十善法語 / 巻第五・不綺語戒
安永三年甲午正月二十三日示衆。師云。第五ヲ不綺語戒ト云。綺ハ織成シテ模樣アル絹シヤ。字書ニ綺ハ欹也。其文欹邪不順トアル。アヤアル詞。正カラヌ辭ヲ綺語ト云。此戒ハ此絹ニ象リテ名ヲ立タモノシヤ。此模樣アル言辭ハ。質直ヲ失フテ。散亂ヲ招ク。コレニ異名有テ。新譯ニ無義語ト翻ス。此ハ義理ナク利益ナキ邊ニ名ヲ立タモノシヤ。又雜穢語ト翻ス。純一ナラヌ邊ニ名ヲ立タモノシヤ。口四ノ中ニ。餘ノ三戒ハ其罪著シケレハ。其惡タル。誰レ知ラヌ者ナイ。此戒ハ他ノ歡笑ヲ催スナレハ其相隱ル。其惡タル知ラヌ者カ多イ。尙モ細心ニ護持スヘキ戒シヤ。
新字:安永三年甲午正月二十三日示衆。師云。第五ヲ不綺語戒ト云。綺ハ織成シテ模様アル絹シヤ。字書ニ綺ハ欹也。其文欹邪不順トアル。アヤアル詞。正カラヌ辞ヲ綺語ト云。此戒ハ此絹ニ象リテ名ヲ立タモノシヤ。此模様アル言辞ハ。質直ヲ失フテ。散乱ヲ招ク。コレニ異名有テ。新訳ニ無義語ト翻ス。此ハ義理ナク利益ナキ辺ニ名ヲ立タモノシヤ。又雑穢語ト翻ス。純一ナラヌ辺ニ名ヲ立タモノシヤ。口四ノ中ニ。余ノ三戒ハ其罪著シケレハ。其悪タル。誰レ知ラヌ者ナイ。此戒ハ他ノ歓笑ヲ催スナレハ其相隠ル。其悪タル知ラヌ者カ多イ。尚モ細心ニ護持スヘキ戒シヤ。
書き下し
安永三年甲午正月二十三日示衆。師云。第五ヲ不綺語戒ト云。綺ハ織成シテ模様アル絹シヤ。字書ニ綺ハ欹也。其文欹邪不順トアル。アヤアル詞。正カラヌ辞ヲ綺語ト云。此戒ハ此絹ニ象リテ名ヲ立タモノシヤ。此模様アル言辞ハ。質直ヲ失フテ。散乱ヲ招ク。コレニ異名有テ。新訳ニ無義語ト翻ス。此ハ義理ナク利益ナキ辺ニ名ヲ立タモノシヤ。又雑穢語ト翻ス。純一ナラヌ辺ニ名ヲ立タモノシヤ。口四ノ中ニ。余ノ三戒ハ其罪著シケレハ。其悪タル。誰レ知ラヌ者ナイ。此戒ハ他ノ歓笑ヲ催スナレハ其相隠ル。其悪タル知ラヌ者カ多イ。尚モ細心ニ護持スヘキ戒シヤ。
現代語訳
安永三年(一七七四)正月二十三日、大衆に示された。師は言われた。第五を不綺語戒と言う。綺とは、織り上げて模様のある絹のことである。字書に、綺は欹(かたむく)である、その文様は傾き邪で順わない、とある。あやのある言葉、正しくない言葉を綺語と言う。この戒はこの絹になぞらえて名を立てたものである。この模様のある言葉は、質朴で真っ直ぐなところを失って、心の散乱を招く。これには別名があって、新訳では無義語と訳す。これは道理がなく利益がない面から名を立てたものである。また雑穢語とも訳す。純一でない面から名を立てたものである。口の四つの戒のうち、ほかの三つの戒はその罪がはっきりしているので、それが悪であることを知らない者はいない。この戒は人の笑いを誘うものなので、その姿が隠れる。それが悪であることを知らない者が多い。だからなおさら細かく心を配って護持すべき戒なのである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第五・不綺語戒凡ソ大人タル者ハ。言語少キ習ヒシヤ。マシテカサリタル言。アヤアル辞。義理ニカナハヌ詞。ミナ其人品ニ相違ス。モシ言ヘハ大人ノ道ニ違フテ。此不綺語戒ヲ破スルシヤ。支那国ニ謂ユル滑稽隠語ノ類。我邦ニ謂ユルカル口誹諧狂言ナト。一切時ナラヌ言。処不相応ナル詞。皆此ニ摂ス。此中情詞艶曲ノ類。筆ヲ弄シテ紙上ニ書シ。両片皮ヲ鼓シテ言出ス。常人ノ軽軽ニ看過スル処ナレドモ。有志ノ者ハ恐懼スル処シヤ。近クハ世間ニ在テ其害カ兆ス。遠クハ法性ニ背キテ。悪業種ヲ成スルシヤ。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒要ヲ取テ云ハ。諸法ノ其アリ姿ノ改ラス変セス。飾ラス違ハザルヲ。此中ニ不綺語戒ノ相ト名ツク。一法性カ天地トナリ来レハ。天象地理カ分ル。一法性カ人トナリ来レバ。此人道ガアル。衆星分野乱レス。日月出没ス。天ノアリ姿カクシヤ。海水外ニ環リ。山嶽内ニ聳ユ。泉源地脈条然トシテ乱レヌ。地ノアリ姿カクシヤ眼横鼻直。手ニ執捉シ。足ニ運奔ス。人ノアリ姿カクシヤ。此中ニ此道アル。無ト云レヌシヤ。身ノ有ベキ道ニ背クヲ身綺ト云。口ノ有ベキ道ニ違ヲ口綺ト云シヤ。華厳経ニ。綺語ノ罪。衆生ヲシテ三悪道ニ堕セシムトアル。此ヲ異熟果ト名ツク。悪趣ヲ出テテ。タマタマ人間ニ生スルモ。性軽躁ニシテ威光ナシトアル。多ク人ノアザケリ侮リヲ受ルトアル。此等ヲ等流果ト云。余ノ経論ニ。官人ナレハ位ヲ失ヒ。商賈ナレバ利ヲ失フトアル。此類ヲ增上果ト名ツク。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒又世中一類ノ者アリ。好テ小児ヲ戯弄シ恐怖セシメ。或ハ好テ愚昧ノ者ヲ戯弄シ。或ハ怪談ヲ設ケ。怪事ヲ構造シテ。世ヲ惑ハシ民ヲ誣ル類。ミナ灾ノ兆ト知ヘシ。綺語ノ体ヲ云ハ。語業ニ属シテ。口四ノ中ノ一種ナレドモ。上ニモ云シ如ク。身口意ノ三業ハ。元来合一ナルモノニテ。身業ニモ此犯アルシヤ。ソレ故律ニ此戒ヲ身口綺戒ト名ク。口業ノ綺ハ次上ニ略指セル如シヤ。身業ノ綺ト云ハ。下ナル者カ上ノ衣冠ヲ着シ。上ノ威儀ヲマ子スル。春秋ノ時。季氏カ八佾舞於庭ノ類。三家カ以雍ヲ徹スル類。漢ノ時南越王佗カ黄屋左纛ヲ作シ類。総シテ身ノ作業ノ礼式ヲ踰ルハ。身綺ノ甚シキシヤ。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒此中麁相ニ憶念スル者ハ。上ノ身業ノ妄語ト混スヘシ。其差別ヲ知レ。他ヲ欺キ証サンカ為ニ礼式ヲ踰ルハ。身ノ妄語ヲ犯ス。戯ト心ノ傲トニ因テ礼式ヲ踰ユル類カ。此戒ヲ犯スルシヤ。上ナル人カ下ノ衣服ヲ着シ。下ノ威儀ヲマネスル。此モ身綺ニ属ス。古ニタトヒ習礼ノ時モ。主上ハ臣下ノ例ニハアルマシキト云類。実ニ十善ノ正規則ト云ヘキシヤ。明ノ武宗カ自ラ威武大将軍鎮国公朱寿ト名乗テ。諸国ヲ巡見ス。此類ハ甚シキコトシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒安永三年甲午二月八日示衆。師云。第六ハ他ヲ侮ラヌ法シヤ。此法ヲ不悪口戒ト云。又ハ不麁悪語戒ト名ツクル。上中下等ノ人ニ対シテ麁言ヲ以テ罵詈スル。是ヲ悪口ト云。此悪口ノ鄙劣ナルコトヲ知テ。口業ヲ守リ。柔軽語ニ順スルヲ。不悪口ト云。法有テ此不悪口ヲ護スルヲ不悪口戒ト名ツクル。其戒相ヲ言ハ。下賤ナル者ヲ下賤ト云ヒ。愚痴ナル者ヲ愚者ト言ヒ。形不具足ナル者ヲカタハモノト云類。尽ク此戒ノ違犯シヤ。若ハ上等ノ人ヲ中等ニ言ヒ下シ。中等ヲ下等ニ言ヒ下シ。ヒキコナサレヌ人ヲ引コナシテ言フ類ハ。此戒增上ノ違犯シヤ。若ハ種類ヲ挙テ。軽躁ナル者ヲ猿ニ比シ。暴悪ナル者ヲ豺狼ニ比シ。愚昧ナル者ヲ虫蟻ニ比シテ毀呰スル類ハ。尤甚シキコトシヤ。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒道ニモ大小アリ。徳ニモ大小吉凶アル。大人ハ大人ノ軌度アルベク。小人ハ小人ノ作法アルベシ。小人ノ作法ハ綺語ヲモ許スベキシヤ。婬男婬女花児ナトハ其器ナルベシシヤ。良民ノ中ニモ。侍女ノ類。小臣弄臣ノ類ハ。時時嬉戯アルモ可ナリシヤ。時ニノソミ興ニマカセテハ。公卿タリトモ少分ノ綺語ハ妨アルマシキ歟シヤ。但国君大人ト。真正ノ仏弟子トハ謹慎ニ護持スヘキコトシヤ。