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自警録 / 第七章 譏謗に対する態度・世評は修養の補助

かれこれ相互の批評は人生の大部分を成しているかと思われる。むろんこれが刺激となって人生は進歩するものである。いかなる人でも、その備うる短所を批評せねばいい気になりますます得意となる。いかなる怪しからぬ行為あるものも、これを発いて反省を促さねば、ますますその暴行を逞しゅうしやすくなる。 世間の批評が我々の行為を抑制することは、あたかも羊の群れを監督するために羊犬を付けるがごとくである。おろかなる羊は草を食いながら、少しでも柔軟に、少しでも緑の草があるほうに進み、だいたいの方向も忘れて進み路を迷いやすい。このとき羊犬が迷った羊に吠えつき、各個の羊をその群れより離散せぬようにまとめると同じく、世評なるものは、我々が得意になり、あるいは岐路に迷わんとするとき、これを抑えて軌道に惹き着ける役目をするものと思えば、修養の一大補助ともみなされる。すなわち毀謗は社会の要求の声ともいうべきものならん。 それについてはこれを濫用せぬよう心がけることが最も必要である。してその濫用とは、 一にはその悪口をいった人を怨むこと、 二には自分の悪口されたのを聞き怒ること、 三は悪口を耳にしてヤケとなること、 四には悪口に対する弁解に大いにつとむること、 五には悪口のために落胆し萎縮すること、 等が、その主要なるものである。これらの弊に陥らぬようにするには、まず悪口に対してはいかなる態度におらねばならぬか、その度胸を定めたい。 悪口そのものについては他所にも述べたから、ここに再び繰り返す必要はない。僕のここに言わんとすることは、悪口の目的物となり、すなわち悪口を受けるものの態度について一言したい。

書き下し

かれこれ相互の批評は人生の大部分を成しているかと思われる。むろんこれが刺激となって人生は進歩するものである。いかなる人でも、その備うる短所を批評せねばいい気になりますます得意となる。いかなる怪しからぬ行為あるものも、これを発いて反省を促さねば、ますますその暴行を逞しゅうしやすくなる。 世間の批評が我々の行為を抑制することは、あたかも羊の群れを監督するために羊犬を付けるがごとくである。おろかなる羊は草を食いながら、少しでも柔軟に、少しでも緑の草があるほうに進み、だいたいの方向も忘れて進み路を迷いやすい。このとき羊犬が迷った羊に吠えつき、各個の羊をその群れより離散せぬようにまとめると同じく、世評なるものは、我々が得意になり、あるいは岐路に迷わんとするとき、これを抑えて軌道に惹き着ける役目をするものと思えば、修養の一大補助ともみなされる。すなわち毀謗は社会の要求の声ともいうべきものならん。 それについてはこれを濫用せぬよう心がけることが最も必要である。してその濫用とは、 一にはその悪口をいった人を怨むこと、 二には自分の悪口されたのを聞き怒ること、 三は悪口を耳にしてヤケとなること、 四には悪口に対する弁解に大いにつとむること、 五には悪口のために落胆し萎縮すること、 等が、その主要なるものである。これらの弊に陥らぬようにするには、まず悪口に対してはいかなる態度におらねばならぬか、その度胸を定めたい。 悪口そのものについては他所にも述べたから、ここに再び繰り返す必要はない。僕のここに言わんとすることは、悪口の目的物となり、すなわち悪口を受けるものの態度について一言したい。

現代語訳

あれこれと互いに批評し合うことは、人生の大部分を占めているように思われます。もちろん、これが刺激となって人生は進歩するものです。どんな人でも、その備えている短所を批評されなければ、いい気になってますます得意になります。どんなけしからぬ行為をする者でも、これを暴いて反省を促さなければ、ますます乱暴を働きやすくなります。 世間の批評が私たちの行為を抑制するのは、羊の群れを監督するために牧羊犬をつけるのに似ています。愚かな羊は、草を食べながら、少しでも柔らかい、少しでも緑の濃い草のあるほうへと進み、おおよその方向も忘れて道に迷いやすいものです。そのとき牧羊犬が迷った羊に吠えつき、一匹一匹の羊が群れから離れないようにまとめるのと同じように、世評というものは、私たちが得意になり、あるいは岐路に迷おうとするとき、これを抑えて軌道に引き戻す役目をします。そう思えば、修養の大きな助けとも見なせます。つまり、そしりは社会の要求の声ともいうべきものでしょう。 それについては、これを濫用しないよう心がけることが最も必要です。その濫用とは、 一つには、その悪口を言った人を恨むこと、 二つには、自分の悪口を言われたと聞いて怒ること、 三つには、悪口を耳にしてやけになること、 四つには、悪口に対する弁解に大いにつとめること、 五つには、悪口のために落胆し、萎縮すること、 などが、その主要なものです。これらの弊に陥らないようにするには、まず悪口に対してどんな態度でいなければならないか、その度胸を定めたいものです。 悪口そのものについては他の箇所でも述べたので、ここで繰り返す必要はありません。僕がここで言おうとするのは、悪口の対象となる者、つまり悪口を受ける者の態度について、一言述べたいということです。

解説

世評は牧羊犬のように、得意になって道に迷う私たちを軌道に引き戻す、と新渡戸は批評の効用を認めます。そのうえで、批判を受けたときにしがちな五つの濫用、つまり恨む、怒る、やけになる、弁解に励む、萎縮する、を挙げます。批判を成長の刺激として使うか、感情の火種にするかの分かれ目です。評価面談やレビューで指摘を受けたとき、五つのうちどれに流れやすいかを自覚しておくだけでも、受け止め方は変わります。
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この章句が説くこと

世評牧羊犬批判の効用濫用弁解萎縮

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