兵法家伝書 / 殺人刀大拍子・小拍子
一 大拍子小拍子、小拍子大拍子之事 敵が大拍子にかまへて、太刀をつかはゞ、我は小拍子につかふべし、敵小拍子ならば、我は大拍子に遣ふべし、是も敵と拍子をあわせぬ様につかふ心得也、拍子がのれば敵の太刀が遣ひよく成る也、たとへば上手のうたひはのらずして、あいをゆく程に、下手鼓はうちかぬる也、上手の謠に下手鼓、上手の鼓に下手うたひの様に謠ひにくゝ打にくき様に敵に仕かくるを、大拍子・小拍子、小拍子・大拍子と云也、下手の謠は大拍子にながし、上手の鼓が小拍子にかるくうたんとすれども、うたれざる也、又上手のうたひがかるくうたへば、下手鼓がおくれて得うたざる也、上手の鳥さしは、さほを鳥に見せて、むかふから竿をぶら〱とゆぶりもつて、つる〱とよつてさす也、鳥が竿のぶら〱する拍子にとられて、ふるひ〱たゝん〱として、得たゝずしてさゝるゝなり、敵と拍子ちがふやうにすべき也、拍子が違へば溝もとばれずふみこむ者也、箇様の心持まで吟味すべきなり
新字:一 大拍子小拍子、小拍子大拍子之事 敵が大拍子にかまへて、太刀をつかはゞ、我は小拍子につかふべし、敵小拍子ならば、我は大拍子に遣ふべし、是も敵と拍子をあわせぬ様につかふ心得也、拍子がのれば敵の太刀が遣ひよく成る也、たとへば上手のうたひはのらずして、あいをゆく程に、下手鼓はうちかぬる也、上手の謡に下手鼓、上手の鼓に下手うたひの様に謡ひにくゝ打にくき様に敵に仕かくるを、大拍子・小拍子、小拍子・大拍子と云也、下手の謡は大拍子にながし、上手の鼓が小拍子にかるくうたんとすれども、うたれざる也、又上手のうたひがかるくうたへば、下手鼓がおくれて得うたざる也、上手の鳥さしは、さほを鳥に見せて、むかふから竿をぶら〱とゆぶりもつて、つる〱とよつてさす也、鳥が竿のぶら〱する拍子にとられて、ふるひ〱たゝん〱として、得たゝずしてさゝるゝなり、敵と拍子ちがふやうにすべき也、拍子が違へば溝もとばれずふみこむ者也、箇様の心持まで吟味すべきなり
書き下し
一 大拍子小拍子、小拍子大拍子之事 敵が大拍子にかまへて、太刀をつかはゞ、我は小拍子につかふべし、敵小拍子ならば、我は大拍子に遣ふべし、是も敵と拍子をあわせぬ様につかふ心得也、拍子がのれば敵の太刀が遣ひよく成る也、たとへば上手のうたひはのらずして、あいをゆく程に、下手鼓はうちかぬる也、上手の謠に下手鼓、上手の鼓に下手うたひの様に謠ひにくゝ打にくき様に敵に仕かくるを、大拍子・小拍子、小拍子・大拍子と云也、下手の謠は大拍子にながし、上手の鼓が小拍子にかるくうたんとすれども、うたれざる也、又上手のうたひがかるくうたへば、下手鼓がおくれて得うたざる也、上手の鳥さしは、さほを鳥に見せて、むかふから竿をぶら〱とゆぶりもつて、つる〱とよつてさす也、鳥が竿のぶら〱する拍子にとられて、ふるひ〱たゝん〱として、得たゝずしてさゝるゝなり、敵と拍子ちがふやうにすべき也、拍子が違へば溝もとばれずふみこむ者也、箇様の心持まで吟味すべきなり
現代語訳
大拍子・小拍子、小拍子・大拍子のこと。敵が大拍子に構えて太刀を使うなら、我は小拍子に使うのがよいのです。敵が小拍子ならば、我は大拍子に使います。これも敵と拍子を合わせないように使う心得です。拍子に乗れば、敵の太刀が使いやすくなるのです。たとえば、上手の謡は拍子に乗らず、間を行くので、下手な鼓は打ちかねるものです。上手の謡に下手な鼓、上手の鼓に下手な謡のように、謡いにくく打ちにくいように敵に仕掛けることを、大拍子・小拍子、小拍子・大拍子と言います。下手の謡は大拍子で長く、上手の鼓が小拍子で軽く打とうとしても、打てません。また、上手の謡が軽く謡えば、下手な鼓は遅れて打てないのです。上手な鳥刺しは、竿を鳥に見せて、向こうから竿をぶらぶらと揺すりながら、するすると寄って刺します。鳥は竿がぶらぶらする拍子に取られて、震え震え立とう立とうとして、立てずに刺されるのです。