師導古典を学びたいすべての人に

十善法語 / 巻第二・不偸盜戒

且ク支那ノ事蹟ヲ視ルニ誠ニ禮義文物ノ教ト云ヘシ。ソレシヤカ。此文物ト云モノハ。國ノ爲ニハナラヌモノシヤ。三代ノ末ニ至テ國ヲ盜ム者カ有タ。次第ニ增長シテ。秦ノ時趙高カ天下ヲ盜ント謀タ。此ハ成セスシテ刑セラレタ。漢ニ至テ王莽ハ天下ヲ盜ミ。周禮等ニ依テ政度ヲ改タ。此ハ奸謀已ニ成シタレトモ。久カラスシテ誅滅セラレタ。後漢ヨリ三國六朝ノ時。天下ヲ盜テ而モ其身ヲ全クセシ者多イ。其尤甚シキハ。五代ノ末シヤ。周ノ世宗ノ時。趙匡胤カ生得才モアリ。其上軍功アリシニ由テ。世宗カ下ヨリ取立テ。殿前都點檢ノ官ニ上シタ。程ナク世宗カ流矢ニ中テ崩殂ス。其時太子宗訓ト云ハ七歲ニテ。國母ノ符后ハ入內ノ後。纔ニ十日ナリシカ。ソノ時他人有テ外國ヨリ邊境ヲ侵スト奏ス。趙匡胤國內ノ軍兵ヲヒキヰテ軍タチス。陳橋驛ト云處マテ往テ。一宿シテ。其夜ニ黃袍ニ衣ヲ改メ。自立シテ歸ル。皇子ヲオシコメテ。其身帝位ニ卽ク。是ヲ宋ノ太祖ト云。周ノ封疆官爵禮度ミナ其人ニ歸ス。此等ノ事蹟省察スヘキコトシヤ。

新字:且ク支那ノ事跡ヲ視ルニ誠ニ礼義文物ノ教ト云ヘシ。ソレシヤカ。此文物ト云モノハ。国ノ為ニハナラヌモノシヤ。三代ノ末ニ至テ国ヲ盗ム者カ有タ。次第ニ增長シテ。秦ノ時趙高カ天下ヲ盗ント謀タ。此ハ成セスシテ刑セラレタ。漢ニ至テ王莽ハ天下ヲ盗ミ。周礼等ニ依テ政度ヲ改タ。此ハ奸謀已ニ成シタレトモ。久カラスシテ誅滅セラレタ。後漢ヨリ三国六朝ノ時。天下ヲ盗テ而モ其身ヲ全クセシ者多イ。其尤甚シキハ。五代ノ末シヤ。周ノ世宗ノ時。趙匡胤カ生得才モアリ。其上軍功アリシニ由テ。世宗カ下ヨリ取立テ。殿前都点検ノ官ニ上シタ。程ナク世宗カ流矢ニ中テ崩殂ス。其時太子宗訓ト云ハ七歳ニテ。国母ノ符后ハ入内ノ後。纔ニ十日ナリシカ。ソノ時他人有テ外国ヨリ辺境ヲ侵スト奏ス。趙匡胤国内ノ軍兵ヲヒキヰテ軍タチス。陳橋駅ト云処マテ往テ。一宿シテ。其夜ニ黄袍ニ衣ヲ改メ。自立シテ帰ル。皇子ヲオシコメテ。其身帝位ニ即ク。是ヲ宋ノ太祖ト云。周ノ封疆官爵礼度ミナ其人ニ帰ス。此等ノ事跡省察スヘキコトシヤ。

書き下し

且ク支那ノ事跡ヲ視ルニ誠ニ礼義文物ノ教ト云ヘシ。ソレシヤカ。此文物ト云モノハ。国ノ為ニハナラヌモノシヤ。三代ノ末ニ至テ国ヲ盗ム者カ有タ。次第ニ增長シテ。秦ノ時趙高カ天下ヲ盗ント謀タ。此ハ成セスシテ刑セラレタ。漢ニ至テ王莽ハ天下ヲ盗ミ。周礼等ニ依テ政度ヲ改タ。此ハ奸謀已ニ成シタレトモ。久カラスシテ誅滅セラレタ。後漢ヨリ三国六朝ノ時。天下ヲ盗テ而モ其身ヲ全クセシ者多イ。其尤甚シキハ。五代ノ末シヤ。周ノ世宗ノ時。趙匡胤カ生得才モアリ。其上軍功アリシニ由テ。世宗カ下ヨリ取立テ。殿前都点検ノ官ニ上シタ。程ナク世宗カ流矢ニ中テ崩殂ス。其時太子宗訓ト云ハ七歳ニテ。国母ノ符后ハ入内ノ後。纔ニ十日ナリシカ。ソノ時他人有テ外国ヨリ辺境ヲ侵スト奏ス。趙匡胤国内ノ軍兵ヲヒキヰテ軍タチス。陳橋駅ト云処マテ往テ。一宿シテ。其夜ニ黄袍ニ衣ヲ改メ。自立シテ帰ル。皇子ヲオシコメテ。其身帝位ニ即ク。是ヲ宋ノ太祖ト云。周ノ封疆官爵礼度ミナ其人ニ帰ス。此等ノ事跡省察スヘキコトシヤ。

現代語訳

しばらく中国の事跡を見ると、まことに礼義文物の教えと言うべきである。それはそうであるが、この文物というものは、国のためにはならないものである。夏・殷・周の三代の末に至って、国を盗む者があった。次第に増長して、秦の時に趙高が天下を盗もうと謀った。これは成就せずに刑せられた。漢に至って王莽は天下を盗み、周礼などによって政治制度を改めた。これは奸計がすでに成就したけれども、久しからずして誅滅された。後漢から三国・六朝の時には、天下を盗んでしかもその身を全うした者が多い。その最も甚だしいのは五代の末である。後周の世宗の時、趙匡胤は生まれつき才もあり、その上軍功もあったので、世宗が下から取り立てて、殿前都点検の官に上げた。ほどなく世宗が流れ矢に当たって崩御した。その時、太子の宗訓という者は七歳で、国母の符后は入内の後わずか十日であったが、その時ある人が、外国から辺境を侵していると奏上した。趙匡胤は国内の軍兵を率いて出陣し、陳橋駅という所まで行って一泊し、その夜に黄袍(天子の衣)に衣を改めて、自ら立って帰った。皇子を押し込めて、自身が帝位に就いた。これを宋の太祖と言う。後周の領土・官爵・礼度はみなその人に帰した。これらの事跡はよく省察すべきことである。

解説

中国の歴史を、国を盗む者の系譜として描く段である。秦の趙高は失敗し、漢の王莽は周礼を掲げて簒奪したが長続きせず、魏晋南北朝では盗んで身を全うする者が多くなった。極めつけが宋の太祖趙匡胤で、取り立ててくれた後周の世宗の死後、幼い皇子を押しのけ、陳橋駅で黄袍をまとって帝位に就いた。尊者は、礼義文物が整っていることは国を守る保証にならないと言う。恩人の遺した組織を、その信頼を利用して奪うことの重さを考えさせる話である。

この章句が説くこと

簒奪趙匡胤王莽不偸盗恩義歴史

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる