葉隠 / 聞書第二
出し拔きに首打落されても、一働きはしかと成る筈に候。義貞の最期證據なり。心かひなく候て、その儘打倒ると相見え候。大野道賢が働きなどは近き事なり。これは何かする事と思ふぞ唯一念なる。武勇の爲、怨靈惡鬼とならんと大惡念を起したらば、首の落ちたるとて、死ぬ筈にてはなし。
新字:出し抜きに首打落されても、一働きはしかと成る筈に候。義貞の最期證拠なり。心かひなく候て、その儘打倒ると相見え候。大野道賢が働きなどは近き事なり。これは何かする事と思ふぞ唯一念なる。武勇の為、怨霊悪鬼とならんと大悪念を起したらば、首の落ちたるとて、死ぬ筈にてはなし。
書き下し
出し抜きに首打ち落とされても、一働きはしかと成る筈に候。義貞の最期証拠なり。心かいなく候て、その儘(まま)打ち倒ると相見え候。大野道賢が働きなどは近き事なり。これは何かする事と思うぞ唯一念(ただいちねん)なる。武勇の為、怨霊悪鬼とならんと大悪念を起こしたらば、首の落ちたるとて、死ぬ筈にてはなし。
現代語訳
不意に首を打ち落とされても、なお一働きはきっとできるはずだ。新田義貞の最期がその証拠である。気力がなければ、そのまま倒れてしまうものと見える。大野道賢の働きなどは近い例だ。これは何かをやり遂げようという、ただ一念があるかどうかである。武勇のためには、怨霊悪鬼にでもなってやろうという凄まじい執念を起こせば、たとえ首が落ちても、それだけで死ぬものではない。
解説
極限の気力・執念を説いた条です。首を打ち落とされてもなお一働きできるはずだ、という常軌を逸した表現の核にあるのは「唯一念」、つまり最後までやり遂げようとする執念の力です。武勇のためなら怨霊悪鬼になろうという「大悪念」を起こせと説くのは、それほどの精神の集中が肉体の限界すら超えるという信念からです。ただしこれは死や凄惨な最期を勇ましく語る条であり、死を辞さぬ執念を美徳とする点で、生命を尊ぶ現代の価値観とは大きく隔たります。文字どおり受け取るべきものではありません。今日の視点からは、逆境で心を折らず最後まで諦めない「一念」の強さを説いた比喩として読むのが適切でしょう。
この章句が説くこと
葉隠執念一念武勇精神力諦めない
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