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十善法語 / 巻第一・不殺生戒

三界ハ我所領ナルニ由テ。金銀財寶。祿位官爵ニ對スレハ不偸盜戒トナリ來ル。此中ニ我所領ト云ハ。世間ニ俸祿釆地ノアル人ハ。其所領ニ於テ自在ヲ得ル故。コレニ比ヘテ說示ス言シヤ。實ハ一切世界ヲ以テ自己ノ身體トスルニ由テ。世間ノ山河大地。草木叢林ト自己ト。平等平等ニシテ。元來ヘタテナキ物シヤ。經ノ中ニ。一切地水是我先身。一切火風是我本體トアル。此義シヤ。衆生モヘタテナキモノ。世界モヘタテナキモノ。谷ハ山ノ高キヲ美マス。谷ニシテ足ル。山ハ谷ノ深キヲ美マス。山ニシテ足ル。眼ニサヘキラ子ハ止子。眼ニ遮レハ。彼ニ官爵有モ我ニ有ニ異ナラス。彼ニ俸祿有モ我ニ有ニ異ナラス。更ニ正眼ニ看來レハ。此官位俸祿モ一分ノ善根。佛性ニ順スルノ果報ナルニ由テ。本是正知見ノ中ノ福分。法性ヨリ分付セルヨソホヒシヤ。是ヲ不偸盜戒ト名クルシヤ。

新字:三界ハ我所領ナルニ由テ。金銀財宝。禄位官爵ニ対スレハ不偸盗戒トナリ来ル。此中ニ我所領ト云ハ。世間ニ俸禄釆地ノアル人ハ。其所領ニ於テ自在ヲ得ル故。コレニ比ヘテ説示ス言シヤ。実ハ一切世界ヲ以テ自己ノ身体トスルニ由テ。世間ノ山河大地。草木叢林ト自己ト。平等平等ニシテ。元来ヘタテナキ物シヤ。経ノ中ニ。一切地水是我先身。一切火風是我本体トアル。此義シヤ。衆生モヘタテナキモノ。世界モヘタテナキモノ。谷ハ山ノ高キヲ美マス。谷ニシテ足ル。山ハ谷ノ深キヲ美マス。山ニシテ足ル。眼ニサヘキラ子ハ止子。眼ニ遮レハ。彼ニ官爵有モ我ニ有ニ異ナラス。彼ニ俸禄有モ我ニ有ニ異ナラス。更ニ正眼ニ看来レハ。此官位俸禄モ一分ノ善根。仏性ニ順スルノ果報ナルニ由テ。本是正知見ノ中ノ福分。法性ヨリ分付セルヨソホヒシヤ。是ヲ不偸盗戒ト名クルシヤ。

書き下し

三界ハ我所領ナルニ由テ。金銀財宝。禄位官爵ニ対スレハ不偸盗戒トナリ来ル。此中ニ我所領ト云ハ。世間ニ俸禄釆地ノアル人ハ。其所領ニ於テ自在ヲ得ル故。コレニ比ヘテ説示ス言シヤ。実ハ一切世界ヲ以テ自己ノ身体トスルニ由テ。世間ノ山河大地。草木叢林ト自己ト。平等平等ニシテ。元来ヘタテナキ物シヤ。経ノ中ニ。一切地水是我先身。一切火風是我本体トアル。此義シヤ。衆生モヘタテナキモノ。世界モヘタテナキモノ。谷ハ山ノ高キヲ美マス。谷ニシテ足ル。山ハ谷ノ深キヲ美マス。山ニシテ足ル。眼ニサヘキラ子ハ止子。眼ニ遮レハ。彼ニ官爵有モ我ニ有ニ異ナラス。彼ニ俸禄有モ我ニ有ニ異ナラス。更ニ正眼ニ看来レハ。此官位俸禄モ一分ノ善根。仏性ニ順スルノ果報ナルニ由テ。本是正知見ノ中ノ福分。法性ヨリ分付セルヨソホヒシヤ。是ヲ不偸盗戒ト名クルシヤ。

現代語訳

三界は自分の領分であるから、金銀財宝や俸禄・官位に対すれば、不偸盗戒となって来る。ここで自分の領分と言うのは、世間で俸禄や領地のある人は、その領地において自在を得るので、それに比べて説き示した言葉である。実は一切の世界を自己の身体とするから、世間の山河大地や草木叢林と自己とは、平等そのものであって、もともと隔てのないものなのである。経の中に、「一切の地と水はわが前の身であり、一切の火と風はわが本体である」とある。この意味である。衆生も隔てのないもの、世界も隔てのないものである。谷は山の高いことを羨まない。谷のままで足りている。山は谷の深いことを羨まない。山のままで足りている。眼に入らなければそれまでだが、眼に入れば、彼に官位があっても自分にあるのと異ならない。彼に俸禄があっても自分にあるのと異ならない。さらに正しい眼で見てみれば、この官位や俸禄も、一分の善根が仏性に順った果報であるから、もとは正しい知見の中の福分であり、法性から分け与えられた装いなのである。これを不偸盗戒と名づけるのである。

解説

不偸盗戒を、世界を自分の身体とする見方から説く。経の「一切地水是我先身、一切火風是我本体」は梵網経に見える句で、万物と自己の隔てのなさを示す。谷は山の高さを羨まず、山は谷の深さを羨まないという譬えが印象的である。他人の地位や収入も、その人の善根が結んだ果報であり、自分のものと異ならないと見れば、奪う心も妬む心も起こらない。他人の昇進や成功に心がざわつくとき、比べる心を静める一節として読める。

この章句が説くこと

不偸盗知足羨望福分仏性梵網経

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