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抱朴子外篇 / 仁明

「夫心不違仁而明不經國,危亡之禍,無以杜遏,亦可知矣。夫料盛衰於未兆,探機事於無形,指倚伏於理外,距浸潤於根生者,明之功也。垂惻隱於昆蟲,雖見犯而不校,睹觳觫而改牲,避行葦而不蹈者,仁之事也。爾則明者才也,行者行也。殺身成仁之行可力為,而至鑒玄測幽之明難亡假。精粗之分,居然殊矣。夫體不忍之仁,無臧否之明,則心惑偽真,神亂朱紫,思算不分,邪正不識。不遠安危,則一身之不保,何暇立以濟物乎!昔姬公非無友於之愛,而涕泣以滅親;石石昔非無天性之慈,而割私以奉公。蓋明見事體,不溺近情,遂為純臣。以義斷恩,舍仁用明,以計抑仁,仁可時廢而明不可無也。湯武逆取順守,誠不仁也。應天革命,以其明也。徐偃修仁以朝同班,外墜城池之險,內無戈甲之備,亡國破家,不明之禍也。」

新字:「夫心不違仁而明不経国,危亡之禍,無以杜遏,亦可知矣。夫料盛衰於未兆,探機事於無形,指倚伏於理外,距浸潤於根生者,明之功也。垂惻隠於昆虫,雖見犯而不校,睹觳觫而改牲,避行葦而不蹈者,仁之事也。爾則明者才也,行者行也。殺身成仁之行可力為,而至鑒玄測幽之明難亡仮。精粗之分,居然殊矣。夫体不忍之仁,無臧否之明,則心惑偽真,神乱朱紫,思算不分,邪正不識。不遠安危,則一身之不保,何暇立以済物乎!昔姫公非無友於之愛,而涕泣以滅親;石石昔非無天性之慈,而割私以奉公。蓋明見事体,不溺近情,遂為純臣。以義断恩,舎仁用明,以計抑仁,仁可時廃而明不可無也。湯武逆取順守,誠不仁也。応天革命,以其明也。徐偃修仁以朝同班,外墜城池之険,内無戈甲之備,亡国破家,不明之禍也。」

書き下し

「夫れ心は仁に違わずして明は国を経めざれば、危亡の禍、以て杜ぎ遏むる無きこと、亦た知る可し。夫れ盛衰を未だ兆さざるに料り、機事を無形に探り、倚伏を理の外に指し、浸潤を根の生ずるに距ぐ者は、明の功なり。惻隠を昆蟲に垂れ、犯さるるを見るも校べず、觳觫を睹て牲を改め、行葦を避けて蹈まざる者は、仁の事なり。爾らば則ち明なる者は才なり、行なる者は行なり。身を殺して仁を成すの行は力めて為す可きも、玄を鑒し幽を測るの明に至りては、假る亡きこと難し。精粗の分、居然として殊なれり。夫れ不忍の仁を体して、臧否の明無ければ、則ち心は偽真に惑い、神は朱紫を乱し、思算は分かたず、邪正は識らず。安危を遠くせざれば、則ち一身すら之れ保たず、何の暇ありて立ちて以て物を済わんや。昔、姬公は友于の愛無きに非ざるも、涕泣して以て親を滅し、石石昔は天性の慈無きに非ざるも、私を割きて以て公に奉ず。蓋し明は事体を見て、近情に溺れず、遂に純臣と為る。義を以て恩を断ち、仁を舍てて明を用い、計を以て仁を抑う。仁は時に廃す可きも明は無かる可からず。湯武は逆取順守、誠に不仁なり。天に応じ命を革むるは、其の明を以てなり。徐偃は仁を修めて以て同班を朝せしめ、外は城池の険を墜し、内は戈甲の備え無く、国を亡ぼし家を破りしは、不明の禍なり。」

現代語訳

「心は仁に背かなくても、明が国を治めるまでに及ばなければ、危亡の禍を防ぎ止める手立てがないことは、容易に分かる。盛衰をまだ兆さないうちに見積もり、物事の機微を形のないうちに探り、禍福のもたれ合いを理の外に指し示し、じわじわと染みる害を根の生ずる段階で防ぐのは、明の功である。昆虫にまで惻隠の情を垂れ、犯されても争わず、怯えて震える牛を見て生贄を羊に改め、道ばたの葦を避けて踏まないというのは、仁の事である。そうであれば、明は才であり、仁は行いである。身を殺して仁を成すという行いは努力すれば為しうるが、玄妙を見抜き幽微を測る明となると、借りて補うことが難しい。精と粗の違いは、はっきりと異なっている。そもそも忍びない仁を身に備えていても、善悪を見分ける明がなければ、心は偽と真に惑い、精神は朱と紫を取り違え、思案も見積もりも分かれず、邪と正も見分けられない。安全と危険を遠ざけられなければ、わが身一つすら守れず、どうして立って人を救うゆとりがあろうか。昔、周公には兄弟への愛がなかったのではないが、涙を流して肉親を滅ぼした。石碏(原文は『石石昔』と乱れている)には生まれつきの慈愛がなかったのではないが、私情を断って公に仕えた。つまり明は事の本体を見て、身近な情に溺れず、ついに純粋な臣となる。義によって恩を断ち、仁を捨てて明を用い、計によって仁を抑えるのである。仁は時に廃してもよいが、明は無くてはならない。湯王と武王は道に逆らって天下を取り、道に従って守ったのだから、確かに不仁である。それでも天に応じ命を革めたのは、その明によってである。徐偃は仁を修めて同列の諸侯を朝せしめたが、外は城池の険を崩し、内は武具の備えがなく、国を滅ぼし家を破った。これは明を欠いた禍である。」

解説

仁だけでは国も組織も守れない、という論の続きです。明の働きを「盛衰を未だ兆さざるに料り」と言い、仁の働きは虫に情けをかけ、怯える牛を見て生贄を替えるほどの人情だと並べます。そのうえで「仁は時に廃す可きも明は無かる可からず」と言い切る。人情の厚い管理職ほど、部下を庇って判断を曇らせる場面があります。情と目利きを別の働きと見て、どちらが欠けても組織は危うくなるという指摘は、人事の場で効きます。

この章句が説くこと

盛衰を未だ兆さざるに料り仁は時に廃す可きも明は無かる可からず義を以て恩を断ち国を亡ぼし家を破りし情見極め

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