葉隠 / 聞書第二
欠伸嚏はすまいと思へば一生せぬ、嗜み事は若い内に書き附けよ欠伸は見苦しきものなり。欠伸、くさめはするまじと思へば一生せぬものなり。氣の拔けたる所にて出るなり。不圖欠伸出で候はゞ、口を隱すべし。くさめは額を押ふると止まるなり。又酒を飲む衆はあれども、酒盛よくする人はなし。公界物なり。氣を附くべき事なり。斯様の事共、奉公人の嗜み、若し内に一々仕附け度き事なりとて、「簡條書百」ばかり出來申し候。伺々詮議して書き附けへとなり。
新字:欠伸嚏はすまいと思へば一生せぬ、嗜み事は若い内に書き附けよ欠伸は見苦しきものなり。欠伸、くさめはするまじと思へば一生せぬものなり。気の抜けたる所にて出るなり。不図欠伸出で候はゞ、口を隠すべし。くさめは額を押ふると止まるなり。又酒を飲む衆はあれども、酒盛よくする人はなし。公界物なり。気を附くべき事なり。斯様の事共、奉公人の嗜み、若し内に一々仕附け度き事なりとて、「簡条書百」ばかり出来申し候。伺々詮議して書き附けへとなり。
書き下し
欠伸(あくび)嚏(くさめ)はすまいと思えば一生せぬ、嗜(たしな)み事は若い内に書き附けよ。欠伸は見苦しきものなり。欠伸、くさめはするまじと思えば一生せぬものなり。気の抜けたる所にて出るなり。不図(ふと)欠伸出で候わば、口を隠すべし。くさめは額を押うると止まるなり。又酒を飲む衆はあれども、酒盛(さかもり)よくする人はなし。公界物(くがいもの)なり。気を附くべき事なり。斯様(かよう)の事ども、奉公人の嗜み、若き内に一々仕附(しつ)けたき事なりとて、「箇条書百」ばかり出来(しゅったい)申し候。伺々(うかがいうかがい)詮議(せんぎ)して書き附けよとなり。
現代語訳
あくびやくしゃみは、すまいと思えば一生しないものだ。作法や身だしなみは若いうちに書きつけて身につけよ。あくびは見苦しいものである。あくびやくしゃみは、すまいと心がければ一生しないものだ。気の抜けたところに出てしまうのだ。ふとあくびが出そうになったら、口を隠すべきだ。くしゃみは額を押さえると止まる。また酒を飲む者は多いが、酒席をうまくこなせる者は少ない。人前での振る舞いである。気をつけるべきことだ。こうした奉公人としての心得は、若いうちに一つ一つ身につけたいものだとして、「箇条書き百か条」ほどを書き上げた。よく吟味しながら書きつけよということだ。