囲炉夜話 / 第百四十二則・只だ一步を讓退すれば便ち處し易し
事當難處之時,只讓退一步,便容易處矣。 功到將成之候,若放鬆一著,便不能成矣。
新字:事当難処之時,只譲退一歩,便容易処矣。 功到将成之候,若放鬆一著,便不能成矣。
書き下し
事の處し難きの時に當たりては、只だ一步を讓退すれば、便ち處し易し。 功の將に成らんとするの候に到りては、若し一著を放鬆すれば、便ち成ること能はず。
現代語訳
物事の処理が難しいときには、ただ一歩譲って退きさえすれば、たちまち処理しやすくなります。仕事が今にも仕上がろうというときに、もし一手でも気を緩めれば、成し遂げることはできなくなります。
解説
引くべきときと、緩めてはならないときを見極めよと説いた則です。前半は、もつれて処しがたい事態では、一歩譲って退くと、かえって道が開けると言います。意地を張って押し通そうとすると、相手も固くなって事がこじれるからです。後半は、事業が成就しかけたときに、一著、つまり碁の一手ほどでも気を緩めると、すべてが崩れると言います。書経の、九仞の功を一簣に虧く、という言葉にも通じる戒めです。前半は難所での柔らかさ、後半は仕上げでの粘りで、譲るべき場面と譲ってはならない場面を対にしたところに妙味があります。今日でも、交渉が行き詰まったときは一度引いて考え、完成間際のプロジェクトほど最後の詰めに気を抜かない、という心得は変わりません。
この章句が説くこと
譲歩忍耐完遂慎重処世
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