は背いて散り散りに逃げた。武王は追って宮に入り、万年の梓の切り株のところで紂を裂いて赤い環に繋ぎ、白い旗に載せて、天下の諸侯への見せしめとした。
解説
この章句が説くこと
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『墨子』非攻下商王紂に逮び至りて、天、其の徳を序でず、祀、時を失うを用う。夜中に十日を兼ね、王に雨ふること薄に于てし、九鼎、遷り止まり、婦妖、宵に出で、鬼有りて宵に吟じ、女の男と為る有り、天、肉を雨らし、棘、國道に生じ、王、兄いよ自ら縱にす。赤鳥、珪を銜えて、周の岐社に降りて曰く、「天、周の文王に命じて殷を伐ちて國を有たしむ」と。泰顛、來賔し、河、緑圖を出だし、地、乗黄を出だす。武王、功を踐み、夢に三神を見る。「予れ既に殷紂を酒徳に沈漬せしめたり。往きて之を攻めよ。予れ必ず汝をして大いに之に堪えしめん」と。武王、乃ち狂夫を攻め、商に反して周とし、天、武王に黄鳥の旗を賜う。王、既已に殷に克ち、帝の來を成し、諸神を分主し、紂の先王を祀り、四夷に通維して、天下、賓せざる莫し。焉ち湯の緒を襲ぐ。此れ即ち武王の紂を誅せし所以なり。若し此の三聖王を以て之を觀れば、則ち謂う所の攻に非ずして謂う所の誅なり。
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『墨子』明鬼下故に昔者、殷王紂、貴きこと天子と為り、富は天下を有ち、勇力の人、費中・惡来・崇侯虎有りて、指寡して人を殺す。人民の衆きこと兆億、侯として厥の澤陵に盈つ。然れども此を以て鬼神の誅を圉ぐ能わず。此れ吾が謂う所の鬼神の罰は、富貴衆强・力勇强武・堅甲利兵と為す可からずとは、此れなり。且つ禽艾の之を道いて曰く、「璣を得ること小なる無く、宗を滅ぼすこと大なる無し」と。則ち此れ鬼神の賞する所は、小なる無く必ず之を賞し、鬼神の罰する所は、大なる無く必ず之を罰するを言うなり。
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史記 殷本紀紂曰く、「我生まれて命の天に在る有らずや」と。祖伊反りて、曰く、「紂諫む可からず」と。西伯既に卒し、周の武王の東伐して、盟津に至る。諸侯の殷に叛きて周に会する者八百。諸侯皆曰く、「紂伐つ可し」と。武王曰く、「爾未だ天命を知らず」と。乃ち復た帰る。紂愈淫乱して止まず。微子数諫むるも聴かず、乃ち大師・少師と謀り、遂に去る。比干曰く、「人臣為る者は、死を以て争はざるを得ず」と。迺ち強ひて紂を諫む。紂怒りて曰く、「吾聞く、聖人の心に七竅有りと」と。比干を剖き、其の心を観る。箕子懼れ、乃ち詳狂して奴と為る。紂又之を囚ふ。殷の大師・少師乃ち其の祭楽器を持ちて周に奔る。周の武王是に於て遂に諸侯を率ゐて紂を伐つ。紂も亦兵を発して之を牧野に距ぐ。甲子の日、紂の兵敗る。紂走り、入りて鹿台に登り、其の宝玉の衣を衣て、火に赴きて死す。
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『新書』連語紂は、天子の後なり、天下を有して宜しく然るべし。苟くも道に背き義を棄て、敬慎を釈てて驕肆を行えば、則ち天下の人、其の之に離るること崩るるが若く、其の之に背くや約せずして期するが若し。夫れ人主たる者、誠に奈何ぞ慎まざらんや。紂将に武王と戦わんとし、紂其の卒を陳ね、左臆右臆、之を鼓するも進まず、皆其の刃を還して、顧みて以て紂に鄉う。紂走りて寝廟の上に還り、身ら闘いて死す、左右肯て助けず。紂の官衛紂の躯を輿して、之を玉門の外に棄つ。民の観る者皆進みて之を蹴り、其の腹を蹈み、其の腎を蹶し、其の肺を践み、其の肝を履む。周の武王乃ち人をして帷して之を守らしむ、民の観る者帷を搴げて入り、石を提げて之にする者猶お未だ止むを肯んぜず。悲しむ可きなり。夫れ埶は民の主たるに、直ちに民と仇を為し、殃忿此くの若し。夫れ民尚お其の躯を践盤す、而るを況んや其の民を有ち政教するをや。羞ずること甚だし。臣竊かに之を聞くに曰く、「善は小にして益無しと謂う可からず、不善は小にして傷無しと謂う可からず」と。夫れ牛の胎と為るや、細きこと鼷鼠の若し、紂の天下を損ずるは、象箸自り始まる。故に小悪も大悪も一類なり、過敗小なりと雖も、皆紂の罪なり。周諺に曰く、「前車覆れば後車戒む」と。
