十善法語 / 巻第三・不邪婬戒
此夫婦有テ初テ胎生アリ。父子ワカレ。兄弟姉妹ワカレ。人民親疎ワカル。其屋宅漸次衆多ナレハ聚落城邑分ル。其中爭生シテ決斷ヲ有智ニ求ム。初テ君長アリ。天竺國ニコレヲ刹帝利ト云。此刹帝利ノ種族ヲ刹帝利種ト云。世事衆多。其爭一ナラス。一人衆事ヲ決シ難シ。大臣輔佐加ハル。穀米自然ニ生セス。耕稼シテ得ル。其農人アリ。此農人衆多相群ル。天竺國ニコレヲ輸陀姓ト云。國土ノ物類有無齊カラス。交易シテ通ス。其時始テ商賈アリ。此商賈種類ヲ天竺國ニ毗奢ト云。其中又一類ノ人喧ヲ厭ヒ靜ヲ欣フ者アリ。隱逸獨居シテ心ヲ道理ニ寄ス。諸民仰キ則テ淨行ト稱ス。此中一類ノ志性定リナキ者再ヒ世染ヲ思念ス。婚嫁相親ミ。子孫繼嗣ス。此種類ヲ名ツケテ婆羅門種姓トス。印度ニ此四姓有テ人事具ルトアルコトシヤ。
新字:此夫婦有テ初テ胎生アリ。父子ワカレ。兄弟姉妹ワカレ。人民親疎ワカル。其屋宅漸次衆多ナレハ聚落城邑分ル。其中争生シテ決断ヲ有智ニ求ム。初テ君長アリ。天竺国ニコレヲ刹帝利ト云。此刹帝利ノ種族ヲ刹帝利種ト云。世事衆多。其争一ナラス。一人衆事ヲ決シ難シ。大臣輔佐加ハル。穀米自然ニ生セス。耕稼シテ得ル。其農人アリ。此農人衆多相群ル。天竺国ニコレヲ輸陀姓ト云。国土ノ物類有無斉カラス。交易シテ通ス。其時始テ商賈アリ。此商賈種類ヲ天竺国ニ毗奢ト云。其中又一類ノ人喧ヲ厭ヒ静ヲ欣フ者アリ。隠逸独居シテ心ヲ道理ニ寄ス。諸民仰キ則テ浄行ト称ス。此中一類ノ志性定リナキ者再ヒ世染ヲ思念ス。婚嫁相親ミ。子孫継嗣ス。此種類ヲ名ツケテ婆羅門種姓トス。印度ニ此四姓有テ人事具ルトアルコトシヤ。
書き下し
此夫婦有テ初テ胎生アリ。父子ワカレ。兄弟姉妹ワカレ。人民親疎ワカル。其屋宅漸次衆多ナレハ聚落城邑分ル。其中争生シテ決断ヲ有智ニ求ム。初テ君長アリ。天竺国ニコレヲ刹帝利ト云。此刹帝利ノ種族ヲ刹帝利種ト云。世事衆多。其争一ナラス。一人衆事ヲ決シ難シ。大臣輔佐加ハル。穀米自然ニ生セス。耕稼シテ得ル。其農人アリ。此農人衆多相群ル。天竺国ニコレヲ輸陀姓ト云。国土ノ物類有無斉カラス。交易シテ通ス。其時始テ商賈アリ。此商賈種類ヲ天竺国ニ毗奢ト云。其中又一類ノ人喧ヲ厭ヒ静ヲ欣フ者アリ。隠逸独居シテ心ヲ道理ニ寄ス。諸民仰キ則テ浄行ト称ス。此中一類ノ志性定リナキ者再ヒ世染ヲ思念ス。婚嫁相親ミ。子孫継嗣ス。此種類ヲ名ツケテ婆羅門種姓トス。印度ニ此四姓有テ人事具ルトアルコトシヤ。
現代語訳
この夫婦があって初めて胎から生まれることがあり、父と子が分かれ、兄弟姉妹が分かれ、人々に親しい疎いが分かれた。その家屋が次第に多くなると、村や町が分かれた。その中で争いが生じて、裁きを智慧ある者に求めた。ここに初めて君長ができた。天竺国ではこれを刹帝利と言う。この刹帝利の種族を刹帝利種と言う。世の事は多く、その争いも一つではない。一人で多くの事を裁くのは難しい。そこで大臣の補佐が加わった。穀物が自然には生えなくなり、耕作して得るようになった。そこに農民ができた。この農民が多く群れ集った。天竺国ではこれを輸陀姓と言う。国土の産物の有る無しがそろわないので、交易して通じ合った。その時初めて商人ができた。この商人の種類を天竺国で毗奢と言う。その中にまた一類の人がいて、騒がしさを厭い静けさを願い、隠れ住み独りで暮らして心を道理に寄せた。人々は仰いで手本とし、浄行と称した。この中で志の定まらない一類の者が再び世俗の染まりを思い、婚姻して親しみ、子孫が跡を継いだ。この種類を婆羅門種姓と名づける。インドにはこの四姓があって人の世の事が具わった、ということである。
