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十善法語 / 巻第三・不邪婬戒

此天ノ德ヲ全シテ男子ノ身ヲ得ルモ。尊ムヘキコトシヤ。地ノ德ヲ全シテ女人ノ身ヲ得ルモ尊ムヘキコトシヤ。此德ヲ德ノ通リニ用ヒ行テ。不邪婬戒トナリ來リ。國ニ在テハ國治リ。家ニ在テハ家治ルモ。尊ムヘキコトシヤ。マシテ不婬戒ヲ護持シテ禪定智慧ノ器トナル。尊ムヘキコトシヤ。經律諸論ノ中ニ。男子ニ五種ノ不能男アリ。此者ハ齋戒ヲ得ニ堪ヘス。沙彌已上ノ位ニ堪ヘス。定慧ノ德ヲ發スルコト能ハストアル。緣事ヲ擧ハ律文ニ一人愚癡ノ者有リ。自ラ婬心ノ制シ難キヲ憂テ其根ヲ壞ス。衆僧コレヲ世尊ニ白ス。世尊衆ニ告タマフ。若少分壞セハ懺悔ノ法ヲ教ヘヨ。若全分壞セハ直ニ擯出セヨ。根不具足ノ者ハ解脫幢相ノ袈裟ヲ着スル器ナラス。清淨僧中ニ在テ。王公大人ノ供養。信心施主ノ禮拜ヲ受ルニ堪スト。此ニ由テ知レ。根具足ノ丈夫タルハ。宿福ノ在處シヤ。

新字:此天ノ徳ヲ全シテ男子ノ身ヲ得ルモ。尊ムヘキコトシヤ。地ノ徳ヲ全シテ女人ノ身ヲ得ルモ尊ムヘキコトシヤ。此徳ヲ徳ノ通リニ用ヒ行テ。不邪婬戒トナリ来リ。国ニ在テハ国治リ。家ニ在テハ家治ルモ。尊ムヘキコトシヤ。マシテ不婬戒ヲ護持シテ禅定智慧ノ器トナル。尊ムヘキコトシヤ。経律諸論ノ中ニ。男子ニ五種ノ不能男アリ。此者ハ斎戒ヲ得ニ堪ヘス。沙弥已上ノ位ニ堪ヘス。定慧ノ徳ヲ発スルコト能ハストアル。縁事ヲ挙ハ律文ニ一人愚痴ノ者有リ。自ラ婬心ノ制シ難キヲ憂テ其根ヲ壊ス。衆僧コレヲ世尊ニ白ス。世尊衆ニ告タマフ。若少分壊セハ懺悔ノ法ヲ教ヘヨ。若全分壊セハ直ニ擯出セヨ。根不具足ノ者ハ解脱幢相ノ袈裟ヲ着スル器ナラス。清浄僧中ニ在テ。王公大人ノ供養。信心施主ノ礼拝ヲ受ルニ堪スト。此ニ由テ知レ。根具足ノ丈夫タルハ。宿福ノ在処シヤ。

書き下し

此天ノ徳ヲ全シテ男子ノ身ヲ得ルモ。尊ムヘキコトシヤ。地ノ徳ヲ全シテ女人ノ身ヲ得ルモ尊ムヘキコトシヤ。此徳ヲ徳ノ通リニ用ヒ行テ。不邪婬戒トナリ来リ。国ニ在テハ国治リ。家ニ在テハ家治ルモ。尊ムヘキコトシヤ。マシテ不婬戒ヲ護持シテ禅定智慧ノ器トナル。尊ムヘキコトシヤ。経律諸論ノ中ニ。男子ニ五種ノ不能男アリ。此者ハ斎戒ヲ得ニ堪ヘス。沙弥已上ノ位ニ堪ヘス。定慧ノ徳ヲ発スルコト能ハストアル。縁事ヲ挙ハ律文ニ一人愚痴ノ者有リ。自ラ婬心ノ制シ難キヲ憂テ其根ヲ壊ス。衆僧コレヲ世尊ニ白ス。世尊衆ニ告タマフ。若少分壊セハ懺悔ノ法ヲ教ヘヨ。若全分壊セハ直ニ擯出セヨ。根不具足ノ者ハ解脱幢相ノ袈裟ヲ着スル器ナラス。清浄僧中ニ在テ。王公大人ノ供養。信心施主ノ礼拝ヲ受ルニ堪スト。此ニ由テ知レ。根具足ノ丈夫タルハ。宿福ノ在処シヤ。

現代語訳

この天の徳を全うして男子の身を得るのも、尊ぶべきことである。地の徳を全うして女人の身を得るのも、尊ぶべきことである。この徳を徳のとおりに用い行って不邪婬戒となり、国にあっては国が治まり、家にあっては家が治まるのも、尊ぶべきことである。まして不婬戒を護持して禅定と智慧の器となるのは、尊ぶべきことである。経・律・諸論の中に、男子には五種の不能男(生殖の働きをもたない男)があり、この者は斎戒を受けるに堪えず、沙弥以上の位に堪えず、禅定と智慧の徳を発することができない、とある。その因縁となった出来事を挙げれば、律の文に、一人の愚かな者があって、自分の婬心が抑えがたいことを憂えて自らその根を損なった。僧たちがこれを世尊に申し上げた。世尊は僧たちに告げられた。もし一部を損なったのなら懺悔の法を教えよ。もし全部を損なったのならただちに追放せよ。根が具わっていない者は、解脱のしるしである袈裟を着る器ではない。清浄な僧の中にあって、王公や身分の高い人の供養、信心ある施主の礼拝を受けるに堪えない、と。これによって知りなさい。根の具わった丈夫であるのは、前世の福のあるところなのである。

解説

男子の身も女人の身も天地の徳を全うした尊いものだとしたうえで、律に定められた出家の資格を紹介する段である。律には、生殖の働きを欠く者や自ら身体を損なった者の出家を認めない規定があり、慈雲はその規定に沿って、身が具わっているのは前世の福だと説いている。身体の条件で人の資格を分けるこうした見方は、今日の人権の考え方とは大きく隔たっており、現代にそのまま当てはめるものではない。ここから汲めるのは、欲を抑えられないからと身を傷つけても根本の解決にはならない、という点である。

この章句が説くこと

不能男出家宿福禅定

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