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十善法語 / 巻第五・不綺語戒

不言シテ治ル。不怒シテ威アル。命令ハ唯善政シヤ。言音ハ唯愛語シヤ。不惡口ノ法。法トシテ如是シヤ。忠直骨鯁ニ任シテ風俗厚ニ歸ス。廉吏ヲ用テ下民自ラ安ンス。元首ノ四肢ヲ役スル如ク。不兩舌ノ法。法トシテ如是シヤ。衣ハ文絲ヲ賤ンス。器ハ雕鏤ヲ貴ハヌ。美好ノ德ヲ害スルヲ知ル。遠物ノ用ナキヲ知ル。文華ノ眞ヲ亂ルヲ知ル。多求ノ性ヲ傷フヲ知ル。我自ラ足コトヲ知テ民庶コトコトク足ル。我自ラ減スルコトヲ守テ四海ミナ儉ヲ守ル。不貪欲ノ法。法トシテ如是シヤ。大臣忠義ヲ全クスル。小臣其力ヲツクス。我不如意ノ事ナイ。萬民ソノ業ヲ安ス。海外風ニ靡ク。我不如意ノ事ナイ。苦聲聞カス。噸蹙見ス。我不如意ノ事ナイ。不嗔恚ノ法。法トシテ如是シヤ。道ノ邪正ヲ辨シテ。眞正ノ道ノ貴ムヘキコトヲ知ル。理ノ當然ヲ詳ニシテ法ニ依レハ。身心ノ安ヲ知ル孔子ノ少正卯ヲ誅セシ事ヲ聞ケハ。似テ非ナル者ハ斥クヘキコトヲ知ル引正王ノ龍樹菩薩ヲ恭敬セシ事ヲ聞ケハ。有道ノ師ニハ親近スヘキヲ知ル。萬國ミナ貢獻スル。此富ヲ以テ福田悲田ニ納メオク。億兆コトコトク推戴スル。此位ヲ以テ有德ヲ恭敬スル。不邪見ノ法。法トシテ如是シヤ。此等誠ニ大君ノ樂ミト云ヘキシヤ。

新字:不言シテ治ル。不怒シテ威アル。命令ハ唯善政シヤ。言音ハ唯愛語シヤ。不悪口ノ法。法トシテ如是シヤ。忠直骨鯁ニ任シテ風俗厚ニ帰ス。廉吏ヲ用テ下民自ラ安ンス。元首ノ四肢ヲ役スル如ク。不両舌ノ法。法トシテ如是シヤ。衣ハ文糸ヲ賤ンス。器ハ雕鏤ヲ貴ハヌ。美好ノ徳ヲ害スルヲ知ル。遠物ノ用ナキヲ知ル。文華ノ真ヲ乱ルヲ知ル。多求ノ性ヲ傷フヲ知ル。我自ラ足コトヲ知テ民庶コトコトク足ル。我自ラ減スルコトヲ守テ四海ミナ倹ヲ守ル。不貪欲ノ法。法トシテ如是シヤ。大臣忠義ヲ全クスル。小臣其力ヲツクス。我不如意ノ事ナイ。万民ソノ業ヲ安ス。海外風ニ靡ク。我不如意ノ事ナイ。苦声聞カス。噸蹙見ス。我不如意ノ事ナイ。不嗔恚ノ法。法トシテ如是シヤ。道ノ邪正ヲ弁シテ。真正ノ道ノ貴ムヘキコトヲ知ル。理ノ当然ヲ詳ニシテ法ニ依レハ。身心ノ安ヲ知ル孔子ノ少正卯ヲ誅セシ事ヲ聞ケハ。似テ非ナル者ハ斥クヘキコトヲ知ル引正王ノ竜樹菩薩ヲ恭敬セシ事ヲ聞ケハ。有道ノ師ニハ親近スヘキヲ知ル。万国ミナ貢献スル。此富ヲ以テ福田悲田ニ納メオク。億兆コトコトク推戴スル。此位ヲ以テ有徳ヲ恭敬スル。不邪見ノ法。法トシテ如是シヤ。此等誠ニ大君ノ楽ミト云ヘキシヤ。