解説

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『十善法語』巻第五・不綺語戒天竺国ハ四大姓アル中ニ。刹帝利婆羅門ニ次テ毘舎ト云。毗舎トハ商賈ノ称シヤ。此者輸陀ヨリ上ニ居スルジヤ。輸陀ト云ハ農人ノ称ジヤ。此商賈ノ農家ヨリ上ナルハ。其作業殺生少ク。智巧芸術ヲ務ルニ由ルト云コトジヤ。勿論商売ハ財利ヲ本トス。誤レハ其ココロ野鄙ニ落ル故。支那国ニテモ我邦ニテモ農ヨリ下ニ置ク。此ニ由テ商賈ハ其心得ノアルベキコトジヤ。凡ソ乱世ニハ。誤レハ武ニ誇テ其徳ヲ失フ。治世ニハ誤レハ財利ニ瀆レテ其道ヲ失フ。大人有志ノ心ヲ用ヒネハナラヌ処シヤ。
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『十善法語』巻第五・不綺語戒正法縁起ノ中ハ却初自然ノ粳米アリ。朝ニ刈レハ暮ニ生シ。暮ニ取レハ朝ニ熟ス。茎幹ナシ。糠糟ナシ。四隣相率ヰテ随意ニ取用フ。其中一類懶惰ノ者アリ。朝ニ暮ノ糧ヲ収メ。暮ニ朝ノ糧ヲ取ル。見聞相傚テ一日乃至五日ノ糧ヲ収ム。此ヨリ漸糠糟生シテ。刈已テ枯株現ス。衆人懊悩シテ各疆畔ヲ分チ。耕耘種殖ス。此ヲ四大姓ノ初トストアル。
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『神皇正統記』巻一 序此稲米を食せしによりて、身に残穢いできぬ。此故に始て二道あり。男女の相各別にして、つひに婬欲のわざをなす。夫婦となづけ舎宅を構て、共に住き。光音の諸天、後に下生する者女人の胎中にいりて胎生の衆生となる。其後秔稲生ぜず。衆生うれへなげきて、各境をわかち、田種を施しうゑて食とす。他人の田種をさへうばひぬすむ者出来て互にうちあらそふ。是を決する人なかりしかば、衆共にはからひて一人の平等王を立、名て刹帝利と云。 其始の王を民主王と号しき。十善の正法をおこなひて国ををさめしかば、人民是を敬愛す。閻浮提の天下、豊楽安穏にして病患及び大寒熱あることなし。寿命も極て久无量歳なりき。民主の子孫相続して久く君たりしが、漸正法も衰しより寿命も減じて八万四千歳にいたる。身のたけ八丈なり。其間に王ありて転輪の果報を具足せり。先づ天より金輪宝飛降て王の前に現在す。王出で給ことあれば、此輪、転行してもろもろの小王みなむかへて拝す。あへて違者なし。即四大州に主たり。
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『十善法語』巻第三・不邪婬戒一類懶惰ノ者アリ。初テ一日ノ糧ヲ畜フ。乃至二日三日ノ糧ヲ畜フ。此時ニ至テ初テ粃糠生ス。此地上ノ人間。水穀身ヲ資テ生涯ヲ送ル。如是移リ転シ来テ身内滓穢生シ。不浄下ニ漏ル。此時一類ノ執着薄キ者ハ男形ヲ成シ。一類ノ愛情多キ者ハ女形ヲ成ス。一類軽疎ノ衆生相視テ親愛ノ情生ス。能所親近シテ情欲ウタタ深ク。始テ婬事アリ。人民コレヲ賤メテ瓦礫木石ヲ擲チ。一日乃至七日共語セス。此悪賤ヲ避テ初テ屋宅アリ。男女其室ニ居ル。此トキ身光ステニ滅シテ世界黒暗トナル。衆生余善アリ。日月上ニ現ス。日東方ニ現スル時人民歓喜ス。西ニ没スル時人民悲泣ス。