敵と拍子が違うようにするべきです。拍子が違えば、溝も飛べず踏み込んでしまうものです。このような心持ちまで吟味すべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『兵法家伝書』殺人刀「三拍子」一 三拍子之事 相打一ッ上れば、つけて打、一ッさぐれば越シて打一也、あふ拍子はあしゝ、あわぬ拍子をよしとす、拍子にあへば、敵の太刀遣ひよく成る也、拍子ちがへばつかわれぬ也、敵の太刀のつかひにくき様に打べし、つくるもこすも無拍子にうつべし、惣別乗拍子は惡也
-
『兵法家伝書』殺人刀「章哥の心付」一 章哥の心付之事 まひもうたひも、しやうがしらずしては、はやされまい事也、兵法にも章哥の心持あるべき也、敵の太刀のうごき如何様にあるぞ、何としたるさばきぞと、とくと見すへて、そこをしるが、舞うたひの章哥よく覺えたる心なるべし、敵のはたらき、振舞よくしりたらば、こちの仕かけ自由なるべし
-
五輪書・地の巻物毎に付き拍子は有るものなれども、とりわけ兵法の拍子、鍛錬なくては及びがたき所なり。世の中の拍子あらはれて有る事、乱舞の道、れい人(伶人)管絃の拍子など、是れ皆能く合ふ所のろくなる拍子なり。武芸の道にわたりて、弓を射、鉄砲を放ち、馬に乗る事迄も、拍子・調子は有り。諸芸諸能に至りても、拍子をそむく事は有るべからず。又空なる事に於ても拍子は有り。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子・しさぐる拍子、筈のあふ・筈のちがふ拍子有り。或は商の道、分限になる拍子・分限にても其のたゆる拍子、道々に付けて拍子の相違有る事なり。物毎のさかゆる拍子・おとろふる拍子、能々(よくよく)分別すべし。兵法の拍子に於て様々有る事なり。先(ま)づあふ拍子を知つて、ちがふ拍子を弁へ、大小・遅速の拍子の中にも、あたる拍子を知り、間(ま)の拍子を知り、背く拍子を知る事、兵法の専(せん)なり。此の背く拍子、弁へ得ずしては、兵法たしかならざる事なり。兵法の戦に、其の敵其の敵の拍子を知り、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子を智恵の拍子より発して勝つ所なり。何れの巻にも、拍子の事を専ら書き記すなり。其の書付の吟味をして、能々鍛錬すべきものなり。
-
『兵法家伝書』殺人刀「遠近の拍子・身位栴檀」一 遠近の拍子 一 身位栴檀之心持之事 右二ヶ條は太刀の上と身がまへ也
-
『兵法家伝書』殺人刀「打にうたれよ」一 打にうたれよ、うたれて勝ッ心持之事 人を一刀きる事はやすし、人にきられぬ事は成がたき物也、人はきるとおもふて打つけふともまゝよ、身にあたらぬつもりを、とくと合點して、おどろかず、敵にうたるゝ也、敵はあたると思ふてうてども、つもりあれば、あたらぬ也、あたらぬ太刀は死太刀也、そこをこちから越シて打て勝也、敵のする先ははづれて、我返て先の太刀を敵へ入ル也、一太刀打てからは、はや手はあけさせぬ也、打てよりまうかうよとおもふたらば、二の太刀は又敵にかならずうたるべし、爰にて、油斷して負る也、うつた所に心がとまる故、敵にうたれ、先の太刀を、無にする也、打たる所にきれうときれまいとまゝ、心をとゞむな、二重三重猶四重五重も打べき也、敵に顏を揚させぬ也、勝事は一太刀にて定る也
-
五輪書・水の巻敵を打つ拍子に、一拍子(ひとつびやうし)と云ひて、敵・我あたるほどの位を得て、敵のわきまへぬうちを心に得て、其の身も動かさず、心も付けず、如何にも早く直(す)ぐに打つ拍子なり。敵の太刀、ひかん・はづさん・打たんと思ふ心のなき内を打つ拍子、是れ一拍子なり。此の拍子、能(よ)く習ひ得て、間(ま)の拍子を早く打つ事、鍛錬すべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る