十善法語 / 巻第四・不妄語戒
此モ華嚴會上ノ釋迦如來ハカリト見テハタカフソ。元來箇箇圓成。人人具足。其身一切世界ニ徧滿シテアルシヤ。此徧滿シタ身業ハ。取モ直サス人タル道ヲ守ル人ノ五尺ノ形シヤ。元來箇箇圓成。人人具足。其聲一切世界ニ徧滿シテアルシヤ。此徧滿シタ口業カ。取モ直サス妄語ヲ言ハヌ人ノ語言シヤ。元來箇箇圓成。人人具足。智三世ニ入テ悉ク平等ナルソ。此平等ナル意業カ。取モ直サス此法ヲ憶念スル人ノ今日現前ノ一念心シヤ。唯ワロク意得テ。及ハヌコトト思フ者カ。イツガイツマテモ迷ノ凡夫トナルシヤ。外ニ向テ求テ自心ノ光明ヲクラマス者カ。イツガイツマデモ本然具足ノ佛心ヲ見ルコトナラヌシヤ。
新字:此モ華厳会上ノ釈迦如来ハカリト見テハタカフソ。元来箇箇円成。人人具足。其身一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ身業ハ。取モ直サス人タル道ヲ守ル人ノ五尺ノ形シヤ。元来箇箇円成。人人具足。其声一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ口業カ。取モ直サス妄語ヲ言ハヌ人ノ語言シヤ。元来箇箇円成。人人具足。智三世ニ入テ悉ク平等ナルソ。此平等ナル意業カ。取モ直サス此法ヲ憶念スル人ノ今日現前ノ一念心シヤ。唯ワロク意得テ。及ハヌコトト思フ者カ。イツガイツマテモ迷ノ凡夫トナルシヤ。外ニ向テ求テ自心ノ光明ヲクラマス者カ。イツガイツマデモ本然具足ノ仏心ヲ見ルコトナラヌシヤ。
書き下し
此モ華厳会上ノ釈迦如来ハカリト見テハタカフソ。元来箇箇円成。人人具足。其身一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ身業ハ。取モ直サス人タル道ヲ守ル人ノ五尺ノ形シヤ。元来箇箇円成。人人具足。其声一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ口業カ。取モ直サス妄語ヲ言ハヌ人ノ語言シヤ。元来箇箇円成。人人具足。智三世ニ入テ悉ク平等ナルソ。此平等ナル意業カ。取モ直サス此法ヲ憶念スル人ノ今日現前ノ一念心シヤ。唯ワロク意得テ。及ハヌコトト思フ者カ。イツガイツマテモ迷ノ凡夫トナルシヤ。外ニ向テ求テ自心ノ光明ヲクラマス者カ。イツガイツマデモ本然具足ノ仏心ヲ見ルコトナラヌシヤ。
現代語訳
これも華厳の法会の上の釈迦如来のことばかりと見ては違うぞ。もともと一人ひとりが円かに成就し、人々が具え足りている。その身は一切の世界に遍く満ちているのである。この遍く満ちた身の業は、取りも直さず、人たる道を守る人の五尺の身体である。もともと一人ひとりが円かに成就し、人々が具え足りている。その声は一切の世界に遍く満ちているのである。この遍く満ちた口の業は、取りも直さず、妄語を言わない人の言葉である。もともと一人ひとりが円かに成就し、人々が具え足りている。智慧は三世に入ってことごとく平等なのだ。この平等な意の業は、取りも直さず、この法を心にとどめる人の、今日目の前の一念の心である。ただ悪く心得て、自分には及ばないことだと思う者が、いつまでたっても迷いの凡夫となるのである。外に向かって求めて自分の心の光明を暗くする者が、いつまでたっても本来具え足りている仏心を見ることができないのである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第四・不妄語戒又華厳経世主妙厳品ノ中ニ。毗盧遮那如来ヲ讃嘆シテ。其身一切世界ニ遍シ。其声一切世界ニ聞ユ。智三世ニ入テ悉ク平等ナリトアル。此モ其宗旨ノ中ニハ。家ノ解シヤウノアルヘキシヤカ。其宗風ハ且クオキテ。直ニ経意ヲ知レ。其身一切世界ニ遍スト云ハ。都表ナク大ナル身体ト思フカ。サウテナイ。是ヲ見奉ル人モアリ。礼拝恭敬スル人モアリ。供養讃嘆スル人モアリ。在会聞法ノ人モアリ。会中ノ荘厳モ有リ。他方来ノ菩薩モアルシヤ。其声一切世界ニ聞ユト云ハ。都表ナク大ナル声テ有フト思フカ。サウテナイ。因縁契当シタ者ハ聞ク。因縁契当セヌ人ハ聞コトカナラヌシヤ。智三世ニ入テ悉ク平等ナリト云ハ。都表ナク思慮分別ヲ逞クスルコトト思フカ。サウテナイ。一念心上ニ本来明了テ隠レ得ヌシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒此真実語ト云モノハ。法性ノ顕ルル姿テ。此世間ヲ利益スルシヤ。広大ナルコトシヤ。密教ノ中ニ。