葉隠 / 聞書第二
德ある人は、胸中にゆるりとしたる所がありて、物毎せはしきことなし。小人は、靜かなる所なく、當り合ひ候て、がたつき廻り候なり。
新字:徳ある人は、胸中にゆるりとしたる所がありて、物毎せはしきことなし。小人は、静かなる所なく、当り合ひ候て、がたつき廻り候なり。
書き下し
徳ある人は、胸中にゆるりとしたる所がありて、物毎(ものごと)せわしきことなし。小人は、静かなる所なく、当り合(あ)い候て、がたつき廻り候なり。
現代語訳
徳のある人は、胸のうちにゆったりと落ち着いた所があって、何事にもせかせかしたところがない。それに対して器の小さい人は、心に静かな落ち着きがなく、あちこちにぶつかり合っては、そわそわと落ち着きなく動き回るものである。
解説
人物の器を「心のゆとり」で見分ける一条です。徳のある人は胸中にゆったりとした余裕があり、何事にも慌てず騒がず落ち着いている。一方、器の小さい人は心に静かな拠り所がないため、周囲とぶつかり、いつもそわそわと動き回る、と対比します。落ち着きは能力や修養の深さの表れであり、余裕は人を安心させ信頼を集めます。逆に、忙しなさや落ち着きのなさは内面の未熟さを露呈してしまう、というわけです。現代でも、本当に力のある人ほど泰然としているもの。心のゆとりをどう養うかは、人としての成熟を考える上で今なお大切なテーマだと気づかせてくれます。
この章句が説くこと
葉隠徳心のゆとり小人落ち着き泰然
関連する章句
-
呂氏春秋・精通③德なる者は、萬民の宰なり。月なる者は、群陰の本なり。月望なれば則ち蚌蛤實ち、群陰盈つ。月晦なれば則ち蚌蛤虚しく、群陰虧く。夫れ月、天に形われて、群陰、淵に化す。聖人、德を己に行いて、四方咸仁に飭し。
-
論語・衛霊公篇子曰く、由、徳を知る者は鮮なし。
-
論語・為政篇子曰く、之を道びくに政を以てし、之を斉(ととの)うるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を道びくに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば、恥有り且つ格(いた)る。
-
論語・憲問篇南宮适、孔子に問いて曰く、「羿は射を善くし、奡は舟を盪かす。倶に其の死を得ざりき。禹・稷は躬ら稼して天下を有てり。」夫子答えず。南宮适出づ。子曰く、「君子なるかな若き人。徳を尚ぶかな若き人。」
-
論語・為政篇子曰く、政を為すに徳を以てすれば、譬えば北辰其の所に居て衆星之に共(むか)うが如し。
-
孫子・始計篇将とは、智・信・仁・勇・厳なり。