葉隠 / 聞書第二
大難大變の時も一言なり。仕合せよき時も一言なり。當座の挨拶話の内も一言なり。工夫して云ふべき事なり。確に覺えあり。精氣を盡し、兼々心がくべき事なり。これは、めつたに話しにくき事なり。皆心の仕事なり。心に覺えたる人ならではの知るまじとなり。
新字:大難大変の時も一言なり。仕合せよき時も一言なり。当座の挨拶話の内も一言なり。工夫して云ふべき事なり。確に覚えあり。精気を尽し、兼々心がくべき事なり。これは、めつたに話しにくき事なり。皆心の仕事なり。心に覚えたる人ならではの知るまじとなり。
書き下し
大難大変(だいなんだいへん)の時も一言なり。仕合(しあわ)せよき時も一言なり。当座(とうざ)の挨拶話(あいさつばなし)の内も一言なり。工夫して言うべき事なり。確(たしか)に覚えあり。精気(せいき)を尽し、兼々(かねがね)心がくべき事なり。これは、めったに話しにくき事なり。皆心の仕事なり。心に覚えたる人ならではの知るまじとなり。
現代語訳
大きな困難や事変のときも一言だ。幸運に恵まれたときも一言だ。ふだんの挨拶や世間話のなかでも一言だ。よくよく工夫して言うべきことである。私には確かにその覚えがある。精魂を尽くし、日ごろから心がけておくべきことだ。これは、めったに口では説明しにくいことである。すべては心の働きによるものだ。心に体得した人でなければ、とうてい分からないだろう。
解説
非常時も、幸運のときも、何気ない会話でも——ものを言うときは常に「たった一言」に工夫を凝らせ、と説く言葉の心得です。常朝は、その場に応じた一言の重みを、精魂を傾けて日ごろから磨くべきものだと言います。しかもこれは理屈で教えられるものではなく、心で会得するほかない「心の仕事」だと。危機の一言が人を動かし、順境の一言が慢心を戒め、日常の一言が信頼を築く。言葉は多さではなく、選び抜かれた一語にこそ力が宿る、という洞察です。現代でも、要点を突いた一言は饒舌よりずっと相手に届きます。場を見極め、精魂を込めて言葉を選ぶ習慣を、日々養っておくこと。言葉の質を磨く大切さを教える一条です。
この章句が説くこと
葉隠一言言葉の工夫精気を尽くす心の仕事場を読む
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