十善法語 / 巻第五・不綺語戒
通シテハ此陰陽巫祝ノ類ハ君子齒セヌト云。天竺ニ在テハ此ヲ婆羅門淨行ノ者ノ道トス。古ニ君子廊廟ノ上ニ居セザレハ。醫トノ中ニ隱ルルト云シヤ。此外ニ伯樂カ馬ヲ相スルナドヲ思ヘハ。小伎倆トイヘトモ。ソノ妙處ニ至ラハ。面白カルベシ。阿含部ノ中。牧牛經ニ依レハ。牧牛法ノ中ニ無漏聖道ヲ得ル。算術ハ六藝ノ一タリ。是モ妙處ニ到ラハ思慮ノ及所ニ非ズシヤ。昔シ阿難尊者カ算法ヲ布テ樹葉ノ多少ヲ知ル後世ニハ尼乾子カ算ヲ布テ玄奘三藏ノ壽命福德ヲ量ル。一行禪師カ天台ニ在テ。異人ニ逢テ其術ヲ傳フル。ミナ面白カルベキコトシヤ。書家ノ書法ヲ論スル。心正ケレハ筆オノツカラ正ト云。其理アルベシ。爾餘禮節ノ設ケ。騎射ノ藝。曆術モ。天學モ。地理ノ學モ。風鑑望氣ノ術。ミナ菩薩工巧明ノ中ヨリ等流シテ世ヲ利益ス。此等ノ中ニモ道アルベシ。道ガアレハ其樂アルベキコトシヤ。
新字:通シテハ此陰陽巫祝ノ類ハ君子歯セヌト云。天竺ニ在テハ此ヲ婆羅門浄行ノ者ノ道トス。古ニ君子廊廟ノ上ニ居セザレハ。医トノ中ニ隠ルルト云シヤ。此外ニ伯楽カ馬ヲ相スルナドヲ思ヘハ。小伎倆トイヘトモ。ソノ妙処ニ至ラハ。面白カルベシ。阿含部ノ中。牧牛経ニ依レハ。牧牛法ノ中ニ無漏聖道ヲ得ル。算術ハ六芸ノ一タリ。是モ妙処ニ到ラハ思慮ノ及所ニ非ズシヤ。昔シ阿難尊者カ算法ヲ布テ樹葉ノ多少ヲ知ル後世ニハ尼乾子カ算ヲ布テ玄奘三蔵ノ寿命福徳ヲ量ル。一行禅師カ天台ニ在テ。異人ニ逢テ其術ヲ伝フル。ミナ面白カルベキコトシヤ。書家ノ書法ヲ論スル。心正ケレハ筆オノツカラ正ト云。其理アルベシ。爾余礼節ノ設ケ。騎射ノ芸。暦術モ。天学モ。地理ノ学モ。風鑑望気ノ術。ミナ菩薩工巧明ノ中ヨリ等流シテ世ヲ利益ス。此等ノ中ニモ道アルベシ。道ガアレハ其楽アルベキコトシヤ。
書き下し
通シテハ此陰陽巫祝ノ類ハ君子歯セヌト云。天竺ニ在テハ此ヲ婆羅門浄行ノ者ノ道トス。古ニ君子廊廟ノ上ニ居セザレハ。医トノ中ニ隠ルルト云シヤ。此外ニ伯楽カ馬ヲ相スルナドヲ思ヘハ。小伎倆トイヘトモ。ソノ妙処ニ至ラハ。面白カルベシ。阿含部ノ中。牧牛経ニ依レハ。牧牛法ノ中ニ無漏聖道ヲ得ル。算術ハ六芸ノ一タリ。是モ妙処ニ到ラハ思慮ノ及所ニ非ズシヤ。昔シ阿難尊者カ算法ヲ布テ樹葉ノ多少ヲ知ル後世ニハ尼乾子カ算ヲ布テ玄奘三蔵ノ寿命福徳ヲ量ル。一行禅師カ天台ニ在テ。異人ニ逢テ其術ヲ伝フル。ミナ面白カルベキコトシヤ。書家ノ書法ヲ論スル。心正ケレハ筆オノツカラ正ト云。其理アルベシ。爾余礼節ノ設ケ。騎射ノ芸。暦術モ。天学モ。地理ノ学モ。風鑑望気ノ術。ミナ菩薩工巧明ノ中ヨリ等流シテ世ヲ利益ス。此等ノ中ニモ道アルベシ。道ガアレハ其楽アルベキコトシヤ。
現代語訳
一般には、この陰陽師や巫祝の類は君子が同列に扱わないと言う。天竺にあっては、これを婆羅門の浄行の者の道とする。古に、君子は廟堂の上にいなければ医者や卜者の中に隠れる、と言うのである。このほかに、伯楽が馬の相を見ることなどを思えば、小さな技量といえども、その妙処に至るなら面白いはずである。阿含部の中の牧牛経によれば、牛を飼う法の中に無漏の聖道を得る。算術は六芸の一つである。これも妙処に至れば思慮の及ぶところではないのである。昔、阿難尊者が算法を布いて樹の葉の数を知った。後世には尼乾子が算を布いて玄奘三蔵の寿命や福徳を量った。一行禅師が天台山で不思議な人に出会ってその術を伝えられた。みな面白いはずのことである。書家が書法を論じて、心が正しければ筆も自ずから正しい、と言う。その理はあるはずである。そのほか、礼節の設け、騎射の芸、暦術も、天文学も、地理の学も、人相見や気を望む術も、みな菩薩の工巧明の中から流れ出て世を利益する。これらの中にも道があるはずである。道があればその楽しみがあるはずのことである。
解説
この章句が説くこと
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