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十善法語 / 巻第二・不偸盜戒

喩ヘハ此許ニ大君長有テ萬國ヲ掌握ノ中ニ置ク。其中ニ數百ノ郡國ヲ分チ。有功ノ臣ヲ封シ。或ハ子弟ヲ封ス。其分界定タ上ハ。所出ノ財利多少等シカラス。彼ニハ餘リ此ニハ足ヌモ。彼ヲ奪テ此ニ與ヘヌシヤ。此ヲ減シテ彼ト等クセヌシヤ。ソレソレニ分限有テミタリニ與奪セサレトモ。率土ミナ我掌握タルコトヲ妨ケヌシヤ。佛性緣起ノ不偸盜戒トナルモ如是シヤ。同一法性福德莊嚴ハ平等ナレトモ。緣ニ隨テ此アリ彼アル。彼此相分ルルハ物物齊シカラヌ。國ニ大小アリ。家ニ貧富アリ。人ニ窮達アリ。其善根ノ厚薄護戒ノ緩急ニ由テ業相所現ノ影如是シヤ。富ル家ハ施シテ盡ス。貧キ家ハ乞貸シテ足ラス。窮スルトキハ親戚モ棄去ル。達スルトキハ楚越モ兄弟ノ如クニナル。且ク肉眼ノ所見。業相ノ影像。此差別アルニ似テ現スレトモ。同一法性福德莊嚴ハ元來平等ナルモノシヤ。

新字:喩ヘハ此許ニ大君長有テ万国ヲ掌握ノ中ニ置ク。其中ニ数百ノ郡国ヲ分チ。有功ノ臣ヲ封シ。或ハ子弟ヲ封ス。其分界定タ上ハ。所出ノ財利多少等シカラス。彼ニハ余リ此ニハ足ヌモ。彼ヲ奪テ此ニ与ヘヌシヤ。此ヲ減シテ彼ト等クセヌシヤ。ソレソレニ分限有テミタリニ与奪セサレトモ。率土ミナ我掌握タルコトヲ妨ケヌシヤ。仏性縁起ノ不偸盗戒トナルモ如是シヤ。同一法性福徳荘厳ハ平等ナレトモ。縁ニ随テ此アリ彼アル。彼此相分ルルハ物物斉シカラヌ。国ニ大小アリ。家ニ貧富アリ。人ニ窮達アリ。其善根ノ厚薄護戒ノ緩急ニ由テ業相所現ノ影如是シヤ。富ル家ハ施シテ尽ス。貧キ家ハ乞貸シテ足ラス。窮スルトキハ親戚モ棄去ル。達スルトキハ楚越モ兄弟ノ如クニナル。且ク肉眼ノ所見。業相ノ影像。此差別アルニ似テ現スレトモ。同一法性福徳荘厳ハ元来平等ナルモノシヤ。

書き下し

喩ヘハ此許ニ大君長有テ万国ヲ掌握ノ中ニ置ク。其中ニ数百ノ郡国ヲ分チ。有功ノ臣ヲ封シ。或ハ子弟ヲ封ス。其分界定タ上ハ。所出ノ財利多少等シカラス。彼ニハ余リ此ニハ足ヌモ。彼ヲ奪テ此ニ与ヘヌシヤ。此ヲ減シテ彼ト等クセヌシヤ。ソレソレニ分限有テミタリニ与奪セサレトモ。率土ミナ我掌握タルコトヲ妨ケヌシヤ。仏性縁起ノ不偸盗戒トナルモ如是シヤ。同一法性福徳荘厳ハ平等ナレトモ。縁ニ随テ此アリ彼アル。彼此相分ルルハ物物斉シカラヌ。国ニ大小アリ。家ニ貧富アリ。人ニ窮達アリ。其善根ノ厚薄護戒ノ緩急ニ由テ業相所現ノ影如是シヤ。富ル家ハ施シテ尽ス。貧キ家ハ乞貸シテ足ラス。窮スルトキハ親戚モ棄去ル。達スルトキハ楚越モ兄弟ノ如クニナル。且ク肉眼ノ所見。業相ノ影像。此差別アルニ似テ現スレトモ。同一法性福徳荘厳ハ元来平等ナルモノシヤ。

現代語訳

たとえば、ここに大君長がいて、万国を掌握の中に置く。その中に数百の郡国を分け、功のある臣を封じ、あるいは子弟を封じる。その分界が定まった上は、産出する財や利の多少は等しくない。あちらには余りこちらには足りなくても、あちらから奪ってこちらに与えないのである。こちらを減らしてあちらと等しくしないのである。それぞれに分限があって、みだりに与えたり奪ったりしないけれども、天下がみなわが掌握の内であることを妨げないのである。仏性の縁起が不偸盗戒となるのもこのようである。同一の法性の福徳荘厳は平等であるけれども、縁に従ってこちらがありあちらがある。あちらこちらと分かれるのは、物がそれぞれ等しくないからである。国に大小があり、家に貧富があり、人に困窮と栄達がある。その善根の厚い薄い、戒を守ることの緩い急によって、業のすがたに現れる影はこのようなのである。富める家は施して尽きる。貧しい家は物乞いや借金をして足りない。困窮する時は親戚も見捨て去る。栄達する時は楚と越のような疎遠な者も兄弟のようになる。しばらく肉眼の見る所、業のすがたの影像には、この差別があるように現れるけれども、同一の法性の福徳荘厳はもともと平等なものである。

解説

大君主が国々を功臣に分け与えたあとは、豊かな国から奪って貧しい国に与えることはしないが、天下全体は君主の掌中にある。仏性と不偸盗戒の関係もこれと同じで、福徳の本体は平等なのに、善根や持戒の差によって国の大小、家の貧富、人の窮達が現れる。困窮すれば親戚も去り、栄達すれば遠い他人も兄弟のように寄ってくる、という人情の描写は鋭い。表に見える差は業の影にすぎず、本来はみな平等だという見方は、境遇で人の価値を量る心を戒めている。

この章句が説くこと

平等分限貧富窮達法性不偸盗

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