囲炉夜話 / 第九十則・憂勤惕厲の工夫無かるべからず
教弟子於幼時,便應有正大光明氣象。 檢身心於平日,不可無憂勤惕厲工夫。
新字:教弟子於幼時,便応有正大光明気象。 検身心於平日,不可無憂勤惕厲工夫。
書き下し
弟子を幼時に教ふるには、便ち應に正大光明の氣象有るべし。 身心を平日に檢するには、憂勤惕厲の工夫無かるべからず。
現代語訳
子弟を幼いうちに教えるときは、正しく大きく明るい気風を持たせるべきです。ふだんから自分の身と心を点検するときは、慎み励み、恐れ戒める工夫がなくてはなりません。
解説
子を教えることと自分を省みることを、それぞれの心得として並べた則です。正大光明とは、心が正しく広く、隠しごとのない明るさを言い、幼いうちにその気風を植えることが大切だとします。憂勤惕厲とは、心配りを怠らずに勤め、気を引き締めて戒めることです。子には伸びやかな明るさを、自分には引き締まった慎みを、という向きの違いが対句の妙になっています。教える側が自分を厳しく省みてこそ、子にも明るい気風が伝わるという含みも読み取れます。今日でも、子や部下には大らかに、自分には細やかに、という順序は、人を育てる立場の人に役立つ心得です。
この章句が説くこと
教子修身慎独家訓光明
関連する章句
-
『囲炉夜話』第九十一則・敬心は以て邪心を化すべし小兒を教ふるは宜しく嚴なるべし、嚴氣は以て躁氣を平らぐるに足る。小人を待つは宜しく敬なるべし、敬心は以て邪心を化すべし。
-
『囲炉夜話』第九十五則・定めて悠久の人家と爲る謹んで父兄の教條を守り、沉實謙恭なれば、便ち是れ醇潛の子弟なり。 祖宗の成法を改めず、忠厚勤儉なれば、定めて悠久の人家と爲る。
-
『囲炉夜話』第二十二則・其の身を正して以て之を率ゐる父兄に善行有るも、子弟之を學びて或いは肖ず。 父兄に惡行有れば、子弟之を學びて則ち肖ざる無し。 知るべし、父兄の子弟を教ふるは、必ず其の身を正して以て之を率ゐ、徒らに言詞を事とするを庸ふる無きを。 君子に過行有れば、小人之を嫉みて容るる能はず。 君子に過行無きも、小人之を嫉みて亦た容るる能はず。 知るべし、君子の小人に處するは、必ず其の氣を平らかにして以て之を待ち、稍しも激切を形はすべからざるを。
-
『囲炉夜話』第八十九則・子弟を教へて品行を立てしむ朋友に交はりて體面を增すは、朋友に交はりて身心を益するに如かず。子弟を教へて顯榮を求めしむるは、子弟を教へて品行を立てしむるに如かず。
-
『囲炉夜話』第十六則・父兄の教育の繫る所每に子弟を待つを見るに、嚴厲なる者は、德を成すに至り易く、姑息なる者は、多く敗行有り、則ち父兄の教育の繫る所なり。 又た子弟有るを見るに、聰穎なる者の、忽ち下流に入り、庸愚なる者の、轉じて上達を為すは、則ち父兄の培植の關はる所なり。
-
『囲炉夜話』第百七十四則・其の自新の路を絕つ勿かれ子弟の天性未だ漓からず、教へ入り易きなり、則ち孔子の言を體して以て之を勞せしめ、溺愛して以て其の自ら肆にするの心を長ずる勿かれ。 子弟の習氣已に壞る、教へ行ひ難きなり、則ち孟子の言を守りて以て之を養ひ、輕々しく棄てて以て其の自ら新たにするの路を絕つ勿かれ。