十善法語 / 巻第五・不綺語戒
總シテ病人ハ顏色モ異ナルモノ。死スル病人ハ顏色ニモ大槩ハ顯ハル。此ガ常人モ見ユルカラハ。醫者カ心ヲ純一ニ用ヒハ。顏色ヲ觀テ內外ノ病ヲ分ツヘク。風寒暑濕ノワカレモ知ヘキコトシヤ。病人ハ音聲モ常ニ異ナルモノ。其病ノ輕重ニ隨テ其音聲漸次ニ違フ。此等カ常人モ知ルカラ見レバ。醫者カヨク心ヲ用ヒハ。聲ヲ聞テ。內外ノ傷レ。虛實ノ病モ知ルベキコトシヤ。脈狀モ外邪ノ類痛ノ類。大抵常人カ見テモ分ルルト云カラ見レバ。醫者カ心ヲ用ヒバ。人ノ死生ヲモ斷シ。虛實ヲモ知ルベキコトシヤ。佛在世ノ者婆カ一生淨行ヲ守リ。純一ニ心ヲ用ヒシト聞ハ。醫者ト云モノハ。遊山玩水。茶香圍碁。絲竹管絃ナトノ遊ハアルマシク。況テ狂言綺語ニ隨順スル理ハアルマシキコトソ。病ト藥トニ寢食ヲモ忘レ。老ノ將ニ至ントスルヲ知ラスト云ホドニアリタキコトシヤ。
新字:総シテ病人ハ顔色モ異ナルモノ。死スル病人ハ顔色ニモ大槩ハ顕ハル。此ガ常人モ見ユルカラハ。医者カ心ヲ純一ニ用ヒハ。顔色ヲ観テ内外ノ病ヲ分ツヘク。風寒暑湿ノワカレモ知ヘキコトシヤ。病人ハ音声モ常ニ異ナルモノ。其病ノ軽重ニ随テ其音声漸次ニ違フ。此等カ常人モ知ルカラ見レバ。医者カヨク心ヲ用ヒハ。声ヲ聞テ。内外ノ傷レ。虚実ノ病モ知ルベキコトシヤ。脈状モ外邪ノ類痛ノ類。大抵常人カ見テモ分ルルト云カラ見レバ。医者カ心ヲ用ヒバ。人ノ死生ヲモ断シ。虚実ヲモ知ルベキコトシヤ。仏在世ノ者婆カ一生浄行ヲ守リ。純一ニ心ヲ用ヒシト聞ハ。医者ト云モノハ。遊山玩水。茶香囲碁。糸竹管絃ナトノ遊ハアルマシク。況テ狂言綺語ニ随順スル理ハアルマシキコトソ。病ト薬トニ寝食ヲモ忘レ。老ノ将ニ至ントスルヲ知ラスト云ホドニアリタキコトシヤ。
書き下し
総シテ病人ハ顔色モ異ナルモノ。死スル病人ハ顔色ニモ大槩ハ顕ハル。此ガ常人モ見ユルカラハ。医者カ心ヲ純一ニ用ヒハ。顔色ヲ観テ内外ノ病ヲ分ツヘク。風寒暑湿ノワカレモ知ヘキコトシヤ。病人ハ音声モ常ニ異ナルモノ。其病ノ軽重ニ随テ其音声漸次ニ違フ。此等カ常人モ知ルカラ見レバ。医者カヨク心ヲ用ヒハ。声ヲ聞テ。内外ノ傷レ。虚実ノ病モ知ルベキコトシヤ。脈状モ外邪ノ類痛ノ類。大抵常人カ見テモ分ルルト云カラ見レバ。医者カ心ヲ用ヒバ。人ノ死生ヲモ断シ。虚実ヲモ知ルベキコトシヤ。仏在世ノ者婆カ一生浄行ヲ守リ。純一ニ心ヲ用ヒシト聞ハ。医者ト云モノハ。遊山玩水。茶香囲碁。糸竹管絃ナトノ遊ハアルマシク。況テ狂言綺語ニ随順スル理ハアルマシキコトソ。病ト薬トニ寝食ヲモ忘レ。老ノ将ニ至ントスルヲ知ラスト云ホドニアリタキコトシヤ。
現代語訳
総じて病人は顔色も普通と異なるものである。死ぬ病人は、顔色にもおおかた現れる。これが普通の人にも見えるのだから、医者が心を純一に用いれば、顔色を見て内外の病を分けることができ、風・寒・暑・湿の別も知ることができるはずである。病人は声も普通と異なるものである。その病の軽重に従って、その声は次第に違ってくる。これらが普通の人にも分かることから見れば、医者がよく心を用いれば、声を聞いて内外の損傷、虚実の病も知ることができるはずである。脈の様子も、外邪の類や痛みの類は、おおよそ普通の人が見ても分かると言うのだから、医者が心を用いれば、人の生死をも断じ、虚実をも知ることができるはずである。仏在世の耆婆が一生清らかな行いを守り、純一に心を用いたと聞けば、医者というものは、山遊び水遊び、茶・香・囲碁、糸竹管絃などの遊びはあってはならず、まして狂言綺語に従う理由はあるはずもない。病と薬とに寝食をも忘れ、老いがまさに至ろうとするのも知らない、というほどでありたいものである。
解説

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