葉隠 / 聞書第一
諸人一和して、天道に任せて居れば心安きなり。一和せぬは、大義を調へても忠義にあらず。朋輩と仲惡しく、かりそめの出會にも顏出し惡しく、すね言のみ云ふは、胸量狹き愚痴より出づるなり。自然の時の事を思うて、心に叶はぬ事ありとも、出會ふ度毎に會釋よく他事なく、幾度にても飽かぬ様に、心を附けて取合ふべし。
新字:諸人一和して、天道に任せて居れば心安きなり。一和せぬは、大義を調へても忠義にあらず。朋輩と仲悪しく、かりそめの出会にも顏出し悪しく、すね言のみ云ふは、胸量狭き愚痴より出づるなり。自然の時の事を思うて、心に叶はぬ事ありとも、出会ふ度毎に会釈よく他事なく、幾度にても飽かぬ様に、心を附けて取合ふべし。
書き下し
諸人(しょにん)一和(いちわ)して、天道(てんどう)に任せて居れば心安(こころやす)きなり。一和せぬは、大義を調(ととの)へても忠義にあらず。朋輩(ほうばい)と仲悪しく、かりそめの出会にも顔出し悪しく、すね言(ごと)のみ云ふは、胸量(きょうりょう)狭き愚痴(ぐち)より出づるなり。自然の時の事を思うて、心に叶はぬ事ありとも、出会ふ度毎(たびごと)に会釈(えしゃく)よく他事(たじ)なく、幾度(いくたび)にても飽かぬ様に、心を附けて取り合ふべし。
現代語訳
皆が仲よく和合し、天の道理に任せていれば心は安らかである。和合しないのは、たとえ大義を立派に整えても忠義とは言えない。仲間と仲が悪く、ちょっとした出会いにも渋い顔をし、すねた文句ばかり言うのは、器量の狭さや愚かな不満から出るものだ。いざというときのことを思えば、気に入らないことがあっても、顔を合わせるたびに愛想よく分け隔てなく、何度会っても嫌がられないように、心を配って付き合うべきである。
解説
仲間との和合の大切さを説いた一節です。皆が和合して天道に任せていれば心安らかであり、和を欠けば、どれだけ立派な大義を掲げても忠義とは言えないと断じます。仲間と不仲になり、ちょっとしたことで渋い顔やすね言を並べるのは、器量の狭さから来るものだと戒めます。いざというとき互いに助け合う関係は、平時の丁寧な付き合いから生まれる、という現実的な人間観です。武士の奉公は個人の武勇だけでなく、組の団結あってこそ成り立ちました。現代の職場でも、日頃から分け隔てなく愛想よく接しておくことが、危機の際の協力の土台になるでしょう。
この章句が説くこと
和合チームワーク分け隔てなく日頃の関係づくり器量協力の土台