囲炉夜話 / 第百四十五則・常失ふ無ければ變も亦た能く禦ぐ
數雖有定,而君子但求其理,理既得,數亦難違。 變固宜防,而君子但守其常,常無失,變亦能禦。 奢侈足以敗家,慳吝亦足以敗家。 奢侈之敗家,猶出常情,而慳吝之敗家,必遭奇禍。 庸愚足以覆事,精明亦足以覆事。 庸愚之覆事,猶為小咎,而精明之覆事,必見大兇。
新字:数雖有定,而君子但求其理,理既得,数亦難違。 変固宜防,而君子但守其常,常無失,変亦能禦。 奢侈足以敗家,慳吝亦足以敗家。 奢侈之敗家,猶出常情,而慳吝之敗家,必遭奇禍。 庸愚足以覆事,精明亦足以覆事。 庸愚之覆事,猶為小咎,而精明之覆事,必見大兇。
書き下し
數に定め有りと雖も、而も君子は但だ其の理を求む、理既に得れば、數も亦た違ひ難し。 變は固より宜しく防ぐべし、而も君子は但だ其の常を守る、常失ふ無ければ、變も亦た能く禦ぐ。 奢侈は以て家を敗るに足り、慳吝も亦た以て家を敗るに足る。 奢侈の家を敗るは、猶ほ常情に出づ、而して慳吝の家を敗るは、必ず奇禍に遭ふ。 庸愚は以て事を覆すに足り、精明も亦た以て事を覆すに足る。 庸愚の事を覆すは、猶ほ小咎たり、而して精明の事を覆すは、必ず大兇を見る。
現代語訳
運命には定めがあるとはいえ、君子はただ道理を求めます。道理をつかめば、運命もまたそれに逆らいにくくなります。変事はもとより防ぐべきですが、君子はただ平常を守ります。平常を失わなければ、変事もまた防ぐことができます。贅沢は家を滅ぼすのに十分ですが、けちもまた家を滅ぼすのに十分です。贅沢で家が滅びるのは、まだ世の常の成り行きですが、けちで家が滅びるときは、必ず思いもよらない災いに遭います。凡庸で愚かなことは事をひっくり返すのに十分ですが、抜け目のない賢さもまた事をひっくり返すのに十分です。凡庸で愚かなために事をしくじるのは、まだ小さな過ちですが、抜け目のない賢さで事をしくじるときは、必ず大きな凶事を見ます。
解説
三組の対句で、運命と道理、家の滅び方、事の崩れ方を論じた長めの則です。最初の組は、運命や変事に心を奪われず、君子は理と常、つまり道理と平常の務めを守れば、運命も変事もおのずと御せると言います。次の組は、贅沢も吝嗇も家を滅ぼすが、吝嗇の方が恨みを買って思わぬ災いを招くと言います。最後の組は、愚かさも賢さも事を覆すが、抜け目ない賢さの失敗の方がはるかに大きな凶を招くと言います。後の二組はどちらも、悪く見える方より良く見える方、つまり倹約に似た吝嗇や、賢さに似た小賢しさの方が恐ろしいという逆説でそろっています。今日でも、節約のつもりのけちが人心を離れさせ、切れ者の策が組織を大きく傾けることがあります。長所に見えるものの影をこそ警戒したい則です。
この章句が説くこと
立命平常勤倹吝嗇処世
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