十善法語 / 巻第四・不妄語戒
此眞實語ト云モノハ。法性ノ顯ルル姿テ。此世間ヲ利益スルシヤ。廣大ナルコトシヤ。密教ノ中ニ。大日如來ヲ讃嘆シテ身口意業徧虛空トアル。此ハ誰モ覺テ居ル偈テ。宗旨ニハ家ノ解シヤウモ有ヘキシヤカ。其宗義ハ且ク置ケ。正意ハカウシヤ。自性法界ハ元來頑空無相テハナイ。身業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ緣起スレハ等虛空界微妙ノ色身トナリ來ルソ。口業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ緣起スレハ等虚空界微妙ノ音聲語言トナリ來ルソ。意業カ直ニ法性ノ顯レタ姿シヤ。法性カ緣起スレハ等虛空界微妙ノ思惟了別トナリ來ルソ。此一切時一切處ニ隱シ得ヌ場處ヲ。法性ノ如來ト云。外ニ向テ求ルコトテハナイ。今日衆生ノ本性アリ通リヲ。取モ直サス法性ノ如來シヤ。本性ト云ヘハ名相ニ涉ルニ由テ。雲ノアナタノ事ト聞テアラフ。サウテナイ。今日現前ノ一念心ニ相違ナキシヤ。
新字:此真実語ト云モノハ。法性ノ顕ルル姿テ。此世間ヲ利益スルシヤ。広大ナルコトシヤ。密教ノ中ニ。大日如来ヲ讃嘆シテ身口意業遍虚空トアル。此ハ誰モ覚テ居ル偈テ。宗旨ニハ家ノ解シヤウモ有ヘキシヤカ。其宗義ハ且ク置ケ。正意ハカウシヤ。自性法界ハ元来頑空無相テハナイ。身業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ色身トナリ来ルソ。口業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ音声語言トナリ来ルソ。意業カ直ニ法性ノ顕レタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ思惟了別トナリ来ルソ。此一切時一切処ニ隠シ得ヌ場処ヲ。法性ノ如来ト云。外ニ向テ求ルコトテハナイ。今日衆生ノ本性アリ通リヲ。取モ直サス法性ノ如来シヤ。本性ト云ヘハ名相ニ渉ルニ由テ。雲ノアナタノ事ト聞テアラフ。サウテナイ。今日現前ノ一念心ニ相違ナキシヤ。
書き下し
此真実語ト云モノハ。法性ノ顕ルル姿テ。此世間ヲ利益スルシヤ。広大ナルコトシヤ。密教ノ中ニ。大日如来ヲ讃嘆シテ身口意業遍虚空トアル。此ハ誰モ覚テ居ル偈テ。宗旨ニハ家ノ解シヤウモ有ヘキシヤカ。其宗義ハ且ク置ケ。正意ハカウシヤ。自性法界ハ元来頑空無相テハナイ。身業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ色身トナリ来ルソ。口業カ直ニ法性ノアラハレタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ音声語言トナリ来ルソ。意業カ直ニ法性ノ顕レタ姿シヤ。法性カ縁起スレハ等虚空界微妙ノ思惟了別トナリ来ルソ。此一切時一切処ニ隠シ得ヌ場処ヲ。法性ノ如来ト云。外ニ向テ求ルコトテハナイ。今日衆生ノ本性アリ通リヲ。取モ直サス法性ノ如来シヤ。本性ト云ヘハ名相ニ渉ルニ由テ。雲ノアナタノ事ト聞テアラフ。サウテナイ。今日現前ノ一念心ニ相違ナキシヤ。
現代語訳
