囲炉夜話 / 第五十九則・蓮は朝に開きて暮に合す
蓮朝開而暮合,至不能合,則將落矣。 富貴而無收斂意者,尚其鑒之。 草春榮而冬枯,至於極枯,則又生矣。 困窮而有振興志者,亦如是也。
新字:蓮朝開而暮合,至不能合,則将落矣。 富貴而無収斂意者,尚其鑒之。 草春栄而冬枯,至於極枯,則又生矣。 困窮而有振興志者,亦如是也。
書き下し
蓮は朝に開きて暮に合す、合する能はざるに至れば、則ち將に落ちんとす。 富貴にして收斂の意無き者は、尚はくは其れ之に鑒みよ。 草は春に榮えて冬に枯る、極めて枯るるに至れば、則ち又た生ず。 困窮にして振興の志有る者も、亦た是くの如きなり。
現代語訳
蓮の花は朝に開いて夕べに閉じますが、閉じることができなくなったときは、まもなく散ろうとしているのです。富貴でありながら身を引き締める気持ちのない者は、どうかこれを手本として省みてください。草は春に茂って冬に枯れますが、枯れきったところで、また芽生えます。困窮していても奮い立つ志のある者も、これと同じです。
解説
蓮と草という植物の姿から、盛りの戒めと衰えの励ましを引き出した一則です。蓮は開いては閉じることを繰り返しますが、閉じられなくなったときが散る前触れです。富貴の人が開きっぱなしで収斂、つまり身を引き締め控える心を失えば、衰えが近いというのです。一方、草は冬に枯れきっても、春にはまた芽吹きます。困窮の中でも志を失わない人は、やがて再び伸びると励まします。開くことと閉じること、枯れることと芽吹くことの循環の中に、人の盛衰を重ねています。順調なときほど控えめに、苦しいときほど志を保つという、逆向きの心構えを示しています。
この章句が説くこと
盛衰収斂振興富貴困窮
関連する章句
-
『囲炉夜話』第二十四則・衣祿は原より定數有り富貴は禍端を生じ易し、必ず忠厚謙恭にして、才に大患無し。 衣祿は原より定數有り、必ず節儉簡省にして、乃ち久しく延ぶべし。
-
『囲炉夜話』第九十二則・靜は能く悟りを生ず儉は以て廉を養ふべし、茅舍竹籬も、自ら清趣に饒かなるを覺ゆ。 靜は能く悟りを生ず、即ち鳥啼き花落つるも、都て是れ化機なり。
-
『囲炉夜話』第十七則・顯達の士は多く寒門より出づ每に見るに勤苦の人は、絕えて癆疾無し。顯達の士は多く寒門より出づ。此れも亦た盈虛消長の機、自然の理なり。
-
『囲炉夜話』第二十則・苦は定めて甘に回る名利の宜しく得べからざる者を竟に之を得れば、福も終に禍と為る。 困窮の最も耐へ難き者を能く之に耐ふれば、苦も定めて甘に回る。
-
『囲炉夜話』第十九則・門戶の衰へは子孫の驕惰に由る門戶の衰ふるは、總て子孫の驕惰に由る。風俗の壞るるは、多く富貴の淫奢に起こる。
-
『囲炉夜話』第百二十三則・紛華に染まらずして傑出の人と稱す粗糲を能く甘んずるは、必ず是れ有爲の士なり。紛華に染まらずして、方に傑出の人と稱す。