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十善法語 / 巻第一・不殺生戒

此中ニ中下ノ類ヲモ尊重スルト云ハ都盧一ニ尊卑ヲ分タヌコトテハナイ。君ト稱スヘキ者ハ君ト稱シテ尊重スルシヤ。足下ト稱スヘキ者ハ足下ト稱シテ尊重スルシヤ。汝ト稱スヘキ者ハ汝ト稱シテ心內ニ尊重ニ思フシヤ。上ヲ敬シ下ヲ愛シ。賢者ヲ尊ミ不肖者ヲ憐ム。其品類ハヨクヨク分別スレトモ。其人ノ人タル德ヲ尊重シ憶念スルコトハ一シヤ。暴惡ノ者ニモ尊重ノ心ヲ失ハヌト云ハ。其暴惡ヲ尊重スルテハナイ。暴惡ハ憎ミ賤シムヘキコトナレトモ。此人界ニ生レ來リシ善根ヲ尊ム。人間アタリマヘノ位ヲ尊重スルシヤ。要ヲ取テ云ハ。人趣ノ尊重ナルコトヲ憶念スルハ。道ニ達スル要津シヤ。自ラ自己人身ニ尊重ノ心アレハ。自暴自棄ノ患カナキシヤ。

新字:此中ニ中下ノ類ヲモ尊重スルト云ハ都盧一ニ尊卑ヲ分タヌコトテハナイ。君ト称スヘキ者ハ君ト称シテ尊重スルシヤ。足下ト称スヘキ者ハ足下ト称シテ尊重スルシヤ。汝ト称スヘキ者ハ汝ト称シテ心内ニ尊重ニ思フシヤ。上ヲ敬シ下ヲ愛シ。賢者ヲ尊ミ不肖者ヲ憐ム。其品類ハヨクヨク分別スレトモ。其人ノ人タル徳ヲ尊重シ憶念スルコトハ一シヤ。暴悪ノ者ニモ尊重ノ心ヲ失ハヌト云ハ。其暴悪ヲ尊重スルテハナイ。暴悪ハ憎ミ賤シムヘキコトナレトモ。此人界ニ生レ来リシ善根ヲ尊ム。人間アタリマヘノ位ヲ尊重スルシヤ。要ヲ取テ云ハ。人趣ノ尊重ナルコトヲ憶念スルハ。道ニ達スル要津シヤ。自ラ自己人身ニ尊重ノ心アレハ。自暴自棄ノ患カナキシヤ。

書き下し

此中ニ中下ノ類ヲモ尊重スルト云ハ都盧一ニ尊卑ヲ分タヌコトテハナイ。君ト称スヘキ者ハ君ト称シテ尊重スルシヤ。足下ト称スヘキ者ハ足下ト称シテ尊重スルシヤ。汝ト称スヘキ者ハ汝ト称シテ心内ニ尊重ニ思フシヤ。上ヲ敬シ下ヲ愛シ。賢者ヲ尊ミ不肖者ヲ憐ム。其品類ハヨクヨク分別スレトモ。其人ノ人タル徳ヲ尊重シ憶念スルコトハ一シヤ。暴悪ノ者ニモ尊重ノ心ヲ失ハヌト云ハ。其暴悪ヲ尊重スルテハナイ。暴悪ハ憎ミ賤シムヘキコトナレトモ。此人界ニ生レ来リシ善根ヲ尊ム。人間アタリマヘノ位ヲ尊重スルシヤ。要ヲ取テ云ハ。人趣ノ尊重ナルコトヲ憶念スルハ。道ニ達スル要津シヤ。自ラ自己人身ニ尊重ノ心アレハ。自暴自棄ノ患カナキシヤ。

現代語訳

この中で、中や下の類をも尊重すると言うのは、すべて一様に尊卑を分けないということではない。君と称すべき者は君と称して尊重するのである。足下と称すべき者は足下と称して尊重するのである。汝と称すべき者は汝と称して、心の内では尊重に思うのである。上を敬い下を愛し、賢者を尊び不肖の者を憐れむ。その品類はよくよく分別するけれども、その人の人たる徳を尊重し心にとどめることは一つである。暴悪の者にも尊重の心を失わないと言うのは、その暴悪を尊重するのではない。暴悪は憎み卑しむべきことであるけれども、この人の世界に生まれて来た善根を尊ぶ。人間として当たり前の位を尊重するのである。要点を取って言えば、人という境涯の尊いことを心にとどめるのは、道に達する要の渡し場である。自ら自己の人の身に尊重の心があれば、自暴自棄の患いがないのである。

解説

すべての人を尊重するとは、上下の区別をなくすことではない、と尊者は補う。君と呼ぶべき人は君と呼び、汝と呼ぶべき人は汝と呼ぶ。立場に応じた礼は分けながら、人としての徳を尊ぶ心は同じだというのである。乱暴な人を尊重するのも、その乱暴さを認めるのではなく、人として生まれた善根を尊ぶのだという区別は明快である。最後に、人の尊さを思う心は自分自身にも向き、自暴自棄を防ぐと結ぶ。他者への敬意と自尊心は、同じ根から出ている。
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この章句が説くこと

尊重尊卑自暴自棄善根礼人間

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