葉隠 / 聞書第二
端的只今の一念より外はない、「この一念」に忠節備る 端的只今の一念より外はとれなく候。一念々々と重ねて一生なり。此所に覺え附き候。此所の一念を守りて暮すまでなり。皆人、別に有る樣にばかり存じて探促いたし、こゝを見附け候人なきものなり。守り詰めて拔けぬ樣になることは、功を積まねばなるまじく候。されども、一度たづり附き候へば、常住になくても、最早別の物にてはなし。この一念に極り候事を、よく/\合點候へば、事すくなくなる事なり。この一念に忠節備り候なりと。
新字:端的只今の一念より外はない、「この一念」に忠節備る 端的只今の一念より外はとれなく候。一念々々と重ねて一生なり。此所に覺え附き候。此所の一念を守りて暮すまでなり。皆人、別に有る様にばかり存じて探促いたし、こゝを見附け候人なきものなり。守り詰めて抜けぬ様になることは、功を積まねばなるまじく候。されども、一度たづり附き候へば、常住になくても、最早別の物にてはなし。この一念に極り候事を、よく/\合点候へば、事すくなくなる事なり。この一念に忠節備り候なりと。
書き下し
端的(たんてき)只今(ただいま)の一念(いちねん)より外(ほか)はない、「この一念」に忠節備(そな)わる。端的只今の一念より外はとれなく候(そうろう)。一念々々(いちねんいちねん)と重ねて一生なり。此所(ここ)に覚え附(つ)き候。此所の一念を守りて暮すまでなり。皆人(みなひと)、別に有る様にばかり存じて探促(たんそく)いたし、ここを見附(みつ)け候人なきものなり。守り詰めて抜けぬ様になることは、功を積まねばなるまじく候。されども、一度(ひとたび)たどり附き候えば、常住(じょうじゅう)になくても、最早(もはや)別の物にてはなし。この一念に極(きわ)まり候事を、よくよく合点(がてん)候えば、事すくなくなる事なり。この一念に忠節備わり候なりと。
現代語訳
つまるところ、今この瞬間の一念のほかに何もない。一念一念を積み重ねて一生となる。そのことにやっと気づいた。今この一念を守って暮らすだけである。誰もが真理はどこか別の所にあるとばかり思って探し回り、ここに気づく人はいない。この一念を守り詰めて外れないようになるには、修練を積まねばなるまい。しかし一度たどり着いてしまえば、常に意識していなくても、もう別ものにはならない。すべてはこの一念に極まると、よくよく納得すれば、余計なことが減っていく。この一念にこそ忠節が備わっているのだ。