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説苑・指武武王將に紂を伐たんとす。太公望を召して之に問いて曰く、「吾戰わずして勝ちを知り、卜せずして吉を知らんと欲す、其の人に非ざるを使うに、之を為すに道有りや」と。太公對えて曰く、「道有り。王眾人の心を得て、以て不道を圖らば、則ち戰わずして勝ちを知らん。賢を以て不肖を伐たば、則ち卜せずして吉を知らん。彼之を害すれば、我之を利す。吾が民に非ずと雖も、得て使うべし」と。武王曰く、「善し」と。乃ち周公を召して之に問いて曰く、「天下の事を圖る者、皆殷を以て天子と為し、周を以て諸侯と為す、諸侯を以て天子を攻む、之に勝つに道有りや」と。周公對えて曰く、「殷信に天子たり、周信に諸侯たらば、則ち勝つの道無し、何ぞ攻むべけんや」と。武王忿然として曰く、「汝の言說有るか」と。周公對えて曰く、「臣之を聞く、禮を攻むる者は賊と為し、義を攻むる者は殘と為し、其の民を制するを失えば匹夫と為ると。王は其の民を失う者を攻むるなり、何ぞ天子を攻めんや」と。武王曰く、「善し」と。乃ち眾を起こし師を舉げ、殷と牧の野に戰い、大いに殷人を敗る。堂に上り玉を見て、曰く、「誰の玉ぞや」と。曰く、「諸侯の玉なり」と。即ち取りて之を諸侯に歸す。天下之を聞き、曰く、「武王財に廉なり」と。室に入り女を見て、曰く、「誰の女ぞや」と。曰く、「諸侯の女なり」と。即ち取りて之を諸侯に歸す。天下之を聞き、曰く、「武王色に廉なり」と。是に於て巨橋の粟を發し、鹿臺の財金錢を散じて以て士民に與え、其の戰車を黜けて乘らず、其の甲兵を弛めて用いず、馬を華山に縱ち、牛を桃林に放ち、復た用いざるを示す。天下之を聞く者、咸武王天下に義を行うと謂う、豈に大ならずや。
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史記 周本紀誓ひ已はり、諸侯の兵の会する者車四千乗、師を牧野に陳ぬ。帝紂武王の来たるを聞き、亦兵七十万人を発して武王を距ぐ。武王師尚父をして百夫と師を致さしめ、大卒を以て帝紂の師に馳す。紂の師衆しと雖も、皆戦ふの心無く、心に武王の亟やかに入らんことを欲す。紂の師皆兵を倒にして以て戦ひ、以て武王を開く。武王之に馳す。紂の兵皆崩れて紂に畔く。紂走り、反りて入りて鹿台の上に登り、其の殊玉を蒙衣し、自ら火に燔きて死す。武王大白旗を持ちて以て諸侯を麾く。諸侯畢く武王を拝す。武王乃ち諸侯に揖す。諸侯畢く従ふ。武王商国に至る。商国の百姓咸郊に待つ。是に於て武王群臣をして商の百姓に告語せしめて曰く、「上天休を降せり」と。商人皆再拝稽首す。武王も亦答拝す。遂に入りて、紂の死所に至る。武王自ら之を射、三たび発して而る後に車を下り、軽剣を以て之を撃ち、黄鉞を以て紂の頭を斬り、大白の旗に県く。已にして紂の嬖妾二女に至るに、二女皆経れて自殺す。武王又射ること三発、撃つに剣を以てし、斬るに玄鉞を以てし、其の頭を小白の旗に県く。武王已にして乃ち出でて軍に復る。其の明日、道を除き、社及び商紂の宮を修む。期に及びて、百夫罕旗を荷ひて以て先駆す。武王の弟叔振鐸は常車を奉陳し、周公旦は大鉞を把り、畢公は小鉞を把り、以て武王を夾む。散宜生・太顛・閎夭皆剣を執りて以て武王を衛る。既に入り、社の南、大卒の左に立ち、左右畢く従ふ。毛叔鄭は明水を奉じ、衛の康叔封は茲を布き、召公奭は采を賛け、師尚父は牲を牽く。尹佚筴祝して曰く、「殷の末孫季紂、先王の明徳を殄廃し、神祇を侮蔑して祀らず、商邑の百姓に昏暴なり。其の章顕上天皇上帝に聞こゆ」と。

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