この真実の言葉というものは、法性が現れる姿であって、この世間を利益するのである。広大なことである。密教の中に、大日如来を讃嘆して、身口意の業は虚空に遍く満ちる、とある。これは誰もが覚えている偈であって、宗派にはそれぞれの家の解釈もあるだろうが、その宗義はしばらく置いておきなさい。本当の意味はこうである。自らの本性である法界は、もともと何もない空っぽの形なきものではない。身の業がそのまま法性の現れた姿である。法性が縁起すれば、虚空界に等しい微妙な色身(姿かたち)となって現れてくるのだ。口の業がそのまま法性の現れた姿である。法性が縁起すれば、虚空界に等しい微妙な音声や言葉となって現れてくるのだ。意の業がそのまま法性の現れた姿である。法性が縁起すれば、虚空界に等しい微妙な思惟や判別となって現れてくるのだ。このあらゆる時、あらゆる所に隠しようのない場所を、法性の如来と言う。外に向かって求めることではない。今日の衆生の本性のありのままが、取りも直さず法性の如来である。本性と言えば名前や概念にわたるので、雲の彼方のことと聞くであろう。そうではない。今日目の前のこの一念の心に違いないのである。
解説
この章句が説くこと
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『十善法語』巻第四・不妄語戒此モ華厳会上ノ釈迦如来ハカリト見テハタカフソ。元来箇箇円成。人人具足。其身一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ身業ハ。取モ直サス人タル道ヲ守ル人ノ五尺ノ形シヤ。元来箇箇円成。人人具足。其声一切世界ニ遍満シテアルシヤ。此遍満シタ口業カ。取モ直サス妄語ヲ言ハヌ人ノ語言シヤ。元来箇箇円成。人人具足。智三世ニ入テ悉ク平等ナルソ。此平等ナル意業カ。取モ直サス此法ヲ憶念スル人ノ今日現前ノ一念心シヤ。唯ワロク意得テ。及ハヌコトト思フ者カ。イツガイツマテモ迷ノ凡夫トナルシヤ。外ニ向テ求テ自心ノ光明ヲクラマス者カ。イツガイツマデモ本然具足ノ仏心ヲ見ルコトナラヌシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒元来此身口意業ハ同一ナルモノシヤ。別ニ似テ別ナラヌモノシヤ。身ニ意業ヲ作ルコトモアリ。口業ヲ造ルコトモアリ。口ニ意業ヲ作ルコトモアリ。身業ヲ作ルコトモアリ。意ニ身業ヲ作ルコトモアリ。口業ヲ作ルコトモ有ルシヤ。ソレ故経ノ中律ノ中ニ。口罪ノ妄語身心ノ妄語ト云コトカ有ルシヤ。此中口罪ノ妄語ハ知レタ通リシヤ。身ノ妄語トハ。人ヲ誑カサン為ニ卑官ノ人カ高官ヲ偽ル。徳ナキ者カ有徳ノ相ヲ現スル。才ナキ者カ才アルヨソホヒヲ作ス類。一切ミナ此中ニ摂スルシヤ。事例ヲ挙ハ。漢ノ時成方遂カ黄犢ノ車ニ乗テ北闕ニ詣シテ衛太子ノマネスル。戦国ノ時南郭先生カ斉ニ濫吹セシ。唐ノ時。曳白及第ナトノ類カ的シキ身ノ妄語シヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒今此戒ノ中ニ。要ヲ取テ言ヘハ。詐ヲ云ヌハカリカ甚深シヤ。最甚深シヤ。真実語カ直ニ仏語シヤ。外ニ仏語ハナイ。此真実語ヲ法ト名クル外ニ法ハナイ。