葉隠 / 聞書第二
挨拶は一座を見計つて人の氣に障らぬ様に、國家の事は勇猛に、我が心浮いて實なく、脇よりも左様に見ゆるなり。その後にて實儀なる事を見合せ話すべし。我が心に實が出來るなり。輕い挨拶をする時も、一座を見計りて人の氣に障らざるやう、少し案じてより申すべきなり。又武道の方御國家の事に難を申す衆候はゞ、愛想盡かして、したゝかに申すべし。兼て覺悟仕るべきの由。
新字:挨拶は一座を見計つて人の気に障らぬ様に、国家の事は勇猛に、我が心浮いて実なく、脇よりも左様に見ゆるなり。その後にて実儀なる事を見合せ話すべし。我が心に実が出来るなり。軽い挨拶をする時も、一座を見計りて人の気に障らざるやう、少し案じてより申すべきなり。又武道の方御国家の事に難を申す衆候はゞ、愛想尽かして、したゝかに申すべし。兼て覚悟仕るべきの由。
書き下し
挨拶は一座(いちざ)を見計(みはか)らって人の気に障(さわ)らぬ様に、国家の事は勇猛に。我が心浮いて実(じつ)なく、脇(わき)よりも左様(さよう)に見ゆるなり。その後にて実儀(じつぎ)なる事を見合(みあわ)せ話すべし。我が心に実が出来るなり。軽い挨拶をする時も、一座を見計りて人の気に障らざるよう、少し案じてより申すべきなり。又武道の方御国家の事に難を申す衆候わば、愛想尽(あいそづ)かして、したたかに申すべし。兼(かね)て覚悟仕るべきの由。
現代語訳
挨拶や世間話は、その場の顔ぶれをよく見計らって、人の気に障らぬようにするのがよい。心が浮ついて誠実さを欠けば、傍からもそのように見えてしまう。軽い話をした後で、折を見て誠実な話をすれば、こちらの心にも真実味が生まれる。軽い挨拶をするときでも、その場を見計らい、人の気に障らぬよう少し考えてから口に出すべきである。ただし、武道や国家の重大事に難癖をつける者がいたなら、愛想を尽かし、断固として厳しく言い返すべきだ。日頃からその覚悟をしておくべきである、と。
解説
対人態度の使い分けを説いた一条です。日常の挨拶や雑談では、その場の空気と相手の気持ちをよく見計らい、角の立たぬよう慎重に振る舞えと教えます。浮ついた物言いは誠実さを欠き、周囲にも見透かされるからです。しかし一方で、武士としての本分である武道や国家の大事が軽んじられる場面では、愛想を尽かしてでも断固として言い返せ、と説きます。つまり、平時の柔らかさと、譲れぬ一線での厳しさを両立させよ、という教えです。普段は協調的でも、原則に関わることでは毅然とする。この硬軟の使い分けは、現代の職場やリーダーの振る舞いにも通じる処世の要諦です。
この章句が説くこと
葉隠対人態度場を読む硬軟の使い分け毅然挨拶
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