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十善法語 / 巻第一・不殺生戒

雲ノ空中ニ起滅スル。唯風ニ隨テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。草木ノ地上ニ榮枯アル。タタ風日霜露ニ隨テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。眼カ自ラ眼ヲ見ルコトハナラヌ。色ニ對シテ眼ノ用カアル。耳カ自ラ耳ナラヌ。聲ニ對シテ耳ノ用カアル。鼻カ自ラ鼻ナルモノテハナイ。香ニ對シテ鼻ノ用カアル。舌カ自ラ舌ヲ味ヘヌ。外ノ五味ニ對シテ舌ノ用カアル。身カ自ラ觸レヌ。外ノ觸境ニ對シテ身ノ用カアル。悉ク唯衆緣和合ノミニテ。自ラ自由ノ分ナキシヤ。心カ自ラ心ナラヌ。外ノ善惡邪正是非得失ニ對シテ心ノ用カアル。悉クタタ衆緣和合ノミニテ。其實體ナク。ソノ主宰ナク。朝ヨリ暮ニ至マテ。唯業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。生ヨリ死ニ至マテ。業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。面白キコトシヤ。

新字:雲ノ空中ニ起滅スル。唯風ニ随テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。草木ノ地上ニ栄枯アル。タタ風日霜露ニ随テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。眼カ自ラ眼ヲ見ルコトハナラヌ。色ニ対シテ眼ノ用カアル。耳カ自ラ耳ナラヌ。声ニ対シテ耳ノ用カアル。鼻カ自ラ鼻ナルモノテハナイ。香ニ対シテ鼻ノ用カアル。舌カ自ラ舌ヲ味ヘヌ。外ノ五味ニ対シテ舌ノ用カアル。身カ自ラ触レヌ。外ノ触境ニ対シテ身ノ用カアル。悉ク唯衆縁和合ノミニテ。自ラ自由ノ分ナキシヤ。心カ自ラ心ナラヌ。外ノ善悪邪正是非得失ニ対シテ心ノ用カアル。悉クタタ衆縁和合ノミニテ。其実体ナク。ソノ主宰ナク。朝ヨリ暮ニ至マテ。唯業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。生ヨリ死ニ至マテ。業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。面白キコトシヤ。

書き下し

雲ノ空中ニ起滅スル。唯風ニ随テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。草木ノ地上ニ栄枯アル。タタ風日霜露ニ随テ自ラ自由ノ分ナイ。面白キコトシヤ。眼カ自ラ眼ヲ見ルコトハナラヌ。色ニ対シテ眼ノ用カアル。耳カ自ラ耳ナラヌ。声ニ対シテ耳ノ用カアル。鼻カ自ラ鼻ナルモノテハナイ。香ニ対シテ鼻ノ用カアル。舌カ自ラ舌ヲ味ヘヌ。外ノ五味ニ対シテ舌ノ用カアル。身カ自ラ触レヌ。外ノ触境ニ対シテ身ノ用カアル。悉ク唯衆縁和合ノミニテ。自ラ自由ノ分ナキシヤ。心カ自ラ心ナラヌ。外ノ善悪邪正是非得失ニ対シテ心ノ用カアル。悉クタタ衆縁和合ノミニテ。其実体ナク。ソノ主宰ナク。朝ヨリ暮ニ至マテ。唯業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。生ヨリ死ニ至マテ。業相ニ役使セラレテ。自ラ自由ノ分ナシ。面白キコトシヤ。

現代語訳

雲が空中に起こっては消える。ただ風に従って、自らに自由の分はない。面白いことである。草木が地上に栄え枯れる。ただ風や日や霜や露に従って、自らに自由の分はない。面白いことである。眼は自ら眼を見ることはできない。色に対して眼の働きがある。耳は自ら耳であるのではない。声に対して耳の働きがある。鼻は自ら鼻であるものではない。香に対して鼻の働きがある。舌は自ら舌を味わえない。外の五味に対して舌の働きがある。身は自ら触れられない。外の触れる対象に対して身の働きがある。ことごとくただ多くの縁が和合しているだけであって、自らに自由の分はないのである。心は自ら心であるのではない。外の善悪・邪正・是非・得失に対して心の働きがある。ことごとくただ多くの縁が和合しているだけであって、その実体はなく、その主宰者もなく、朝から暮れに至るまで、ただ業のすがたに使われて、自らに自由の分はない。生から死に至るまで、業のすがたに使われて、自らに自由の分はない。面白いことである。

解説

雲は風のまま、草木は日や霜のままに移ろう。眼・耳・鼻・舌・身も、見られるもの聞かれるものに対してはじめて働き、それ自体で成り立つ実体はない。心もまた、外の善悪や得失に対して動くだけで、主宰する主はない。仏教の無我と縁起の教えを、身近な感覚から語る段である。朝から晩まで、生まれてから死ぬまで業に使われているという言葉は突き放すようだが、尊者はそれを面白いと言う。自分が縁に動かされていると知ることが、とらわれを緩める第一歩になる。

この章句が説くこと

無我縁起業相自由六根主宰

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