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十善法語 / 巻第五・不綺語戒

女人ノ中。國母后妃タル人ハ國君ニ準ス。官女ノ類ハ位ノ高下ニヨル。佛在世ノ摩訶波閣波提。耶輸陀羅。摩利夫人等ハ綺語ニ隨順アリシコトヲ聞ヌシヤ。律藏ノ中ニ。增長カ猛光王ニ事フル。或ハ綺語ニ隨順セシ事ガアル。又史記ノ滑稽傳等ヲ見ルニ。淳于髡。優孟。東方朔等ノ綺語ヲ以テ君ノ心ヲ正シクシ。人ヲ救ヒ政ノ弊ヲ改メシ。コノ類ハ許シテ可ナリシヤ。印度ノ事實ニ。行雨大臣カ阿閣世王ニ事フル。摩訶男釋氏カ淨飯王ニ事フル。支那ノ事實ニ。稷契皐陶ノ堯舜ニ事フル。太公望周公旦ノ文王武王ニ事フル類。ソノ綺語ヲ聞ヌシヤ。君ニモヨリ。自身ノ位ノ高下ニモヨリ。時處ニモヨリテ。心得ノアルベキコトト思ハルルシヤ。

新字:女人ノ中。国母后妃タル人ハ国君ニ準ス。官女ノ類ハ位ノ高下ニヨル。仏在世ノ摩訶波閣波提。耶輸陀羅。摩利夫人等ハ綺語ニ随順アリシコトヲ聞ヌシヤ。律蔵ノ中ニ。增長カ猛光王ニ事フル。或ハ綺語ニ随順セシ事ガアル。又史記ノ滑稽伝等ヲ見ルニ。淳于髡。優孟。東方朔等ノ綺語ヲ以テ君ノ心ヲ正シクシ。人ヲ救ヒ政ノ弊ヲ改メシ。コノ類ハ許シテ可ナリシヤ。印度ノ事実ニ。行雨大臣カ阿閣世王ニ事フル。摩訶男釈氏カ浄飯王ニ事フル。支那ノ事実ニ。稷契皐陶ノ堯舜ニ事フル。太公望周公旦ノ文王武王ニ事フル類。ソノ綺語ヲ聞ヌシヤ。君ニモヨリ。自身ノ位ノ高下ニモヨリ。時処ニモヨリテ。心得ノアルベキコトト思ハルルシヤ。

書き下し

女人ノ中。国母后妃タル人ハ国君ニ準ス。官女ノ類ハ位ノ高下ニヨル。仏在世ノ摩訶波閣波提。耶輸陀羅。摩利夫人等ハ綺語ニ随順アリシコトヲ聞ヌシヤ。律蔵ノ中ニ。增長カ猛光王ニ事フル。或ハ綺語ニ随順セシ事ガアル。又史記ノ滑稽伝等ヲ見ルニ。淳于髡。優孟。東方朔等ノ綺語ヲ以テ君ノ心ヲ正シクシ。人ヲ救ヒ政ノ弊ヲ改メシ。コノ類ハ許シテ可ナリシヤ。印度ノ事実ニ。行雨大臣カ阿閣世王ニ事フル。摩訶男釈氏カ浄飯王ニ事フル。支那ノ事実ニ。稷契皐陶ノ堯舜ニ事フル。太公望周公旦ノ文王武王ニ事フル類。ソノ綺語ヲ聞ヌシヤ。君ニモヨリ。自身ノ位ノ高下ニモヨリ。時処ニモヨリテ。心得ノアルベキコトト思ハルルシヤ。

現代語訳

女性の中では、国母や后妃である人は国君に準ずる。官女の類は位の高下による。仏在世の摩訶波闍波提(釈尊の養母)、耶輸陀羅(釈尊の妃)、摩利夫人(波斯匿王の妃)らは、綺語に従ったことを聞かないのである。律蔵の中に、増長が猛光王に仕えて、あるいは綺語に従った事がある。また史記の滑稽伝などを見ると、淳于髡・優孟・東方朔らが綺語によって君の心を正し、人を救い政治の弊害を改めた。この類は許してよいのである。インドの事実では、行雨大臣が阿闍世王に仕え、摩訶男釈氏が浄飯王に仕え、中国の事実では、稷・契・皐陶が堯舜に仕え、太公望や周公旦が文王武王に仕えた類は、その綺語を聞かないのである。君にもより、自身の位の高下にもより、時と所にもよって、心得があるべきことと思われるのである。

解説

綺語の許される場合と許されない場合を、人物の例で示す段である。『史記』滑稽列伝の淳于髡・優孟や、漢の東方朔は、ユーモアや風刺で君主を諫め政治の誤りを正した人物として知られ、尊者はこれを許してよいとする。一方、釈尊の養母や妃、堯舜に仕えた賢臣、周の太公望や周公旦には綺語の話が伝わらない。仕える相手、自分の位、時と所によって心得が変わるという結論は、ユーモアが相手を正す力にもなれば、ただの軽薄にもなるという両面をよく捉えている。

この章句が説くこと

綺語諫言時処位滑稽東方朔心得

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