書き下し

不言シテ治ル。不怒シテ威アル。命令ハ唯善政シヤ。言音ハ唯愛語シヤ。不悪口ノ法。法トシテ如是シヤ。忠直骨鯁ニ任シテ風俗厚ニ帰ス。廉吏ヲ用テ下民自ラ安ンス。元首ノ四肢ヲ役スル如ク。不両舌ノ法。法トシテ如是シヤ。衣ハ文糸ヲ賤ンス。器ハ雕鏤ヲ貴ハヌ。美好ノ徳ヲ害スルヲ知ル。遠物ノ用ナキヲ知ル。文華ノ真ヲ乱ルヲ知ル。多求ノ性ヲ傷フヲ知ル。我自ラ足コトヲ知テ民庶コトコトク足ル。我自ラ減スルコトヲ守テ四海ミナ倹ヲ守ル。不貪欲ノ法。法トシテ如是シヤ。大臣忠義ヲ全クスル。小臣其力ヲツクス。我不如意ノ事ナイ。万民ソノ業ヲ安ス。海外風ニ靡ク。我不如意ノ事ナイ。苦声聞カス。噸蹙見ス。我不如意ノ事ナイ。不嗔恚ノ法。法トシテ如是シヤ。道ノ邪正ヲ弁シテ。真正ノ道ノ貴ムヘキコトヲ知ル。理ノ当然ヲ詳ニシテ法ニ依レハ。身心ノ安ヲ知ル孔子ノ少正卯ヲ誅セシ事ヲ聞ケハ。似テ非ナル者ハ斥クヘキコトヲ知ル引正王ノ竜樹菩薩ヲ恭敬セシ事ヲ聞ケハ。有道ノ師ニハ親近スヘキヲ知ル。万国ミナ貢献スル。此富ヲ以テ福田悲田ニ納メオク。億兆コトコトク推戴スル。此位ヲ以テ有徳ヲ恭敬スル。不邪見ノ法。法トシテ如是シヤ。此等誠ニ大君ノ楽ミト云ヘキシヤ。

現代語訳

言わずして治まる。怒らずして威がある。命令はただ善政である。言葉はただ愛語である。不悪口の法は、法としてこのようなものである。忠実で真っ直ぐな骨のある臣に任せて、風俗が厚きに帰る。清廉な役人を用いて、下々の民が自ずから安んずる。頭が四肢を使うように。不両舌の法は、法としてこのようなものである。衣は模様のある糸を賤しむ。器は彫刻を貴ばない。美しく好ましいものが徳を害することを知る。遠方の物が役に立たないことを知る。飾りが真を乱すことを知る。多く求めることが本性を傷つけることを知る。自分が自ら足ることを知って、民はことごとく足る。自分が自ら減らすことを守って、天下がみな倹約を守る。不貪欲の法は、法としてこのようなものである。大臣は忠義を全うする。小臣はその力を尽くす。自分の思いどおりにならない事がない。万民はその業に安んずる。海外もその風になびく。自分の思いどおりにならない事がない。苦しみの声が聞こえない。しかめ面が見えない。自分の思いどおりにならない事がない。不瞋恚の法は、法としてこのようなものである。道の邪正を弁えて、真正の道が貴ぶべきことを知る。理の当然を詳らかにして法に依れば、身心が安らかであることを知る。孔子が少正卯を誅した事を聞けば、似て非なる者は退けるべきことを知る。引正王が龍樹菩薩を恭敬した事を聞けば、道ある師には親しみ近づくべきことを知る。万国がみな貢ぎ物を献ずる。この富を福田や悲田(仏法僧への供養と貧窮者への施し)に納めておく。億兆の民がことごとく推し戴く。この位によって徳ある者を恭敬する。不邪見の法は、法としてこのようなものである。これらはまことに大君の楽しみと言うべきである。

解説

君主の十善の後半、不悪口から不邪見までである。怒らずに威があり言葉は愛語、忠臣と清廉な役人に任せて人を割らない、贅沢を退けて自ら足るを知れば民も足る、といった姿が描かれる。孔子が少正卯を誅した話は『荀子』などに見える伝承で、似て非なる者を退ける例とされる。引正王は龍樹を師として敬った南インドの王である。尊者はこれらこそ大君の楽しみだと結ぶ。上が足るを知れば下も足るという連鎖は、今日の組織文化づくりにもそのまま当てはまる。

この章句が説くこと

不貪欲不瞋恚不邪見知足愛語竜樹

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