葉隠 / 聞書第十一
戰場で敵の強弱の見樣、俯向いた敵は強く仰向いた敵は弱い。夏目舎人物語の事。出陣には米を袋に入れて持つべし。肌着はむじなの皮にすべし。虫出來ぬものなり。長陣には虫出來て難儀するものなり。槍合はせの時敵の強弱見様、うつむきて懸かるは黑く見え、強きなり。あふのきて懸かるは白く見え、弱きなり。
新字:戦場で敵の強弱の見様、俯向いた敵は強く仰向いた敵は弱い。夏目舎人物語の事。出陣には米を袋に入れて持つべし。肌着はむじなの皮にすべし。虫出来ぬものなり。長陣には虫出来て難儀するものなり。槍合はせの時敵の強弱見様、うつむきて懸かるは黒く見え、強きなり。あふのきて懸かるは白く見え、弱きなり。
書き下し
戦場で敵の強弱の見様(みよう)、俯(うつむ)いた敵は強く仰向(あおむ)いた敵は弱い。夏目舎人(なつめとねり)物語の事。出陣には米を袋に入れて持つべし。肌着はむじなの皮にすべし。虫出来(いでき)ぬものなり。長陣(ながじん)には虫出来て難儀(なんぎ)するものなり。槍合(やりあわ)せの時敵の強弱見様、うつむきて懸かるは黒く見え、強きなり。あふのきて懸かるは白く見え、弱きなり。
現代語訳
戦場で敵の強弱を見分ける方法について。うつむいて向かってくる敵は強く、仰向いてくる敵は弱い。夏目舎人(なつめとねり)の物語である。出陣の際には米を袋に入れて携えるとよい。肌着はむじなの皮にするとよい。虫がわかないからだ。長陣になると虫がわいて難儀するものである。槍を合わせるとき、敵の強弱の見分け方は、うつむいて懸かってくる者は黒く見えて強く、仰向いて懸かってくる者は白く見えて弱いのだ。
解説
実戦の経験から得た、敵の見分け方と陣中の生活術を伝える一条です。うつむいて向かってくる敵は覚悟が据わって強く、仰向いた敵は気が浮いて弱い、という観察は、姿勢に人の心の据わり具合が表れるという鋭い洞察です。また長陣では肌着に虫がわいて苦しむため、むじなの皮を用いるとよいといった、生き延びるための具体的な知恵も添えられています。武功とは勇気だけでなく、細やかな観察と備えの積み重ねであることが分かります。相手の姿勢や様子からその内心を読み取る目は、現代の対人の場面にも通じる示唆を含んでいます。
この章句が説くこと
葉隠戦場敵の見分け方観察力姿勢長陣
関連する章句
-
孫子・虚実篇孫子曰:凡先處戰地而待敵者佚,後處戰地而趨戰者勞。
-
孟子・公孫丑章句上孟子曰、仁則榮、不仁則辱。今惡辱而居不仁、是猶惡濕而居下也。如惡之、莫如貴德而尊士。賢者在位、能者在職、國家閒暇。及是時明其政刑、雖大國、必畏之矣。詩云、迨天之未陰雨、徹彼桑土、綢繆牖戶。今此下民、或敢侮予。孔子曰、為此詩者、其知道乎。能治其國家、誰敢侮之。今國家閒暇。及是時般樂怠敖、是自求禍也。禍ᐻ無不自己求之者。詩云、永言配命、自求多ᐻ。太甲曰、天作孼猶可違。自作孼不可活。此之謂也。
-
葉隠・聞書第一前方に極め置くが覺の士、穿鑿せぬは不覺の士なり。覺の士といふは、事に逢うて仕たる樣に、前方に、それぐの仕樣を吟味し置きて、その時に出合ひ、仕果する者なり。不覺の士といふは、その時に至つて前方穿鑿せぬは、不覺の士と申し候。
-
孫子・虚実篇出其所不趨,趨其所不意。
-
孫子・始計篇攻其無備,出其不意。
-
葉隠・聞書第二武士は草鞋を作り習へ、一里外へは一人一升の兵糧を持て前神右衛門は沓草鞋作り候事上手にて候。組被官抱へ候時も、「草鞋作り候や、この細工成らざる者は足もたずなり。」と申し候。又一里外へは、一人一升の兵糧を袋に入れ、附けさせ候。それ故、淺黃木綿の袋數多作り置き候。まづ、一升宛さへあれば、その内に才覺成り申し候。太閤様名護屋御下向の時、朱鞘の御大小に、又家康公の御家中の騎馬を太閤様へ御目に懸けられ候由。軍中にて第一の用意なり。今にても第一の用意なり。足半を御懸け候て、成瀬小吉紅の沓を鞘にかけ候時、上下の數萬人の用に立ち候に付て、咎草鞋一束もあるまじく候。されば、兼て心にかけ用意ある人の用に立ち候。尤も作り習ひ候はで叶はざる儀なり。芝原、山道、川中などにて、草鞋はすべき事なり。足半よく候となり。