大日如来ヲ讃嘆シテ身口意業遍虚空トアル。此ハ誰モ覚テ居ル偈テ。宗旨ニハ家ノ解シヤウモ有ヘキシヤカ。其宗義ハ且ク置ケ。正意ハカウシヤ。自性法界ハ元来頑空無相テハナイ。身業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ色身トナリ来ルソ。口業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ音声語言トナリ来ルソ。意業カ直ニ法性ノ顕レタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ思惟了別トナリ来ルソ。此一切時一切処ニ隠シ得ヌ場処ヲ。法性ノ如来ト云。外ニ向テ求ルコトテハナイ。今日衆生ノ本性アリ通リヲ。取モ直サス法性ノ如来シヤ。本性ト云ヘハ名相ニ渉ルニ由テ。雲ノアナタノ事ト聞テアラフ。サウテナイ。今日現前ノ一念心ニ相違ナキシヤ。
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『十善法語』巻第六・不惡口戒法性法トシテソムケハ。此罪業アルコト。譬ヘハ印章ヲ紙ニ印シ出ス如ク。鋳像ノ模ヲ脱スル如ク。毫釐モ差ヒナキトアルシヤ。唯心ノ麁ナル者。道理ニ暗キ者ハ自ラ解セス。名利五欲ニ随順スルモノ。事ニ掩ハサルル者ハ自ラ迷フシヤ。一切衆生イキトシ生ル者。蠢動含霊。ミナ一仏性ナルコト。大海ノ同一酸味ナル如ク。太虚空ノ同一洞豁ナル如クシヤ。此一仏性。凡夫ニ在テモ減セヌ。仏ニ在テモ增セヌ。此仏性ノ增減ナキコトヲ信スレハ。自ラ憍慢ノ心ナク。悪口ハ離ルルシヤ。迷ニ迷ヲ累ヌレドモ。元来相違ナク。廓然トシテ開悟スレドモ。元来相違ナイ。此迷悟ヘタテナキコトヲ信スレハ。自ラ憍慢ノ心ナク。悪口ハ離ルルシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒今此戒ノ中ニ。要ヲ取テ言ヘハ。詐ヲ云ヌハカリカ甚深シヤ。最甚深シヤ。真実語カ直ニ仏語シヤ。外ニ仏語ハナイ。此真実語ヲ法ト名クル外ニ法ハナイ。此法ヲ精勤ニ護持スル人カ菩薩シヤ。外ニ菩薩ハナイ。三業共ニ甚深ナレトモ。諸戒共ニ甚深ナレトモ。今此戒ハカウシヤ。一切衆生ノ語言ハ法性ノ顕レタ姿シヤ。一切非衆生ノ音韻モ法性ノ顕レタ姿シヤ。楞厳経ノ中。観音菩薩ハ音声ヲ聞テ円通門ヲ得シトアル。耳根ヨリ三昧ヲ照ストアル。観音菩薩ノ時ノ音声モ。松風ハ松風水ノ音ハ水ノ音。今日現今ノ音声モ。松風ハ松風。水ノ音ハ水ノ音。音声ニ違ハナイ。此中決徹シテ疑ハネハ。観世音菩薩ハカリテナイ。人人耳根ノ中ニ円通門ヲ得ルコトシヤ。何ノ得ルトカ言ン。人人ミナ本来ノ観世音菩薩シヤ。本来ノ円通門シヤ。一切処ニカクシ得ヌシヤ。唯過去無量却来ノ妄語ノ業障ニ覆ハサレテ。暫ク現セヌハカリシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒智者ハ言語少ク。又妄語ナキシヤ。若多言ナレハ盛徳ノ疵トナル。虚妄ナレハ身ヲ亡シ家ヲ喪フ。又愚者ハ多ク妄語スル。此因縁ニ由テ他ノ欺ヲモ受ルト云コトシヤ。タトヒ愚蒙ナル者モ真実語ノ者ハ。一分智者ノ徳シヤ。世間モ面白キ物テ。法性ノ軌則条然トシテ差ヌシヤ。又上古ノ人病発スル時針灸薬ヲ用ヒス。唯咒術ニ由テ平癒セシト云モ。其理有ルヘキシヤ。道ヲ語ル者ノ中ニ。諸ノ外道ハ詐リ多トアル。諸仏ト仏弟子ハ妄語ハ無トアル。此妄語ナキ人カ真正法ヲ得ル。真正法ノ人ハ此一切言音カミナ法門トナリ来ル。此言音中ニ法ヲ満足シテ。無漏聖道ヲ得ルト云コトシヤ。仏世尊ハ無量却来此徳闕失ナキニ由テ。其教勅ニ一切衆生カ背ヌトアル。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒元来此身口意業ハ同一ナルモノシヤ。別ニ似テ別ナラヌモノシヤ。身ニ意業ヲ作ルコトモアリ。口業ヲ造ルコトモアリ。口ニ意業ヲ作ルコトモアリ。身業ヲ作ルコトモアリ。意ニ身業ヲ作ルコトモアリ。口業ヲ作ルコトモ有ルシヤ。ソレ故経ノ中律ノ中ニ。口罪ノ妄語身心ノ妄語ト云コトカ有ルシヤ。此中口罪ノ妄語ハ知レタ通リシヤ。身ノ妄語トハ。人ヲ誑カサン為ニ卑官ノ人カ高官ヲ偽ル。徳ナキ者カ有徳ノ相ヲ現スル。才ナキ者カ才アルヨソホヒヲ作ス類。一切ミナ此中ニ摂スルシヤ。事例ヲ挙ハ。漢ノ時成方遂カ黄犢ノ車ニ乗テ北闕ニ詣シテ衛太子ノマネスル。戦国ノ時南郭先生カ斉ニ濫吹セシ。唐ノ時。曳白及第ナトノ類カ的シキ身ノ妄語シヤ。