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十善法語 / 巻第一・不殺生戒

第一ニ先仁愛ノ姿シヤ。身ニ猛キ爪牙カナイ。頭ニ角カナイ。身體モ柔輕ナルシヤ。坐スルモ正シク。行步モ正シク。臥モ正シク。衣冠威儀モ正シキシヤ。不殺生戒ノ影ハ先カウシタコトシヤ。畜生ヲ看ヨ。師子虎狼ヨリシテ。下蛇蛙微細ノ蟲蟻ニ至マテ大小强弱ノ別ハアレトモ。皆相暾害スル毒カアルシヤ。角アルモアリ。牙アルモアリ。利爪アルモアリ。大ハ小ヲ凌キ。强ハ弱ヲ挫キテ。互ニ瞰害シ呑嚼スルシヤ。彼殺生業道ノ姿如是シヤ。古ニ麒麟ハ生物ヲ害セス。靑草ヲ踏ヌト云類ハ。畜生道ノ中ニ。一分人間ノ德ヲ失ハヌコトシヤ。畜生ノ當マヘテハナイ。又經中ノ鹿野苑ノ緣ナトハ。更ニ別途ノコトシヤ。

新字:第一ニ先仁愛ノ姿シヤ。身ニ猛キ爪牙カナイ。頭ニ角カナイ。身体モ柔軽ナルシヤ。坐スルモ正シク。行歩モ正シク。臥モ正シク。衣冠威儀モ正シキシヤ。不殺生戒ノ影ハ先カウシタコトシヤ。畜生ヲ看ヨ。師子虎狼ヨリシテ。下蛇蛙微細ノ虫蟻ニ至マテ大小強弱ノ別ハアレトモ。皆相暾害スル毒カアルシヤ。角アルモアリ。牙アルモアリ。利爪アルモアリ。大ハ小ヲ凌キ。強ハ弱ヲ挫キテ。互ニ瞰害シ呑嚼スルシヤ。彼殺生業道ノ姿如是シヤ。古ニ麒麟ハ生物ヲ害セス。青草ヲ踏ヌト云類ハ。畜生道ノ中ニ。一分人間ノ徳ヲ失ハヌコトシヤ。畜生ノ当マヘテハナイ。又経中ノ鹿野苑ノ縁ナトハ。更ニ別途ノコトシヤ。

書き下し

第一ニ先仁愛ノ姿シヤ。身ニ猛キ爪牙カナイ。頭ニ角カナイ。身体モ柔軽ナルシヤ。坐スルモ正シク。行歩モ正シク。臥モ正シク。衣冠威儀モ正シキシヤ。不殺生戒ノ影ハ先カウシタコトシヤ。畜生ヲ看ヨ。師子虎狼ヨリシテ。下蛇蛙微細ノ虫蟻ニ至マテ大小强弱ノ別ハアレトモ。皆相暾害スル毒カアルシヤ。角アルモアリ。牙アルモアリ。利爪アルモアリ。大ハ小ヲ凌キ。强ハ弱ヲ挫キテ。互ニ瞰害シ呑嚼スルシヤ。彼殺生業道ノ姿如是シヤ。古ニ麒麟ハ生物ヲ害セス。青草ヲ踏ヌト云類ハ。畜生道ノ中ニ。一分人間ノ徳ヲ失ハヌコトシヤ。畜生ノ当マヘテハナイ。又経中ノ鹿野苑ノ縁ナトハ。更ニ別途ノコトシヤ。

現代語訳

第一に、まず仁愛の姿である。身に猛々しい爪や牙がない。頭に角がない。身体も柔らかいのである。座るのも正しく、歩くのも正しく、臥すのも正しく、衣冠や立ち居振る舞いも正しいのである。不殺生戒の影は、まずこうしたことである。畜生を見なさい。獅子や虎や狼から、下は蛇や蛙や微細な虫や蟻に至るまで、大小強弱の別はあるけれども、みな互いに食い合い害し合う毒があるのである。角のあるものもあり、牙のあるものもあり、鋭い爪のあるものもある。大は小をしのぎ、強は弱をくじいて、互いに食い害し呑み噛むのである。あの殺生の業道の姿はこのようである。昔、麒麟は生きものを害さず、青草を踏まないと言う類は、畜生道の中で、一分の人間の徳を失わないことである。畜生の当たり前ではない。また経の中の鹿野苑の因縁などは、さらに別のことである。

解説

人間の姿に不殺生戒の影を見る段である。人には爪も牙も角もなく、体は柔らかく、立ち居振る舞いを正すことができる。対して獣は大小強弱の差はあれ互いに食い合う。麒麟が生きものを害さず青草を踏まないという伝説は、獣の中にわずかに人の徳が現れた例外だという。経に見える鹿野苑の因縁は、さらに別の話として脇に置かれる。当時の人間中心の見方ではあるが、武器を持たない柔らかな体こそ仁愛の姿だという捉え方は、力で押す態度を省みさせる。

この章句が説くこと

仁愛不殺生威儀麒麟畜生弱肉強食

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