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十善法語 / 巻第二・不偸盜戒

又具ニ思惟スレハ。是戒ハ不可思議ノ趣アルシヤ。經中ニ。寶間比丘ト云者有リ。初テ具戒ヲ受テ。佛所ニ往キ。禮拜シテ佛ニ白ス。旣ニ受戒シ竟ル。云何修行シテ無漏聖道ヲ得ヘキト。世尊云ク。汝カ物ニ非スハ取コトナカレト。此比丘一言ノ教ヲ受ケ。禮拜シ去テ。樹下ニ至リ。石上ニ坐具ヲ布キ結跏趺坐シテ思惟ス。大聖世尊ノ。汝カ物ニ非ハ取コトナカレトノ教ハ。イカナル義ソ。他ノ金銀財寶祿位官爵ハ此類何ソ世尊ノ教ヲ待ン。金口ノ慇懃ナル此等ノ義ニ非シ。今我物ト云。畢竟何モノソ。今マテノ屋宅財寶祿位官爵ハ出家シ了レハ我物ナラス。此取ヘカラスト決ス。次ニ妻妾眷屬ノ類此モ出家シ了レハ我物ナラス。取ヘカラスト決ス。次ニ此五尺餘ノ身體頭目手足是我物ナルヘキカ。是モ只是頑肉ナリ。父母ノ肉血ノ餘分ナリ。生落シ已來。衣服飮食臥具醫藥ヲ以テ養ヒ來ル底ノ物ナリ。終ニ朽敗シテ土ニ歸スル物ナリ。我物ナラス。取ヘカラスト決ス。

新字:又具ニ思惟スレハ。是戒ハ不可思議ノ趣アルシヤ。経中ニ。宝間比丘ト云者有リ。初テ具戒ヲ受テ。仏所ニ往キ。礼拝シテ仏ニ白ス。既ニ受戒シ竟ル。云何修行シテ無漏聖道ヲ得ヘキト。世尊云ク。汝カ物ニ非スハ取コトナカレト。此比丘一言ノ教ヲ受ケ。礼拝シ去テ。樹下ニ至リ。石上ニ坐具ヲ布キ結跏趺坐シテ思惟ス。大聖世尊ノ。汝カ物ニ非ハ取コトナカレトノ教ハ。イカナル義ソ。他ノ金銀財宝禄位官爵ハ此類何ソ世尊ノ教ヲ待ン。金口ノ慇懃ナル此等ノ義ニ非シ。今我物ト云。畢竟何モノソ。今マテノ屋宅財宝禄位官爵ハ出家シ了レハ我物ナラス。此取ヘカラスト決ス。次ニ妻妾眷属ノ類此モ出家シ了レハ我物ナラス。取ヘカラスト決ス。次ニ此五尺余ノ身体頭目手足是我物ナルヘキカ。是モ只是頑肉ナリ。父母ノ肉血ノ余分ナリ。生落シ已来。衣服飲食臥具医薬ヲ以テ養ヒ来ル底ノ物ナリ。終ニ朽敗シテ土ニ帰スル物ナリ。我物ナラス。取ヘカラスト決ス。

書き下し

又具ニ思惟スレハ。是戒ハ不可思議ノ趣アルシヤ。経中ニ。宝間比丘ト云者有リ。初テ具戒ヲ受テ。仏所ニ往キ。礼拝シテ仏ニ白ス。既ニ受戒シ竟ル。云何修行シテ無漏聖道ヲ得ヘキト。世尊云ク。汝カ物ニ非スハ取コトナカレト。此比丘一言ノ教ヲ受ケ。礼拝シ去テ。樹下ニ至リ。石上ニ坐具ヲ布キ結跏趺坐シテ思惟ス。大聖世尊ノ。汝カ物ニ非ハ取コトナカレトノ教ハ。イカナル義ソ。他ノ金銀財宝禄位官爵ハ此類何ソ世尊ノ教ヲ待ン。金口ノ慇懃ナル此等ノ義ニ非シ。今我物ト云。畢竟何モノソ。今マテノ屋宅財宝禄位官爵ハ出家シ了レハ我物ナラス。此取ヘカラスト決ス。次ニ妻妾眷属ノ類此モ出家シ了レハ我物ナラス。取ヘカラスト決ス。次ニ此五尺余ノ身体頭目手足是我物ナルヘキカ。是モ只是頑肉ナリ。父母ノ肉血ノ余分ナリ。生落シ已来。衣服飲食臥具医薬ヲ以テ養ヒ来ル底ノ物ナリ。終ニ朽敗シテ土ニ帰スル物ナリ。我物ナラス。取ヘカラスト決ス。

現代語訳

また詳しく思惟すれば、この戒は不可思議な趣があるのである。経の中に、宝間比丘という者がいた。初めて具足戒を受けて、仏の所に行き、礼拝して仏に申し上げた。「すでに受戒し終わりました。どのように修行して、煩悩のない聖なる道を得るべきでしょうか」と。世尊は言われた。「お前の物でなければ取ってはならない」と。この比丘は一言の教えを受け、礼拝して去り、樹の下に至り、石の上に坐具を敷き、結跏趺坐して思惟した。「大聖世尊の、お前の物でなければ取ってはならないという教えは、どういう意味か。他人の金銀財宝や禄位官爵、この類は、どうして世尊の教えを待つだろうか。仏の懇ろな言葉は、これらの意味ではあるまい。今、自分の物と言うのは、結局何ものか。今までの家屋財宝や禄位官爵は、出家し終われば自分の物ではない。これは取ってはならない」と決めた。「次に妻妾や眷属の類、これも出家し終われば自分の物ではない。取ってはならない」と決めた。「次にこの五尺余りの身体、頭・目・手・足、これが自分の物であろうか。これもただの頑なな肉である。父母の肉と血の余りである。生まれ落ちて以来、衣服・飲食・寝具・医薬で養って来たものである。ついには朽ち腐れて土に帰る物である。自分の物ではない。取ってはならない」と決めた。

解説

不偸盗戒の奥深さを示す逸話である。受戒したばかりの比丘が悟りへの道を問うと、釈尊はただ「汝の物でなければ取るな」と答えた。他人の財を盗むなという当たり前の意味ではあるまいと考えた比丘は、樹下に坐って、自分の物とは何かを問い詰めていく。財産も地位も家族も、出家すれば自分の物ではない。この身体でさえ、父母から受け、衣食で養われ、やがて土に帰るもので、自分の物ではない。当たり前に思える一言を、とことん自分に向けて掘り下げる姿勢が印象的である。

この章句が説くこと

不偸盗無我思惟身体出家我物

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