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『十善法語』巻第三・不邪婬戒起世経等ニ此大地始テ成スル時。衆生光音天ヨリ此地上ニ下生シ。相共ニ無量歳住ス。互ニ相視相召テ薩埵薩埵トス。此時固ヨリ親疎ナク。好醜ナク。身ニ光明有テ自ラ照ス。大地平掌ニシテ山海ノ別ナク。其状好熟蜜ノ如トアル。此世界アリ此衆生アレハ。縁起不可思議ナルモノテ。相逐テ止ヌシヤ。此中一類軽疎ノ衆生アリ。初テ地味ヲ嘗テ。団食此身ヲ資クトアル。此食ノ多少有ニ因テ光ニ隠顕アリ。身ニ麁細分ルル。此差別出来ルニ因テ。諸ノ衆生互ニ相見テ彼此ノ情生シ。憍慢ノ心爰ニキサス。漸次ニ国界麁ニ人物麁ナリ。地味没シテ地膚ヲ食シ。地膚没シテ林藤ヲ食シ。林藤没シテ自然ノ秔米アリ。朝ニ刈レハ暮ニ生シ。暮ニ刈レハ朝ニ生ス。
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五行大義・第二十三論諸人・第一論人配五行礼人は、尊卑を分別し、廉譲謙謹にして、上と為りては恭敬し、下と為りては敬を思う。此れ礼人なり。信人は、誠実にして欺かず、片言にして獄を折(さだ)め、達して意を肆(ほしいまま)にせず、窮して操を易(か)えず。此れ信人なり。義人は、決断分了にして、一度理に順い、善に従い悪を屏(しりぞ)け、事礙滞無し。此れ義人なり。智人は、識達し謀慮し、物情を鑒察(かんさつ)し、能く萌兆を知り、豫(あらかじ)め善悪を覩る。此れ智人なり。次五の士人は、孔子曰く、知は多を挙げず、必ずその由る所を審らかにす。言は多を務めず、必ずその謂う所を審らかにす。心に定まる所有り、計に守る所有り。道術の本を尽くすこと能わずと雖も、必ず従い行う有るなり。百善の美を遍くすること能わずと雖も、必ず慮る所有るなり。行い既に之に由り、智既に之を知り、言既に之を得れば、則ち性命形骸の易えざるがごとし。富貴も以て益すに足らず、貧賤も以て損なうに足らず。此れ士人なり、と。庶人は、未だ仕位に入らず、猶お壟畝(ろうほ)の間に居り、或いは始めて褐(かつ)を解くも、未だ品命に沾(うるお)わざるものなり。『周礼』に云う、庶人の官に在る者は始めて秩に入る、と。此れを庶人と謂うなり。農人は、天の道を用い、地の利に因り、春に耕し秋に収め、常に稼穡(かしょく)に在り。此れを農人と曰うなり。商人は、市𨞬(しかん)に負販し、時に随いて貨を鬵(ひさ)ぎ、貴賤相易えて、以て産業を資(たす)く。此れ商人なり。亦た賈人(こじん)と曰うなり。工人は、雕斵(ちょうたく)伎巧して、諸もろの器用を備え、新しきを造り故(ふる)きを修め、力を以て財に貨(か)う。此れを工人と曰う。下五の衆人は、凡そ雑なるを衆人と云う。予譲曰く、范・中行氏は衆人を以て我を遇す、と。