十善法語 / 巻第一・不殺生戒
此小殺生マテモ。謹愼ニ護持スル場處ニ。自ラ其德ヲ成就スルコト。喩ヘハ藥物ノ製法精密ナレハ其功イチシルシキ如ク。刀劍ノ鍛鍊ヨロシケレハ。其鋒銳利ナルカ如クシヤ。通シテ戒法ト云ハ。惡ヲ止ルニ名ヲ得ルコトナレトモ。コノ惡ヲ止ル中ニ其德ヲ成就スルシヤ。爰ニ一ノ疑カ有ヘキコトシヤ。若菩薩カ又ハ出家隱士ナル時ハ。如上ノ德成就スヘシ。若世間ニ在テ國ノ政ヲ執ランニ。其盜賊徘徊シ。惡人徒黨ヲ結フ。此等ノ事モナシト云ヘカラスシヤ。其時若殺セハ佛戒ヲ輕ンスルニ似ル。若宥ムレハ政道立セス。人民ノ害トナル。此二途何レニ從ヘキソ。
新字:此小殺生マテモ。謹慎ニ護持スル場処ニ。自ラ其徳ヲ成就スルコト。喩ヘハ薬物ノ製法精密ナレハ其功イチシルシキ如ク。刀剣ノ鍛錬ヨロシケレハ。其鋒鋭利ナルカ如クシヤ。通シテ戒法ト云ハ。悪ヲ止ルニ名ヲ得ルコトナレトモ。コノ悪ヲ止ル中ニ其徳ヲ成就スルシヤ。爰ニ一ノ疑カ有ヘキコトシヤ。若菩薩カ又ハ出家隠士ナル時ハ。如上ノ徳成就スヘシ。若世間ニ在テ国ノ政ヲ執ランニ。其盗賊徘徊シ。悪人徒党ヲ結フ。此等ノ事モナシト云ヘカラスシヤ。其時若殺セハ仏戒ヲ軽ンスルニ似ル。若宥ムレハ政道立セス。人民ノ害トナル。此二途何レニ従ヘキソ。
書き下し
此小殺生マテモ。謹慎ニ護持スル場処ニ。自ラ其徳ヲ成就スルコト。喩ヘハ薬物ノ製法精密ナレハ其功イチシルシキ如ク。刀剣ノ鍛錬ヨロシケレハ。其鋒銳利ナルカ如クシヤ。通シテ戒法ト云ハ。悪ヲ止ルニ名ヲ得ルコトナレトモ。コノ悪ヲ止ル中ニ其徳ヲ成就スルシヤ。爰ニ一ノ疑カ有ヘキコトシヤ。若菩薩カ又ハ出家隠士ナル時ハ。如上ノ徳成就スヘシ。若世間ニ在テ国ノ政ヲ執ランニ。其盗賊徘徊シ。悪人徒党ヲ結フ。此等ノ事モナシト云ヘカラスシヤ。其時若殺セハ仏戒ヲ軽ンスルニ似ル。若宥ムレハ政道立セス。人民ノ害トナル。此二途何レニ従ヘキソ。
現代語訳
この小殺生までも謹んで護持する所に、自然にその徳を成就することは、たとえば薬の製法が精密であればその効き目が著しいように、刀剣の鍛錬がよければその切っ先が鋭いようなものである。総じて戒法というのは、悪を止めることに名を得るものであるけれども、この悪を止める中にその徳を成就するのである。ここに一つの疑いがあるはずである。もし菩薩か、または出家や隠者である時は、上のような徳が成就するであろう。もし世間にあって国の政治を執るとすれば、盗賊が徘徊し、悪人が徒党を組む。こういう事もないとは言えないのである。その時もし殺せば、仏の戒を軽んじるように見える。もし許せば政道が立たず、人民の害となる。この二つの道のどちらに従うべきか。
解説

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