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十善法語 / 巻第五・不綺語戒

唐書ニ。中宗ノ時。其后ヲ韋皇后ト云。其父ヲ章玄貞ト云。中宗欲以韋玄貞爲侍中。裴炎固爭。中宗怒曰。我以天下與章玄貞何不可而惜侍中耶。裴炎懼白。密謀廢立。是月大后廢中宗ト。天下ヲ由ナキ人ニ與フマシキハ。庸人モ知ルトコロシヤ。此等ハ慢惰ノ心ヨリ起テ。身綺口綺ニ屬スルシヤ。理ヲ尅シテ言ハハ。王者ノ一行一言ハ。小國小郡ヨリ重キシヤ。一言國ヲ興ス。萬民ノ福トナル。一言國ヲ亂ス。萬民ノ殃トナル。此綺語戲謔ハ。世ニ在テ憂苦ヲ長スル。謹愼篤實ハ實ニ歡樂ノ在處シヤ。此ニ人有テ其心輕薄ニ落ネハ。天地四方。風雲日月。ミナ我樂ノ在處シヤ。禽獸草木。古今ノ人物。ミナ我樂ノ在處シヤ。一切ノ典籍。治亂ノ事跡。ミナ我樂ノ在處シヤ。

新字:唐書ニ。中宗ノ時。其后ヲ韋皇后ト云。其父ヲ章玄貞ト云。中宗欲以韋玄貞為侍中。裴炎固争。中宗怒曰。我以天下与章玄貞何不可而惜侍中耶。裴炎懼白。密謀廃立。是月大后廃中宗ト。天下ヲ由ナキ人ニ与フマシキハ。庸人モ知ルトコロシヤ。此等ハ慢惰ノ心ヨリ起テ。身綺口綺ニ属スルシヤ。理ヲ尅シテ言ハハ。王者ノ一行一言ハ。小国小郡ヨリ重キシヤ。一言国ヲ興ス。万民ノ福トナル。一言国ヲ乱ス。万民ノ殃トナル。此綺語戯謔ハ。世ニ在テ憂苦ヲ長スル。謹慎篤実ハ実ニ歓楽ノ在処シヤ。此ニ人有テ其心軽薄ニ落ネハ。天地四方。風雲日月。ミナ我楽ノ在処シヤ。禽獣草木。古今ノ人物。ミナ我楽ノ在処シヤ。一切ノ典籍。治乱ノ事跡。ミナ我楽ノ在処シヤ。

書き下し

唐書ニ。中宗ノ時。其后ヲ韋皇后ト云。其父ヲ章玄貞ト云。中宗欲以韋玄貞為侍中。裴炎固争。中宗怒曰。我以天下与章玄貞何不可而惜侍中耶。裴炎懼白。密謀廃立。是月大后廃中宗ト。天下ヲ由ナキ人ニ与フマシキハ。庸人モ知ルトコロシヤ。此等ハ慢惰ノ心ヨリ起テ。身綺口綺ニ属スルシヤ。理ヲ尅シテ言ハハ。王者ノ一行一言ハ。小国小郡ヨリ重キシヤ。一言国ヲ興ス。万民ノ福トナル。一言国ヲ乱ス。万民ノ殃トナル。此綺語戯謔ハ。世ニ在テ憂苦ヲ長スル。謹慎篤実ハ実ニ歓楽ノ在処シヤ。此ニ人有テ其心軽薄ニ落ネハ。天地四方。風雲日月。ミナ我楽ノ在処シヤ。禽獣草木。古今ノ人物。ミナ我楽ノ在処シヤ。一切ノ典籍。治乱ノ事跡。ミナ我楽ノ在処シヤ。

現代語訳

唐書に、中宗の時、その后を韋皇后と言い、その父を章(韋)玄貞と言った。中宗は韋玄貞を侍中にしようとした。裴炎が強く争った。中宗は怒って言った、わたしが天下を章玄貞に与えたとして何が悪いのか、どうして侍中の位を惜しむのか、と。裴炎は恐れて(太后に)申し上げ、ひそかに廃立を謀った。この月に太后は中宗を廃した、とある。天下をいわれのない人に与えてはならないことは、凡人でも知っていることである。これらは怠り驕る心から起こって、身綺・口綺に属するのである。理を詰めて言えば、王者の一つの行い一つの言葉は、小国や小郡よりも重いのである。一言が国を興して万民の福となり、一言が国を乱して万民の禍となる。この綺語や戯れは、世にあって憂いと苦しみを長じさせる。慎み深く誠実であることこそ、まことに歓びと楽しみのありかである。ここに人がいて、その心が軽薄に落ちなければ、天地四方、風雲日月、みな自分の楽しみのありかである。鳥獣草木、古今の人物、みな自分の楽しみのありかである。あらゆる典籍、治乱の事跡、みな自分の楽しみのありかである。

解説

唐の中宗が即位早々、皇后の父を重用しようとして天下を与えても構わないと口走り、武則天によって廃された話で、『資治通鑑』などに見える。尊者はこれを怠りと驕りから出た綺語とし、王者の一言は一国より重いと言う。ここから話は転じ、軽薄な楽しみを捨てた人には天地の風景も古今の人物も書物も、すべてが楽しみの場になると説き始める。慎みは窮屈なものではなく、より深い楽しみへの入口だという、この巻の中心となる主張がここで姿を現す。

この章句が説くこと

言責驕慢慎み楽しみ王者唐の中宗

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