十善法語 / 巻第二・不偸盜戒
莊子ニ喩ヲ擧テ。世ノ金銀珠玉ハ人ノ欲スル所ナルニ由テ。緘藤ヲ攝シ局鑄ヲ固シテ置ケハ。先小盜人ハ免ル。若巨ナル盜人カ來レハ。匱ヲ負ヒ篋ヲ揭ケ嚢ヲ擔テ趨ル。コノ巨盜ハ緘藤局鑄ノ堅固ナルヲ悅フ。通途ノ盜賊ハ刑罰法度ノ嚴重ナルヲオソル。國ヲ盜者ハ此刑罰法度共ニ盜ム。法度ノ嚴重ナルヲ悅フ。彼竊鉤者誅。竊國者爲諸侯。諸侯之門而仁義存焉。則是非竊仁義聖知邪ト云コトシヤ。總シテ何レノ國ニモ謬レハ文華ニ過ル。文華ニ過ルトキハ實ヲ失ヒ盜ヲ招ク。愼ムヘキコトシヤ。
新字:荘子ニ喩ヲ挙テ。世ノ金銀珠玉ハ人ノ欲スル所ナルニ由テ。緘藤ヲ摂シ局鋳ヲ固シテ置ケハ。先小盗人ハ免ル。若巨ナル盗人カ来レハ。匱ヲ負ヒ篋ヲ掲ケ嚢ヲ担テ趨ル。コノ巨盗ハ緘藤局鋳ノ堅固ナルヲ悦フ。通途ノ盗賊ハ刑罰法度ノ厳重ナルヲオソル。国ヲ盗者ハ此刑罰法度共ニ盗ム。法度ノ厳重ナルヲ悦フ。彼窃鉤者誅。窃国者為諸侯。諸侯之門而仁義存焉。則是非窃仁義聖知邪ト云コトシヤ。総シテ何レノ国ニモ謬レハ文華ニ過ル。文華ニ過ルトキハ実ヲ失ヒ盗ヲ招ク。慎ムヘキコトシヤ。
書き下し
荘子ニ喩ヲ挙テ。世ノ金銀珠玉ハ人ノ欲スル所ナルニ由テ。緘藤ヲ摂シ局鋳ヲ固シテ置ケハ。先小盗人ハ免ル。若巨ナル盗人カ来レハ。匱ヲ負ヒ篋ヲ掲ケ嚢ヲ担テ趨ル。コノ巨盗ハ緘藤局鋳ノ堅固ナルヲ悅フ。通途ノ盗賊ハ刑罰法度ノ厳重ナルヲオソル。国ヲ盗者ハ此刑罰法度共ニ盗ム。法度ノ厳重ナルヲ悅フ。彼窃鉤者誅。窃国者為諸侯。諸侯之門而仁義存焉。則是非窃仁義聖知邪ト云コトシヤ。総シテ何レノ国ニモ謬レハ文華ニ過ル。文華ニ過ルトキハ実ヲ失ヒ盗ヲ招ク。慎ムヘキコトシヤ。
現代語訳
荘子に譬えを挙げて、世の金銀珠玉は人の欲する所であるから、紐でしっかり縛り錠前を固くしておけば、まず小さな盗人は免れる。もし大きな盗人が来れば、櫃を背負い、箱を掲げ、袋を担いで走る。この大盗は紐や錠前の堅固なことを喜ぶ。一般の盗賊は刑罰や法度の厳重なことを恐れる。国を盗む者は、この刑罰や法度をともに盗む。法度の厳重なことを喜ぶ。「かの帯鉤を盗む者は誅せられ、国を盗む者は諸侯となる。諸侯の門に仁義が存する。これは仁義や聖知を盗んだのではないか」ということである。総じてどの国でも、誤れば文華に過ぎる。文華に過ぎる時は実を失い、盗みを招く。慎むべきことである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『墨子』尚賢下若の國の士に問う、孰か喜び孰か懼れんと。我れ以て必ず忠信の士は喜び、忠ならず信ならざる士は懼れんと為す。今、唯だ尚賢を以て其の國家百姓に政を為す毋くんば、國の善を為す者をして勸ましめ、暴を為す者をして沮ましむ。夫れ以て天下に政を為さば、天下の善を為す者をして勸ましめ、暴を為す者をして沮ましむ。然らば昔、吾が堯舜禹湯文武の道を貴ぶ所以の者は、何の故を以てなるか。其の唯だ衆に臨み政を發して民を治むるに毋くんば、天下の善を為す者をして得て勸む可からしめ、暴を為す者をして得て沮む可からしむるを以てなり。然らば則ち此の尚賢なる者は、堯舜禹湯文武の道と同じきなり。
-
『墨子』尚同中子墨子曰く、方今の時の正長は、則ち本より古者と異なれり。之を譬うるに量るに五刑を以てするが若く然り。昔者、聖王は制して五刑を為り、以て天下を治む。有苗の五刑を制するに逮び至りては、以て天下を亂る。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なるなり。是を以て先王の書、呂刑の道いて曰く、「苗民、練を用いず、折くに則ち刑し、唯だ五殺の刑を作り、法と曰う」と。則ち此れ善く刑を用うる者は以て民を治め、善く刑を用いざる者は以て五殺と為すを言う。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なり、故に遂に以て五殺と為す。是を以て先王の書、術令の道いて曰く、「惟れ口は好を出だし戎を興す」と。則ち此れ善く口を用うる者は好を出だし、善く口を用いざる者は以て讒賊冦戎と為すを言う。則ち此れ豈に口の不善ならんや。口を用うること則ち不善なり、故に遂に以て䜛賊冦戎と為す。
-
老子 第18章大道廃れて、仁義有り。智慧出でて、大偽有り。六親和せずして、孝慈有り。国家昏乱して、忠臣有り。
-
孫子・形篇善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。
-
孫子・始計篇法とは、曲制・官道・主用なり。
-
『墨子』公孟公孟子、子墨子に謂いて曰く、「知に人より賢れる有らば、則ち知と謂う可きか」と。子墨子曰く、「愚の知に以て人より賢れる有るも、愚、豈に知と謂う可けんや」と。公孟子曰く、「三年の喪は、吾が父母を慕うを學ぶなり」と。子墨子曰く、「夫れ嬰兒子の知は、獨り父母を慕うのみ。父母、得可からざれば、然れども號びて止まず。此れ其の故は何ぞや。即ち愚の至りなり。然らば則ち儒者の知、豈に以て嬰兒子より賢れること有らんや」と。子墨子曰く、「儒者に問う、『何の故に樂を為すや』と」。