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十善法語 / 巻第四・不妄語戒

今日目前ノ事モ此通リシヤ。今年ノ梅ノ花ハ去年ノ雪中ヨリ苞ヲ催シ來ル。舊冬ノ苞ハ十月落葉ノトキヨリ催シ來ル。其落葉ハ五月雨梅子熟セル時ヨリ催シ來ル。梅子ハ去シ落花ノ時ヨリ催シ來ル。其初ヲ尋レハ。種子ヲ植シ時ニ在ルシヤ。此種子ハ亦ソノ前ノ花ヲ問ヘキシヤ。春秋華菓互ニ輪轉シテ本來不生ナルモノシヤ。日ノ東ニ出テ西ニ沒スル。地上ノ人ハ此出沒ヲ見ル。元來日輪ニ此出沒ハナキシヤ。海水ハ月ニ隨テ盈縮スレトモ。元來大海ニ增減ハナキシヤ。百千萬ノ衆生カ同時ニ菩提心ヲ發シ。同時ニ菩薩ノ行ヲ修習シ。同時ニ無上正覺ヲ成シ。同時ニ大涅槃ニ安住スルモ。此衆生界一分ヲ減セス。彼佛界一分ヲ增セヌ。佛界ト衆生界ト元來增減ハナキシヤ。百千萬ノ衆生カ同時ニ惡邪見ヲ發シテ大重罪ヲ造ルモ。此生死海一分ヲ增セヌ。彼解脫海一分ヲ減セヌ。生死海ト解脫海ト元來增減ハナキシヤ。

新字:今日目前ノ事モ此通リシヤ。今年ノ梅ノ花ハ去年ノ雪中ヨリ苞ヲ催シ来ル。旧冬ノ苞ハ十月落葉ノトキヨリ催シ来ル。其落葉ハ五月雨梅子熟セル時ヨリ催シ来ル。梅子ハ去シ落花ノ時ヨリ催シ来ル。其初ヲ尋レハ。種子ヲ植シ時ニ在ルシヤ。此種子ハ亦ソノ前ノ花ヲ問ヘキシヤ。春秋華菓互ニ輪転シテ本来不生ナルモノシヤ。日ノ東ニ出テ西ニ没スル。地上ノ人ハ此出没ヲ見ル。元来日輪ニ此出没ハナキシヤ。海水ハ月ニ随テ盈縮スレトモ。元来大海ニ增減ハナキシヤ。百千万ノ衆生カ同時ニ菩提心ヲ発シ。同時ニ菩薩ノ行ヲ修習シ。同時ニ無上正覚ヲ成シ。同時ニ大涅槃ニ安住スルモ。此衆生界一分ヲ減セス。彼仏界一分ヲ增セヌ。仏界ト衆生界ト元来增減ハナキシヤ。百千万ノ衆生カ同時ニ悪邪見ヲ発シテ大重罪ヲ造ルモ。此生死海一分ヲ增セヌ。彼解脱海一分ヲ減セヌ。生死海ト解脱海ト元来增減ハナキシヤ。

書き下し

今日目前ノ事モ此通リシヤ。今年ノ梅ノ花ハ去年ノ雪中ヨリ苞ヲ催シ来ル。旧冬ノ苞ハ十月落葉ノトキヨリ催シ来ル。其落葉ハ五月雨梅子熟セル時ヨリ催シ来ル。梅子ハ去シ落花ノ時ヨリ催シ来ル。其初ヲ尋レハ。種子ヲ植シ時ニ在ルシヤ。此種子ハ亦ソノ前ノ花ヲ問ヘキシヤ。春秋華菓互ニ輪転シテ本来不生ナルモノシヤ。日ノ東ニ出テ西ニ没スル。地上ノ人ハ此出没ヲ見ル。元来日輪ニ此出没ハナキシヤ。海水ハ月ニ随テ盈縮スレトモ。元来大海ニ增減ハナキシヤ。百千万ノ衆生カ同時ニ菩提心ヲ発シ。同時ニ菩薩ノ行ヲ修習シ。同時ニ無上正覚ヲ成シ。同時ニ大涅槃ニ安住スルモ。此衆生界一分ヲ減セス。彼仏界一分ヲ增セヌ。仏界ト衆生界ト元来增減ハナキシヤ。百千万ノ衆生カ同時ニ悪邪見ヲ発シテ大重罪ヲ造ルモ。此生死海一分ヲ增セヌ。彼解脱海一分ヲ減セヌ。生死海ト解脱海ト元来增減ハナキシヤ。

現代語訳

今日目の前の事もこのとおりである。今年の梅の花は、去年の雪の中から蕾を催してきた。旧冬の蕾は、十月の落葉の時から催してきた。その落葉は、五月雨に梅の実が熟した時から催してきた。梅の実は、過ぎ去った落花の時から催してきた。その初めを尋ねれば、種子を植えた時にある。この種子はまたその前の花を問うべきである。春秋の花と実が互いに巡って、本来生じないものなのである。日が東に出て西に沈む。地上の人はこの出没を見る。もともと日輪にこの出没はないのである。海水は月に従って満ち干するけれども、もともと大海に増減はないのである。百千万の衆生が同時に菩提心を起こし、同時に菩薩の行を修め、同時に無上正覚を成し、同時に大涅槃に安住しても、この衆生界は一分も減らず、あの仏界は一分も増えない。仏界と衆生界には、もともと増減はないのである。百千万の衆生が同時に悪しき邪見を起こして大重罪を造っても、この生死の海は一分も増えず、あの解脱の海は一分も減らない。生死の海と解脱の海には、もともと増減はないのである。

解説

不生不滅という抽象的な教えを、慈雲は梅の一年で示す。今年の花は去年の雪の中の蕾から、蕾は秋の落葉から、落葉は梅の実から、実は前の花から来ていて、種までさかのぼってもその種はまた前の花から来る。日の出入りも地上から見た姿で日輪に出没はなく、潮の満ち干も大海そのものに増減はない。衆生が皆悟っても迷っても、仏の世界と衆生の世界に増減はないという。目の前の変化に一喜一憂しがちなとき、大きな巡りの中で見直すと心が落ち着く、という示唆がある。

この章句が説くこと

不生不滅増減巡り

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