囲炉夜話 / 第三則・幾分の饑寒を帶ぶ
飽暖人所共羨,然使享一生飽暖,而氣昏志惰,豈足有為? 饑寒人所不甘,然必帶幾分饑寒,則神緊骨堅,乃能任事。
新字:飽暖人所共羨,然使享一生飽暖,而気昏志惰,豈足有為? 饑寒人所不甘,然必帯幾分饑寒,則神緊骨堅,乃能任事。
書き下し
飽暖は人の共に羨む所なり、然れども一生の飽暖を享けしめて、氣昏く志惰らば、豈に為す有るに足らんや。 饑寒は人の甘んぜざる所なり、然れども必ず幾分の饑寒を帶ぶれば、則ち神緊まり骨堅く、乃ち能く事に任ず。
現代語訳
満腹で暖かい暮らしは誰もがうらやむものです。しかし一生満ち足りた暮らしをさせて、気がぼんやりし志が怠けてしまえば、どうして何かを成し遂げられるでしょうか。飢えや寒さは誰もが嫌がるものです。しかし必ずいくらかの飢えと寒さを身に帯びていれば、精神が引き締まり骨が固くなって、ようやく仕事を任せられるようになります。
解説
満ち足りた暮らしと、ほどよい不足とを対比した一則です。飽暖は食べ物と衣服が足りていること、饑寒はその逆です。著者は飽暖そのものを否定せず、それが一生続いて気持ちがゆるむことを戒めます。反対に、いくらかの不足を抱えていることが心身を引き締めると説きます。任事は、仕事を担い引き受けることです。何でもそろう環境にいるときほど、自分であえて少し不便を残し、楽すぎる道ばかりを選ばないことが、仕事を任される人になる近道かもしれません。子育てで何でも先回りして与えすぎないことにも通じます。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
勤倹飽暖饑寒修身鍛錬
関連する章句
-
『養生訓』巻第八・育幼一小児をそだつるは三分の飢と寒とを存すべし、と古人いへり。いふ意は、小児は、少し飢やし、少しひやすべしとなり。小児にかぎらず、大人も亦かくの如くすべし。小児に、味よき食に飽かしめ、きぬ多く著せてあたため過すは、大にわざはひとなる。俗人と婦人は、理にくらくして、子を養ふ道を知らず、只あくまでうまき物を食せ、きぬあつく著せてあたため過すゆゑ、必ず病多く、或は命短し。貧家の子は衣食ともしき故、無病にしていのち長し。
-
『囲炉夜話』第二十四則・衣祿は原より定數有り富貴は禍端を生じ易し、必ず忠厚謙恭にして、才に大患無し。 衣祿は原より定數有り、必ず節儉簡省にして、乃ち久しく延ぶべし。
-
『囲炉夜話』第百六則・清貧は乃ち讀書人の順境なり清貧は、乃ち讀書人の順境なり。節儉は、即ち種田人の豐年なり。
-
『囲炉夜話』第百二十三則・紛華に染まらずして傑出の人と稱す粗糲を能く甘んずるは、必ず是れ有爲の士なり。紛華に染まらずして、方に傑出の人と稱す。
-
『囲炉夜話』第百五十二則・天未だ嘗て我に負かず身饑寒せざれば、天未だ嘗て我に負かず。學に長進無くんば、我何を以てか天に對へん。
-
『囲炉夜話』第百二則・知足の心は以て書を讀むべからず備はるを求むるの心は、之を用ひて以て身を修むべく、之を用ひて以て物に接すべからず。 足るを知るの心は、之を用ひて以て境に處すべく、之を用ひて以て書を讀むべからず。