葉隠 / 聞書第二
氣を附け申すべきなり。世上當時の差合ひになりさうなる事を言はぬものなり。何かと、むつかしき事などとれある時は、皆人浮き立つて覺え知らずに、その事のみ沙汰する事あり。無用の事なり。わろくすれば、口引張りになるか、さなくても、口故に入らざる事に敵を持ち、遺恨出來るなり。左樣の時は他出を止め、歌など案じて居たるがよく候由。
新字:気を附け申すべきなり。世上当時の差合ひになりさうなる事を言はぬものなり。何かと、むつかしき事などとれある時は、皆人浮き立つて覚え知らずに、その事のみ沙汰する事あり。無用の事なり。わろくすれば、口引張りになるか、さなくても、口故に入らざる事に敵を持ち、遺恨出来るなり。左様の時は他出を止め、歌など案じて居たるがよく候由。
書き下し
気を附け申すべきなり。世上当時(とうじ)の差合(さしあ)いになりそうなる事を言わぬものなり。何かと、むつかしき事などこれある時は、皆人(みなひと)浮き立ちて覚え知らずに、その事のみ沙汰(さた)する事あり。無用の事なり。わろくすれば、口引張(くちひっぱ)りになるか、さなくても、口故に入らざる事に敵を持ち、遺恨出来るなり。左様(さよう)の時は他出(たしゅつ)を止め、歌など案じて居たるがよく候由。
現代語訳
世間の噂話でも言葉遣いを慎め、口が原因で敵を作り遺恨が生じることもある。気をつけるべきだ。世間で今まさに差し障りになりそうなことは口にしないものだ。何かと厄介な事件などがあると、人々は浮き立って、われ知らずその話ばかりを取り沙汰する。無用のことだ。まずければ言い争いになるか、そうでなくても、口が原因で無関係なことにまで敵を作り、遺恨が生じる。そういうときは外出をやめ、歌でも案じておくのがよい、というのである。
解説
世間の噂話にこそ言葉を慎め、軽い一言が思わぬ敵や遺恨を生む、という戒めです。厄介な事件があると人は浮き足立って、つい皆でその話ばかりしてしまう。しかしそれは無用のことで、言い争いに発展したり、無関係な人にまで恨みを買ったりする。だから世情が騒がしいときは、いっそ外出を控えて歌でも詠んで静かにしているのがよい、と説きます。口は災いの元、という普遍の教えを、集団心理への冷静な観察とともに語っています。現代でも、話題の事件やゴシップに軽々しく乗って発言すると、思わぬ反感や対立を招きます。周囲が沸き立つときほど一歩引いて口を慎む、という距離の取り方が身を守る、という実践的な知恵です。
この章句が説くこと
葉隠口は災いの元噂話言葉を慎む遺恨集団心理
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