此法ヲ精勤ニ護持スル人カ菩薩シヤ。外ニ菩薩ハナイ。三業共ニ甚深ナレトモ。諸戒共ニ甚深ナレトモ。今此戒ハカウシヤ。一切衆生ノ語言ハ法性ノ顕レタ姿シヤ。一切非衆生ノ音韻モ法性ノ顕レタ姿シヤ。楞厳経ノ中。観音菩薩ハ音声ヲ聞テ円通門ヲ得シトアル。耳根ヨリ三昧ヲ照ストアル。観音菩薩ノ時ノ音声モ。松風ハ松風水ノ音ハ水ノ音。今日現今ノ音声モ。松風ハ松風。水ノ音ハ水ノ音。音声ニ違ハナイ。此中決徹シテ疑ハネハ。観世音菩薩ハカリテナイ。人人耳根ノ中ニ円通門ヲ得ルコトシヤ。何ノ得ルトカ言ン。人人ミナ本来ノ観世音菩薩シヤ。本来ノ円通門シヤ。一切処ニカクシ得ヌシヤ。唯過去無量却来ノ妄語ノ業障ニ覆ハサレテ。暫ク現セヌハカリシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒ナセゾ。元来言句カ法性等流シヤ。十善相応シテ人中ノ舌根ヲ得ル。嘗テ五味ヲ知ル。辛酸タガハヌ苦甘誤ラヌ。神農ナレハ其温熱寒冷ノ性ヲ知ル。易牙ナレハ溜水澠水ヲ分弁スルシヤ。此舌根ヲ以テ自性加持ノ真言ヲ受誦スル。身印相応スル。憶念相応スル。身業ハ意業口業ノ如。意業ハ口業身業ノ如ク。口業ハ身業意業ノ如ク。三密相応シテ其理速疾ニ顕ルルシヤ。此モ妄語綺語コウタ浄瑠璃ナトニ随順スル人カ。真言陀羅尼ニ功験有ウ理ハナイ。真言宗ノ中ニハコトニ口業ヲ慎ム人ヲ得マホシキコトシヤ。
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『十善法語』巻第一・不殺生戒三界ノ当相。トリモ直サス法性ノ姿シヤ。山ニ在テハ高ク。海ニ在テハ深キシヤ。竹ニ在テハ直ク。棘ニ在テハ曲ル。天ニ在テハ覆ヒ。地ニ在テハ載ル。衆生ニ在テハ種種差別シ。虚空ニ在テハ豁然タルシヤ。言ニモ及ハヌ。若言ヘハ必真実語シヤ。総シテ妄語ト云モノハ下劣ナルコトテ。人ヲ欺カヌ已前ニ。早ク自己ヲ欺ク。天地ニモ背ク。神祇ニモソムク。纔ニ一二人ヲ欺ントシテ。天神地祇ノ冥助ヲ失フシヤ。二六時中。道ヲ以テ楽トスルニ由テ。綺語ヲ離ルシヤ。世人ノ楽ヲモ邪ニ求メ。心ノ散乱ヲ楽トスルハ。愚痴ノ至リシヤ。自己タニ明了ナレハ。其楽身心ニ備リテ。外ノ楽ヲカルコトテハナイ。王公ナレハ其国土人民カ我楽トナリ来ル。士農工商ナレハソレソレノ作業カ我楽トナリ来ル。出家ナレハ其禅定智慧カ我楽トナリ来ルシヤ。
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『十善法語』巻第四・不妄語戒智者ハ言語少ク。又妄語ナキシヤ。若多言ナレハ盛徳ノ疵トナル。虚妄ナレハ身ヲ亡シ家ヲ喪フ。又愚者ハ多ク妄語スル。此因縁ニ由テ他ノ欺ヲモ受ルト云コトシヤ。タトヒ愚蒙ナル者モ真実語ノ者ハ。一分智者ノ徳シヤ。世間モ面白キ物テ。法性ノ軌則条然トシテ差ヌシヤ。又上古ノ人病発スル時針灸薬ヲ用ヒス。唯咒術ニ由テ平癒セシト云モ。其理有ルヘキシヤ。道ヲ語ル者ノ中ニ。諸ノ外道ハ詐リ多トアル。諸仏ト仏弟子ハ妄語ハ無トアル。此妄語ナキ人カ真正法ヲ得ル。真正法ノ人ハ此一切言音カミナ法門トナリ来ル。此言音中ニ法ヲ満足シテ。無漏聖道ヲ得ルト云コトシヤ。仏世尊ハ無量却来此徳闕失ナキニ由テ。其教勅ニ一切衆生カ背ヌトアル。