秘本玉くしげ / 下 根本の心がけ
これらの子細は、通例の學者、又神道者なども夢にもしらざる事にて、世間共に大に料簡違ある事也。惣じて世間の人のよき料簡と思ふは、みな唐流の理屈なる故に、其中にはまことの道理にかなはざる事も多し。領主たる御方並に役人中なども、國のためを思ひて、災害おこらず凶事無く、上下共に安全に榮えて長久ならんことを願ひ玉はば、これらの根本の所の心がけ大切なるべき御事にこそ。
新字:これらの子細は、通例の学者、又神道者なども夢にもしらざる事にて、世間共に大に料簡違ある事也。惣じて世間の人のよき料簡と思ふは、みな唐流の理屈なる故に、其中にはまことの道理にかなはざる事も多し。領主たる御方並に役人中なども、国のためを思ひて、災害おこらず凶事無く、上下共に安全に栄えて長久ならんことを願ひ玉はば、これらの根本の所の心がけ大切なるべき御事にこそ。
書き下し
これらの子細は、通例の学者、又神道者なども夢にもしらざる事にて、世間共に大に料簡違ある事也。惣じて世間の人のよき料簡と思ふは、みな唐流の理屈なる故に、其中にはまことの道理にかなはざる事も多し。領主たる御方並に役人中なども、国のためを思ひて、災害おこらず凶事無く、上下共に安全に栄えて長久ならんことを願ひ玉はば、これらの根本の所の心がけ大切なるべき御事にこそ。
現代語訳
これらの子細は、通例の学者や、また神道者なども夢にも知らない事であって、世間ともに大いに料簡違いのある事である。総じて世間の人がよい料簡と思うのは、みな唐流の理屈であるために、その中にはまことの道理にかなわない事も多い。領主である御方ならびに役人衆なども、国のためを思って、災害が起こらず凶事がなく、上下ともに安全に栄えて長久であることを願われるならば、これらの根本の所の心がけが大切であろう御事である。
解説
この章句が説くこと
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『秘本玉くしげ』下 神事は削らず然るを世に倹約といへば、まづ第一に此神事或は先祖の祭より省略せんとするは、いかにぞや。抑今世上一同に次第次第に華美になり、奢長じたることなれば、それに准じて神事をも次第に華美に丁寧にすべきは、あたりまへ也。己が身分のみ奢をまして、神を祭る事をばまさずしては、いかが也。たとひ身分の事をば昔にかへして万を省略すとも、神事のみは次第に加へまさんこそ本意ならめ。
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『秘本玉くしげ』上 聖人の道の根本そのわけは別巻に委くいへるが如し。さて又、唐土の治めかたにては、此方にてはいよいよ道にかなひがたきわけあり。かやうにいはば、儒者の心には却てをかしく思ひて、「天地は一枚にて、人情はいづくもいづくも同じければ、唐土日本とて道に二つはなく、治めかたの根本にかはりはなき事也。殊に唐土は聖人の国なれば、其道をおきて外に身を治め国を治むべき道はあることなし。聖人の道をおきて外に道をいふものはみな異端にして正道にあらず」と儒者はいふべし。然れども是は一通り誰も皆いふ事にてめづらしからず。なほそのうへを今一段高く考へて、かの聖人の道はなほ根本の所にたがひ有て、まことの道にかなはざるところある事を探り求むべき也。うはべの議論の美しきに惑ひて、彼道になづむべきにあらず。殊に本朝は異国とは格別のしなあれば、別して国政を行ふに、道の根本をしらずばあるべからず。これらのわけも委しく別巻にあり。
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『秘本玉くしげ』下 時世の勢すべて世中の事は、何事もよきもあしきも時世の勢によるものにて、いかほど悪きを除かんとすれども、いかほど善事を行はんとすれども、極意のところは人力には及びがたきものなれば、しひて急にこれを行はんとすべからず。ただつねづね善事はそのかたのくづれぬやうに、止ぬやうにはからひ、悪き事は少少づつも消するやうに、長ぜぬやうにと心がけ、さて又新規に始めんとする事は、よくよく考へて、人人の料簡をもきき、他国の例などをも聞合せ、諸人の帰服するかせぬかをよく勘へて行ふべし。
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『秘本玉くしげ』上 料簡の四段凡て天下を治め、一国一郡を治むる政道、大小のことにつきて其善悪利害の料簡を立るに、まづ学問せざる人の料簡は、多くはただ今日眼前の手近き事のうへばかりにつきて工夫をめぐらして、根本の所には心のつがぬ事おほし。たとひ又其本の所へ心はつきても、その工夫の至らざること多し。殊に近来の世の風儀は、ただ眼前の損得の事のみを計りて、根本の所を思ひていふ料簡をば、今日の用にたたず、まはり遠き事にしてとりあはぬならひとなれる。これ大なるひがこと也。今日眼前の利益を思はば、まづ其根本より正さずばあるべからず。本を正さずしては、いかやうに工夫をめぐらしてよき料簡を立るといへ共、諺にいはゆる飯上の蠅をおふといふものにて、末とぐることなく皆いたづら事となり、或はついに大害を引出ることもあるもの也。然れば、さしあたりてはまはりどほく迂遠なるやうなりとも、とにかくに根本の所に眼をつけて諸事の料簡を立べき也。
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『秘本玉くしげ』上 迂遠を侮るな然れ共、万の事まことの道理にそむきては、いかほど尤に聞ゆるとも、これを行ひ見る時にその思ひし如くには行れぬものにて、かへりて傷害ある事もあり。又当分は利益あるやうにても、必末とほりがたきもの也。又根本の道理によりておこなふときは、まはり遠き如く却て思ひの外に速に其験ありてよく行はるゝ事も有、或は当分はそのしるしみえざれども、つひにその験あらはれて永久に行はれ、或は目に見えてはしるしなきやうにても、目に見えぬ所に大なる益ある事などもあるなり。されば、打聞たるところ迂遠なればとてこれを取らざるは、かしこきやうなれ共、却て愚なること也。かへすがへすも道の大本の所を土台として、末末の細事までもこれに背かざるやうを詮として、何事をもとり行ふべきことなり。
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『秘本玉くしげ』下 神事は楽しく又、神事に風流俳優などをなし、或は酒を飮み楽み遊ぶを無益の事と思ふも、大にひがこと也。神に物を供して祭るのみならず、人も同じく飮食し、面白くにぎはしく楽しみ遊ぶを、神は悅び玉ふこと也。
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