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十善法語 / 巻第三・不邪婬戒

此不婬戒ト云ハ。心易キ事ナレトモ。實ニ大人ノ大人タル所。德立チ行成スルノ基本シヤ。童眞出家ハ。諸佛ノ稱嘆アル所シヤ。今一ノ緣事ヲ擧テ云ハハ。僧傳ニ。羅什三藏十二歲ノトキ。其母尼カ將キテ罽賓國ヨリ龜玆國ニ歸ル。路ノ次テ月氏國ニ至テ。一ノ羅漢ニ遇フ。コノ羅漢一見シテ。其母ニ告ク。此沙彌庸流ナラス。若年三十五ニ至テ破戒セスハ。其利益。優波菊多尊者ニ齊シカルベシ。若戒全カラスハ。才明雋藝ノ法師ナルノミト。ノチ果シテ呂光カ難ニ遇テ破戒ス。其後覺賢三藏長安ニ在テ相見テ云。君ノ譯スル所人意ヲ出テスト。看ヨ。優波菊多尊者ニモ齊シカルヘキ人スラ。宿緣ノ牽トコロ。此破戒有シ故ニ。道業成立セス。才明ノ法師ト云ニ止ルシヤ。マシテ中下ノ人ハ特ニ深ク三寶ニ誓ヒ。日夜細心ニ護持スヘキコトシヤ。

新字:此不婬戒ト云ハ。心易キ事ナレトモ。実ニ大人ノ大人タル所。徳立チ行成スルノ基本シヤ。童真出家ハ。諸仏ノ称嘆アル所シヤ。今一ノ縁事ヲ挙テ云ハハ。僧伝ニ。羅什三蔵十二歳ノトキ。其母尼カ将キテ罽賓国ヨリ亀玆国ニ帰ル。路ノ次テ月氏国ニ至テ。一ノ羅漢ニ遇フ。コノ羅漢一見シテ。其母ニ告ク。此沙弥庸流ナラス。若年三十五ニ至テ破戒セスハ。其利益。優波菊多尊者ニ斉シカルベシ。若戒全カラスハ。才明雋芸ノ法師ナルノミト。ノチ果シテ呂光カ難ニ遇テ破戒ス。其後覚賢三蔵長安ニ在テ相見テ云。君ノ訳スル所人意ヲ出テスト。看ヨ。優波菊多尊者ニモ斉シカルヘキ人スラ。宿縁ノ牽トコロ。此破戒有シ故ニ。道業成立セス。才明ノ法師ト云ニ止ルシヤ。マシテ中下ノ人ハ特ニ深ク三宝ニ誓ヒ。日夜細心ニ護持スヘキコトシヤ。

書き下し

此不婬戒ト云ハ。心易キ事ナレトモ。実ニ大人ノ大人タル所。徳立チ行成スルノ基本シヤ。童真出家ハ。諸仏ノ称嘆アル所シヤ。今一ノ縁事ヲ挙テ云ハハ。僧伝ニ。羅什三蔵十二歳ノトキ。其母尼カ将キテ罽賓国ヨリ亀玆国ニ帰ル。路ノ次テ月氏国ニ至テ。一ノ羅漢ニ遇フ。コノ羅漢一見シテ。其母ニ告ク。此沙弥庸流ナラス。若年三十五ニ至テ破戒セスハ。其利益。優波菊多尊者ニ斉シカルベシ。若戒全カラスハ。才明雋芸ノ法師ナルノミト。ノチ果シテ呂光カ難ニ遇テ破戒ス。其後覚賢三蔵長安ニ在テ相見テ云。君ノ訳スル所人意ヲ出テスト。看ヨ。優波菊多尊者ニモ斉シカルヘキ人スラ。宿縁ノ牽トコロ。此破戒有シ故ニ。道業成立セス。才明ノ法師ト云ニ止ルシヤ。マシテ中下ノ人ハ特ニ深ク三宝ニ誓ヒ。日夜細心ニ護持スヘキコトシヤ。

現代語訳

この不婬戒というのは、心得やすいことであるが、実に大人(優れた人)が大人である所以であり、徳を立て行を成し遂げる基本である。童真出家(幼い清らかな身のままの出家)は、諸仏の称賛されるところである。今一つの因縁を挙げて言えば、僧伝に、鳩摩羅什三蔵が十二歳の時、その母である尼が連れて罽賓国から亀茲国に帰った。その道の途中で月氏国に至り、一人の阿羅漢に出会った。この阿羅漢は一目見て、その母に告げた。この沙弥は凡庸な者ではない。もし三十五歳になるまで破戒しなければ、その利益は優波毱多尊者に等しいであろう。もし戒が完全でなければ、才知に優れた法師であるにとどまる、と。後に果たして呂光の難に遭って破戒した。その後、覚賢三蔵が長安で会って言った。君の訳すところは、人の考えを出ていない、と。見なさい。優波毱多尊者にも等しいはずの人でさえ、前世の因縁に引かれて、この破戒があったために道業が成就せず、才知の法師というにとどまったのである。まして中・下の人は、特に深く三宝に誓い、日夜細心に護持すべきことである。

解説

鳩摩羅什は亀茲国の出身で、法華経や阿弥陀経など多くの経典を漢訳した訳経僧である。前秦の将軍呂光に捕らえられ、破戒を強いられたと伝えられる。慈雲は、若き日に阿羅漢から優波毱多にも並ぶと予言された羅什でさえ、破戒によって才ある法師にとどまったと言う。覚賢もまた長安で経典の翻訳にあたった僧である。才能があるほど、基本の規律がその器の大きさを決めるという指摘は、優れた人ほど自分を律することが大切だということを教えている。

この章句が説くこと

不婬戒破戒羅什才能三宝

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