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葉隠 / 聞書第二

「奉公人の禁物は、何事にて候はんや。」と尋ね候へば、大酒 自慢 奢りなるべし。不仕合せの時は氣遣ひなし。ちと仕合せよき時分、此の三箇條あぶなきものなり。人の上を見給へ、やがて乘氣さし、自慢奢りが附きて散々苦しく候。それゆゑ、人は苦を見たるものならでは根性すわらず、若き中には隨分不仕合せなるがよし。不仕合せの時草臥る者は、益に立たざるなりと。

新字:「奉公人の禁物は、何事にて候はんや。」と尋ね候へば、大酒 自慢 奢りなるべし。不仕合せの時は気遣ひなし。ちと仕合せよき時分、此の三箇条あぶなきものなり。人の上を見給へ、やがて乗気さし、自慢奢りが附きて散々苦しく候。それゆゑ、人は苦を見たるものならでは根性すわらず、若き中には随分不仕合せなるがよし。不仕合せの時草臥る者は、益に立たざるなりと。

書き下し

奉公人の禁物(きんもつ)は、何事(なにごと)にて候(そうろ)はんや。」と尋ね候へば、大酒(たいしゅ)・自慢(じまん)・奢(おご)りなるべし。不仕合(ふしあわ)せの時は気遣(きづか)いなし。ちと仕合せよき時分、この三箇条(さんかじょう)あぶなきものなり。人の上を見給(みたま)え、やがて乗気(のりき)さし、自慢・奢りが附(つ)きて散々(さんざん)苦しく候。それゆゑ、人は苦を見たるものならでは根性(こんじょう)すわらず、若き中には随分(ずいぶん)不仕合せなるがよし。不仕合せの時草臥(くたび)るる者は、益に立たざるなりと。

現代語訳

「奉公人が最も慎むべきものは何か」と尋ねたところ、大酒・自慢・奢りだという答えであった。不遇なときには、そうした心配はいらない。少し境遇がよくなった頃合いに、この三つが危うい。他人の身の上をよく見てみるがよい。やがて調子に乗って、自慢や奢りが身についてしまい、さんざんに苦しむことになる。だからこそ、人は苦労を経験した者でなければ根性が据わらない。若いうちはむしろ大いに不遇であるほうがよい。不遇なときにへたりこんでしまうような者は、役に立たないのである。

解説

順境こそ危うい、と説く一条です。人が身を持ち崩すのは、不遇のどん底ではなく、少し運が向いてきたときだと常朝は見抜きます。大酒・自慢・奢り——この三つは、余裕が生まれた途端に忍び寄る油断の形です。だからこそ、若いうちの苦労は根性を据える貴重な訓練になる。逆に、苦しいときにすぐへたりこむ者は、いざというときに頼りにならない、というのです。武士道では逆境を人格の鍛錬の場と捉えました。現代でも、順調なときほど慢心を戒め、若い頃の困難を成長の糧と受けとめる姿勢は、仕事にも人生にも通じる示唆でしょう。

この章句が説くこと

葉隠苦労根性順境の油断自慢と奢り逆境の鍛錬

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